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人間国宝 の科学
第1329回 2016年6月5日


 現在、人間国宝は111人。その平均年齢は78歳!ご高齢にも関わらず、元気で若々しい方ばかり。でも、最高峰の仕事を長年続けていると、体に負担がかかるように見えますが、一体どうやって健康を保っているのでしょう?
 そこで、今回の目がテンは元気な人間国宝の技や暮らしぶりを通してその健康の秘訣に科学で迫ります!

①鍛金の人間国宝

 東京・千駄木。金属を叩く音の先にいらっしゃるのが田口壽恒さん、76歳。田口さんは鍛金の技術で10年前、人間国宝に認定されました。鍛金とは、カナヅチで叩くことだけで形を作っていく技法。プレス機などの機械は一切使いません。40年前。田口さんは、当時ほとんど使われていなかった"朧銀"(おぼろぎん)という素材に挑みました。硬くて、脆いという少しのミスも許されない素材を叩き続けること半年以上。見事、正確に打ち上げ、作品として仕上げることに成功。新たな素材を開拓した功績が評価され人間国宝に認定されました。
 現在、銅の器づくりに取り掛かっている田口さん。まずは銅板を丹念に打ち上げ、薄く伸ばしていきます。銅板を打ち鍛えることで、金属の密度が高くなり、金属を溶かして流し込む鋳造よりも、固くて腐食しにくくなるそうです。納得のいく作品に仕上がるまで、長い時間をかけ、ひたすら打ちあげていきます。例えば銀製の食器は完成まで3ヶ月かかるそうです。
 20歳で職人となり、この道56年の田口さん。今でも、ほぼ毎日8時間ほどカナヅチを振り続けているそうですが、体は元気そのものだそう。どうして健康を保ち続けていられるんでしょうか?その秘密が、カナヅチに巻かれた黄色いテープにあると言うんです。実は、田口さんの趣味は軟式テニス。その競技歴は、なんと職人歴よりも長い60年以上!でも一体、テニスにどんな効果があるのか?高齢者の健康に詳しい、白澤先生に聞いてみると…テニスをやっていることによって、大きな可動領域を保つことによって、その中で余裕を持って、関節を動かせていることが、この歳までこの仕事を続けられた最大の理由とのこと。

所さんのポイント
ポイント1
腕や肩を酷使する人間国宝の健康法は、長年、続けている軟式テニスだったのだ!


②歌舞伎舞踊の人間国宝

 東京・新宿。今回お邪魔したのは歌舞伎舞踊の人間国宝・西川扇蔵さん、87歳。5歳で初舞台を踏み、7歳で十代目を襲名。海外でも公演を成功させるなど、様々な功績も評価され、60歳の時に、人間国宝に認定されました。87歳というご高齢にも関わらず、元気に舞台を動き回る若々しさ。なぜこんなにお元気なんでしょうか?その秘訣を探るため、1日密着!
 その様子を白澤先生に診てもらい、健康に良いと思われるポイントを分析してもらいます。朝、6時半、起床。着替えた後に始めたのは、毎日の日課だという布団の片付け。お弟子さんがいるにも関わらず、自分のことは自分でやるといいます。その様子を見ていた白澤先生が注目してのは「中腰」。足腰を鍛えてないと、布団は重さがありますので上げ下げができない。日常生活の中で足腰が鍛えられているとのこと。実は、西川さんの自宅は4階建て。しっかりとした足取りで、苦にする様子もなく階段を自在に上り下り。これも足腰の強さの秘密。
 7時、朝食の時間です。本日のメニューは、ちらし寿司に味噌汁。ワカメの酢の物など。実は健康の秘訣は西川さんの食べ方にあるといいます。黙々と、しっかり噛んでいますよね。 ご飯を一口食べるのにも…とにかく噛みまくります。その回数を数えてみると、およそ50回!大根の漬物に至っては…なんと100回以上!さらに、あまり噛む必要のなさそうな大根おろしさえも…25回!しっかり噛むことは若々しさを保つことに繋がるだけでなく、踊りにも良い効果があるといいます。
 9時。稽古の時間です。朝から8時間。代わる代わるお弟子さんに稽古をつけていきます。立ったり座ったり、細かなステップを踏むなど、激しい動きの多い日本舞踊。大変な踊りも楽々こなす87歳の人間国宝。実は、この強く踏みしめる動作と咀嚼力には深い関係があるといいます。白澤先生によると、足をしっかり打つとかそういう動作をするときには、歯を食いしばってやった方が連動して足も踏ん張れる。毎日毎日、稽古して下半身を鍛えていることと連動して咀嚼力を維持している。咀嚼筋を維持してることを、日常の中に盛り込んでいる、とのこと。
 そこで、本当に咀嚼力が維持されているのか検証です。用意したのは、咀嚼力判定ガム。これは1秒1回のペースで60回噛むと、色の変化で噛む力がわかるガム。強く噛むほど、もともと緑色だったガムが赤く変化します。噛んだガムに透明なシートをかぶせ平らに伸ばします。そして、ガムの色を判別する装置で計測。ちなみに22歳〜35歳男性の平均は「6」。そして87歳、西川さんの値は…「7」!若い男性と比べても、噛む力が強かったんです。本日のメニューは大好きなトンカツ。高齢になると食べにくくなるお肉ですが、強く噛みしめ、難なくたいらげます。

所さんのポイント
ポイント2
どんなものでもバランス良く食べられる強靭な咀嚼力、それと連動する足腰の強さが西川さんの健康の秘訣だったのだ!


③木工芸の人間国宝

 石川県、加賀市。お邪魔したのは木工芸の人間国宝、川北良造さん、81歳。1994年、60歳の時に人間国宝に認定。これまで大きな病気もせず、現在も現場の第一線で活躍しています。今回は器作りを見せてもらいます。まずは、ロクロで回転させた木材をカンナで削り出していきます。続いては、器の外側にカンナを当て、なめらかな曲線を生み出す作業。手元の繊細な感覚を駆使したミリ単位の技術です。今度は、器の内側を削ります。ここで重要なのが器の厚み。丈夫さと軽さを兼ね備えるための絶妙な厚みを見極め、削っていきます。少しでも納得のいかない工程があれば、イチからやり直し。高い緊張感を持ってのぞんでいます。仕上げにヤスリをかけ、面全体をよりなめらかにして、最後は指先で、表面の仕上がりを確認!
 そして、自ら漆を塗り上げ、完成した「山中漆器」。川北さんは、木目の美しさを活かすよう、漆の塗りにもこだわり抜いています。川北さんのスゴサがわかる作品が、お香を入れる器。一見、丸い模様のついた普通の器に見えますが、実はこの模様、細い線がたくさん集まって出来ていたんです。そこで、どれほど細かく刻まれているのかファイバースコープで覗いてみると…なんと1ミリの間に6本の線が!つまり、0.16ミリ間隔で線を挽くという神業だったんです!これは「筋挽き」という技術で、いかに細い線が挽けるかで、その職人の力量が分かるといいます。何よりも集中力を大事にしている川北さん。そのために、心がけていることが、食事にあるといいます。川北さんによると「うちの家訓として、“腹八分目”」とのこと。
 そこで、番組では川北さんに説明し、食事の量が集中力に影響を与えるのか?検証実験にご協力頂きました。 川北さんにやってもらうのは5色のチョコレート250粒を、片手で50粒ずつ分け、そのタイムを測るというテスト。まずは食事の前に行ったときのタイムは…5分13秒でした。
 続いて、ご自分の感覚で、いつもより多めに食事をとってもらいました。結果は5分38秒。食事の前よりも25秒遅くなりました。満腹だと集中力が発揮されない理由を専門家に伺うと「たくさん食べると、消化管にたくさん血液が流れてしまって、エネルギーが脳に分配されない。そうすると集中力が保てない」とのこと。

所さんのポイント
ポイント3
腹八分目の家訓が人間国宝の技術を守っていたのだ!




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