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歌舞伎 の科学
第1177回 2013年5月12日


 江戸時代にはじまり400年以上の歴史を誇る日本の伝統芸能・歌舞伎。とはいえ、一般的にはあまりなじみがなく、内容もわからないという人も…。そこで、今回は歌舞伎の正体を科学で解き明かします。

 ①何を言っているのかわかりにくい歌舞伎の話し方に隠された事実とは?
 ②歌舞伎の派手な化粧に隠された意外な効果とは?
 ③歌舞伎のポーズ・見得!その意味を解き明かす!

①何を言っているのかわかりにくい歌舞伎の話し方に隠された事実とは?

 歌舞伎独特のセリフ回しは何を言っているのかわからない。実は、歌舞伎の台本を見ると、誰もが理解できる日本語だったのです。しかし、これを歌舞伎役者が読むと全くわからなくなってしまう。なぜこんなしゃべり方をするのでしょうか?専門家によると、そもそも歌舞伎は屋外で上演されていたもの。そのため、遠くのお客さんにも声が伝わるような独特の話し方になったのではないか、というのです。でも、歌舞伎の声は本当に遠くまで聞こえるんでしょうか?
 そこで、歌舞伎の声は本当に遠くまで聴こえるのか?実験!声を出すタイミングや周りの人の動きに影響を受けないよう目隠しをした人を20メートル地点から5メートル間隔で100メートルまで配置。声が聞こえたらすぐに赤い旗を上げてもらいます。声を出すのが、一般人、舞台俳優、そして歌舞伎役者です。出す声は母音の単語「あ」。事前に騒音計で3人の声の大きさも合わせます。
 まず一般の人の声は、40メートル。続いて舞台俳優の男性の声は65メートル。そして歌舞伎役者の声は楽々100メートル先まで聴こえたんです。歌舞伎の声は一般の人の2・5倍以上も遠くまで届くことがわかりました。なぜ、歌舞伎役者独特の声は遠くまで聴こえたのでしょうか?東京工芸大学工学部メディア画像学科・森山准教授に歌舞伎役者の声を分析してもらうと、「3000ヘルツの周波数帯域の音がたくさん含まれている。ここは人の耳が最も敏感な帯域なので、この声は人の耳に良く届きやすい性質がある」。比較のため、実験に参加した一般の人の声も分析してみても、歌舞伎の声は3000ヘルツ付近がより多く含まれていることがわかります。と言う事は、歌舞伎の声から3000ヘルツ付近の周波数を取り除くと、遠くまで聴こえなくなるのでしょうか?実際に声を作ってもらい、音量を同じにしたスピーカーを使い先ほどと同じ実験をしました。
 まずは加工前の歌舞伎役者の声。聞こえた距離は80メートル。続いては、3000ヘルツ付近を取り除いた声。その結果は、55メートル。3000ヘルツ付近の周波数があることで声はより遠くまで聴こえたのです。3000ヘルツ付近の周波数というのは、声の輪郭を作る周波数。だからこの周波数が多く含まれると声がくっきりとして届きやすく、逆に少ないと輪郭がぼやけ、こもった声になって届きにくいんだそうです。

所さんのポイント
ポイント1
歌舞伎の声が遠くまで聞こえた理由は、声に3000ヘルツ周波数帯域を多く含むからなのだ!

②歌舞伎の派手な化粧に隠された意外な効果とは?

 歌舞伎のトレードマークといえば派手なメイク。でも、なぜこんな派手な化粧をするのでしょうか?専門家によると、この化粧「隈取り」は役柄を表すのだそう。役により使われる色が決まっているんです。正義の見方、ヒーローは「赤」。悪人には「青」。というのが決まり事。でも色の違いで、役柄が表現できるのしょうか?そこで、保育園にお邪魔して実験!
 同じ隈取りの模様で色だけを赤と青に変えた2人に、子どもたちの前で箱の中から顔だけを出してもらいます。実験に参加してもらうのは31人の年長さん。子どもたちは色の違う歌舞伎メイクのどちらをヒーローと思うのか?すると…31人中23人が赤い隈取りを正義のヒーローと判断したのです。この理由を色彩の専門家に伺うと、赤は古くから神秘的な力を持つ色とされ、神社の鳥居が赤なのも「魔よけ」の意味があるそうなんです。歌舞伎のメイクには、色だけで役柄を表す意味があったんです。

ちなみに、他にも歌舞伎のメイクは以下のとおり。
 ①火焔(かえん)隈 燃える炎の赤い隈が勇気や正義感を表すヒーロー
 ②公家隈 大悪人の隈。歌舞伎では公家は悪人の設定で青
 ③変化隈(土蜘蛛)妖怪のキャラ。茶や黒に塗られるこの変化隈、スターウォーズの悪役ダースモールの元にもなったそう。

所さんのポイント
ポイント2
歌舞伎の化粧は色だけで役柄を表していたのだ!

③歌舞伎のポーズ・見得!その意味を解き明かす!

 歌舞伎の醍醐味と言えば…動きを止めてポーズを取る「見得」。効果音も入り、さらに客席からも声が掛かる歌舞伎最大の見せ場。でも、なぜ動きを止めてポーズをとるのでしょうか?専門家によると、「現代で言うクローズアップと同じ。客がザワザワしている所で、ここだけは観てくれという場面をストップモーションで形を決める」とのこと。クローズアップとは、被写体を強調して見せる手法のこと。歌舞伎の場合は、動きを止める事でクローズアップと同じ効果をもたらすのだというんです。つまり、動きを止めると注目が集まるということ。
 そこで実験!ショッピングモールに、再現ドラマの打ち合わせと嘘の理由をつけ、エキストラの皆さんに集まってもらいました。実験の仕掛人は、清掃員に扮した歌舞伎役者さん。歌舞伎の「見得」と同じように、清掃作業中に突然、動きを止めてもらいます。これで注目が集まれば、クローズアップの効果があったことになります。
 何も知らないエキストラがディレクターとの待ち合わせ場所へ。そこへ、清掃員に扮した歌舞伎役者の登場。始めは掃除をしている姿をエキストラの二人は全く気にしていません。そして、仕掛人の動きがスローになっていき…動きがストップ!歌舞伎で言う見得の瞬間です。すると、エキストラの二人の目は清掃員に注目。それまで見向きもしなかったのに完全に見ています。その後も別のエキストラで実験した結果、突如止まりだした清掃員に皆が注目したのです。なぜ動きを止めると注目するのでしょうか?専門家によると、「ヒトは、環境の変化に敏感。それはその状況に対処しなくてはいけないから。今いる環境で自然の動きをしている場合は無視されるが、そうでないと、何かあったのか?と注意が向く」。歌舞伎の見得には、観客の注目を集める効果があったのです。

所さんのポイント
ポイント3
歌舞伎の大事な場面で人を引き付けるために何百年も前から、クローズアップと同じ効果をもたらす手法がとられていたのだ!




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