放送内容

第1374回
2017.05.07
かがくの里・田舎暮らし の科学 場所・建物 地上の動物

 自然がテーマの科学者たちが未来につながる楽しい田舎暮らしを目指す長期実験企画「かがくの里」 阿部出張研究所、養蜂プロジェクト!

ミツバチを学ぶ

 4月中旬、養蜂を学ぶため阿部さんが向かった先は玉川大学。ここはハチミツなど人間に利益をもたらすミツバチの研究を60年以上行っている日本有数の研究機関です。ミツバチの専門家・小野正人教授は集団で生きる蜂同士が行っている匂いやフェロモンを利用したコミュニケーションを研究。数々の賞を受賞されている蜂研究の権威。さらに、ミツバチの脳機能を研究している佐々木教授と、ミツバチの行動がどんな意味を持っているか調べている原野准教授も同行。研究内容はそれぞれですが、皆さんミツバチの生態を知り尽くすプロフェッショナル!科学的に養蜂のイロハを教えてくれるんです!

 向かった先にはミツバチの巣箱!ミツバチは、ハチの中でもかなり穏やかな性格。でも、刺さされることもあるので巣に近づくときはこのような白い防護服を着ます。これで安全対策はバッチリ!巣箱を開けるところで、原野先生がもってきたのは落ち葉などを燃やし、煙を発生させる燻煙器という道具。煙をかけると虫って逃げ出しそうですけど、蜂は煙を浴びると蜜を飲むんだそう。理由はまだ解明されていないそうですが不思議な習性。飛び回って襲ってくるときには体が軽い方が素早く動ける。蜜を沢山飲むと素早く飛び回ることもできなくなってしまうんです。

 それでは、巣箱をオープン!中にはおよそ2万匹ものミツバチたちがいるんです!実はこの巣箱、養蜂用に管理しやすいように作られています。野生のミツバチは洞窟などの空洞にこんな巣を作ります。一枚一枚を巣版と言い、全体でひとつの巣。自分の体からロウを出して作るんですって。一方、今見ているのは、このひと箱が巣。そして、巣版が木枠に収まっているんです。

 実はコレ、養蜂業界ではスゴイ大発明!その理由はハチミツを採取するときにあります。自然にできる巣からハチミツを採ろうとした場合巣版をパキっと外したら最後、元には戻せませんよね?でも、この木枠が巣版であれば、蜜を取り出して元に戻すことができるんです!ではどうしてミツバチたちは都合よくこの木枠に巣を作ってくれるんでしょう?すると先生が見せてくれたのは、蜂が巣を作る前の木枠。実はコレ真ん中にミツバチが出したロウを薄くプレスした板が貼ってあります。この表面を見てみると浅い6角形の凹凸がありますね。ミツバチはこの6角形の溝に合わせて蜂が体からロウを分泌して盛り上げ巣を作っていきます。なので、この発明により、巣を全部壊す必要がなくなったためミツバチたちが巣を一から作り直していた時間をハチミツ集めに充てられるようになり収穫量が上がったんです!

 今度はこの6角形の巣部屋を見ていきます。さなぎが成虫になると蓋がはがされ、巣穴から這い出てくるんですが…まさに、羽化した蜂が穴から出ようとする瞬間に立ち会いました。この子はこれから忙しく飛び周りおよそ1か月の短い寿命を、懸命に生きていくんです。
 さて、肝心のハチミツは端っこの方にありました。自然界で最も甘いと言われる蜜。ハチミツ。でもこの状態はまだ完成していないんです。小野先生によると「光っているハチミツは水分が多い。ミツバチは羽で羽ばたいたりして水分を飛ばし糖度が80%くらいになるまで濃縮させる。濃縮し終わると蜜が完熟しましたよと、蓋をかけるそれが完成した蜜」とのこと。ミツバチの手によって完成したハチミツは水分がほとんどないため、微生物が生きられず腐らないんだそう。巣部屋にはもう一つ重要なものも入っていました。それが花粉。ミツバチたちが集めるのはミツだけではありません。花から蜜を吸うのと同時に、足に花の花粉をつけ、それをお団子にして持って帰ってくるんです!蜜は炭水化物。ハチが動き回るためのエネルギー源となります。一方花粉はたんぱく質。主に幼虫に与えて成虫になる体を作ります。

ポイント1

花粉はあらゆる栄養素が豊富に含まれており人間にとってもバランスが採れた栄養源なのだ!ただ味は微妙なのだ!

ミツバチの生態

 基本情報として、巣の中には女王蜂が一匹と無数の働き蜂がいます。これらの働き蜂はすべて、一匹の女王蜂が産みます。そして、この働き蜂はすべてメス!
 では、オスは何をしているのか?巣箱の中で一際大きなハチがオス蜂。オスには針がありません。針は産卵管の一部が武器として変化したもの。なので卵を産まないオスは針がないんです。しかもオスはメスに比べて数が非常に少ない。繁殖の時期を迎えるとオスは増えていくけれど、花にもいかないし蜜も集めません。新しい新女王蜂と結婚、交尾をすることだけがオスの仕事なんです。オス最高の人生・・・って思いきや、オスは交尾をしてしまうと一瞬で死んでしまいます。もし交尾ができないと、そして繁殖期が終わってしまうと巣から追放されてしまいます。
 春になると、新しく生まれた女王蜂が交尾飛行に飛び立ちます。そこで必要となるのがオス蜂。女王蜂は、一生に一度の交尾飛行で数十匹のオスと交尾して精子を貯めるんです。交尾を終えた女王蜂は、巣に戻り一生卵を産み続けます。その数は1日およそ2000個!

 その女王蜂がこちら。大きなお腹の中ほとんど卵巣です。この女王蜂、幼虫の時は遺伝子的に他の働き蜂と全く同じメス蜂なんです。しかし、産み付けられる場所が違います。それがこの王台と呼ばれる特別な巣部屋。ここに産み付けられる幼虫が女王蜂候補となります。この王台で育つ幼虫は特別なエサ、ローヤルゼリーが与えられます。ローヤルゼリーを食べて育つと女王蜂の性質を持つ蜂となるんです。一つの巣に女王蜂は一匹しかいれないが、巣の中には4つくらい王女がいる。最初に出てきた王女が他の王台の中で育っている妹を殺してしまいます。これで、一つの巣箱に女王は一匹を保つんです。では、王女を産んだお母さん蜂はどうなるのかというと、王女様がさなぎになって羽化まぢかになると、働き蜂を半分くらい連れて巣を離れます。これを分蜂と言います。こうして旧女王蜂と働き蜂は別の場所に巣を作り新たな女王を産みます。女王蜂はおよそ3年の寿命の内に巣を増やし続けていくんです。

ポイント2

働き蜂の寿命は1ヶ月、女王蜂は3年、オスは交尾したらすぐ死ぬのだ…

幻のハチミツを作る名人

 玉川大学で見たミツバチはセイヨウミツバチというヨーロッパから輸入された蜂。現在、日本で市販されているハチミツのほとんどは、そのセイヨウミツバチから採取したハチミツなんです。日本には在来種の二ホンミツバチもいます。北海道をのぞく全国に生息している野生のミツバチ。日本にセイヨウミツバチが輸入される1850年代以前、養蜂は二ホンミツバチで行われていました。でもどうして現在は、外国生まれのセイヨウミツバチのハチミツばかり売られているんでしょう?小野先生によると「蜜というのはハチが長い冬を超えるために備蓄するもの。寒い地域に適応しているセイヨウミツバチは貯蜜が非常に効率よくできるけど、二ホンミツバチは少し蜜を貯める力が少なかったり、野性味が強いのでなかなか難しいということもあって産業にまで到達しなかった」とのこと。しかし、和歌山県の山間部に二ホンミツバチの伝統的な養蜂が現在にも残っているんだそう。

 そこで阿部さん、今度は和歌山へ出張研究!やってきたのは、東牟婁郡古座川町。こちらが二ホンミツバチの伝統養蜂を行っている名人の中路さん77歳。名人は山一帯で養蜂をやっているとのこと。中路さんについていくと、指さされた先には、崖の上に置かれた丸太が。一歩間違えば転落の恐れもある急斜面を歩き近づきます。風で倒れないように置かれた重しをどかすと…丸太の中から出てきたのは二ホンミツバチ!巣はセイヨウミツバチで見た木枠はなく、すべてミツバチのロウでできています。

 ミツの貯まる7月頃、巣の1部だけを切って取り出しハチミツを採集するんだそう。実はここで行われている養蜂。このゴーラと言われる中をくりぬいた木を置いておくだけのもの。春になると分蜂し新たな巣を探す野生のミツバチが自然に入るのを待つというやり方。だから、山一帯が養蜂場だったんです。でも野生種である二ホンミツバチ、本来は警戒心が強く、ただのゴーラではあまり巣を作らないんです。しかし名人の中路さんはゴーラを山中に70個ほど仕掛けそのほとんどに蜂が入っているんです!

 実はそこには秘密が…こちらは、中路さんが使う、一度ミツバチが暮らしたゴーラ。木の底には、巣があった証拠。白い跡がついています。長年この伝統養蜂を続ける中路さんのお宅には、それがたくさん!そこで阿部さん、ずうずうしくも、ダメ元で譲って欲しいとお願いすると、名人「ふんどしもクソの付き合いゆーてね、よっしゃ提供しよか!」と譲っていただけました!

ポイント3

名人ありがとうございます!今年かがくの里ではセイヨウミツバチ、二ホンミツバチ両方の養蜂を始めるのだ!