放送内容

第1429回
2018.06.10
秋田犬 の科学 地上の動物

 今年2月の平昌オリンピック、女子フィギュアスケート金メダリスト、ロシアのアリーナ・ザギトワ選手がご褒美に欲しがったことで一躍話題となった…秋田犬。では、ザギトワ選手を魅了した秋田犬とは、一体どんなイヌなのでしょうか!?
 そこで!秋田犬の“知られざる魅力”を徹底検証!ただカワイイだけじゃない!ほかのイヌとは違う、秋田犬ならではの“ある性質”とは!?さらに、ご存知「忠犬ハチ公」。実は秋田犬だったんです。いなくなった飼い主を待ち続けるのは本当なのか!?“ハチ公伝説の謎”が検証で明らかに!
 今回の目がテンは、いま話題!秋田犬の魅力を科学します!

秋田犬はどんなイヌ?1

 モフモフの毛並みとつぶらな瞳がキュートな「秋田犬」。中でも、いま最も注目を集めているのが、今年5月、ザギトワ選手に贈られた秋田犬。名前は勝利の意味を込めてMASARU。生後3ヶ月、赤毛の雌犬です。
 そんな可愛らしい秋田犬ですが、実は大型犬。大人だと、オスの体高は、なんと平均67センチ。平均的な秋田犬と、柴犬の大きさを比べてみると、こんなにも大きいことが分かります。ピンと立った三角の「立耳」や、クルリと巻かれた「巻尾」も特徴なんです。そんな秋田犬の魅力について、飼い主の方に聞いてみると、
 「やっぱり優しいところ。特に飼い主に対してはすごい従順」
 「秋田犬は、ハチ公もそうですけど、待つ犬。他の人にはあんまり懐かない。」
 どうやら秋田犬は、“飼い主だけ”に忠実なんだそう。これについて、イヌの行動学を研究する帝京科学大学の今野先生に聞いてみると、秋田犬の行動というのは、オオカミの遺伝子に近い要素を持っているというんです。

 でも、そもそも秋田犬はどのようにして誕生したのでしょうか?
 遡ること、1万5000年前。当時、東アジアに棲息していたイヌの祖先・中国オオカミがイヌへと分岐。縄文時代になると、イヌは人と共に、日本列島へと渡ります。その後、各地で狩猟犬として活躍し・・・島国で海外との交流も薄かったため、江戸時代までは、日本のイヌに地域差はなかったと言われています。ところが明治時代になるとヨーロッパ諸国から多くの西洋犬が導入され、日本のイヌとの交配が行われました。特に、江戸時代から闘犬文化が根強く残っていた秋田県大館地方では、より強いイヌを生み出すため、交配が繰り返し行われ・・・中型だった体の大きさが大型へと変化。するとこれを受け、日本犬本来の姿を守るべく、大正時代に保全運動を開始。そして昭和6年。本来の日本犬の要素を持ち、唯一の大型犬である大館地方のイヌは“秋田犬”として天然記念物に指定されました。

 こうした動きは日本各地で起こり現在、秋田犬以外に6種もの日本犬が、天然記念物となっているんです。

秋田犬はどんなイヌ?2

 秋田犬が“オオカミに近い”とは一体どういうことなのでしょうか?今野先生によると、一般的に多くの人が飼っている西洋の犬は、進化の過程で、人とうまく付き合うための交流術を身につけたといいます。
 その1つが人に対して目で訴えかけるという行動。一方、日本犬の秋田犬は、祖先型犬種と言われ、人に対して頼る、要求するような行動はあまり見られないという特徴があるといいます。ここで今野先生が、オオカミが必死にケージの中にあるエサをとろうとしている映像を見せてくれました。オオカミは、人里から離れた荒原や森で暮らしています。自分たちの力で、なんとかして獲物をとる、そういう能力の方が重要だったと考えられており、秋田犬はオオカミに近い遺伝子を持っているので、オオカミと似たような行動をとることがあるといいます。

 では本当に、秋田犬はオオカミと同じような行動をとるのでしょうか?今野先生監修の元、検証します。用意するのは、イヌのおやつとケージ。おやつをケージの中に入れ、扉が開かないよう、鍵を閉めます。自力では開けられないこの状況で、イヌはどのような行動を取るのか?観察します。

 今回、秋田犬と比較するため、西洋犬のヨークシャー・テリアと、ゴールデン・レトリーバーにも検証に参加してもらいます。
 まずはヨークシャー・テリアのメイちゃん。検証中、飼い主にはケージの近くにいてもらいます。それでは、検証スタート!するといきなり、大好きなおやつめがけて一直線!が、しかし・・・早くも飼い主の元へと逆戻り。何かを訴えかけるかのように、座り込むメイちゃん。その後も、自力でおやつを取ろうとせず飼い主を見つめ続けていました。

 続いては、ゴールデン・レトリーバーのマロンくん。検証スタート!
 マロンくんも、一目散におやつの方へ。しかし、ケージは開きません。すると、なぜかケージの周りをウロウロし・・・こちらも自力では取れないと判断したのか、飼い主におねだり。その後も、マロンくんはたびたび飼い主の方を見つめては、おやつのおねだりをし続けていました。

 それではいよいよ、秋田犬の花舞姫(はなまいひめ)ちゃんの登場。果たして、本当にオオカミと同じような行動をとるのでしょうか!?
 それでは検証スタート。花舞姫ちゃん、いきなりケージの前に座り込み、おやつの臭いを嗅いでいます。そして正面へ回り込み・・・手を使って、強引に扉を開けようとしています。

 その後も、飼い主に頼るそぶりは一切見せず自力でおやつを取ろうと奮闘。たしかに秋田犬は、オオカミに近い行動をとっていたんです。

秋田犬の人気の秘密とは?

 日本人なら誰もが知っている忠犬ハチ公。実は・・・ハチは、秋田犬だったんです。大学教授の主人を、渋谷駅まで送り迎えするのが日課だったハチ。しかし…ある日、主人が外出先で急死。主人が亡くなった後、ハチは親類の家へと預けられますが…主人を慕い、逃げ帰ります。主人が亡くなった事を知らぬまま、ハチはおよそ10年もの間、渋谷駅に通い、主人が帰ってくるのを待ち続けました。この飼い主に忠実な姿が人々に感動を与え、ハチの没後80年以上経った今もなお、"ハチ公伝説"として語り継がれています。
 でも、本当に秋田犬は飼い主に忠実なのでしょうか…?そこで!ハチ公伝説の謎を解明するため、再び今野先生に協力してもらい、ストレンジシチュエーションテストという、人とイヌの間にある愛着を測定するテストを行います。

 今回は、イヌが初めて訪れる不安な場所で、飼い主と見知らぬ人、それぞれに対し、どれだけ愛着のある行動を示すか観察します。 検証を行うのは、イスが置いてあるだけのシンプルな部屋。ここに、イヌと飼い主、そして見知らぬ人が一緒に入ります。その後、まずは飼い主が退出し、イヌは見知らぬ人と同じ部屋で過ごします。そして、飼い主が戻り、見知らぬ人が退出。今度は、イヌと飼い主が同じ部屋で過ごします。この時のイヌの行動を観察し、イヌが人に対し愛着を感じているかどうかこちらの5つの行動でチェックします。
 1 入退出時、ドアの方を見る
 2 入退出時、後を追う
 3 退出後、ドアの前で待つ
 4 顔を見る
 5 イスに座っている時に近づく

 当てはまる数が多いほど、愛着度が高いという証拠です。

 観察中は、飼い主と見知らぬ人で、それぞれ愛着度にどのような違いが出るかチェックします。今回は、ちば愛犬動物フラワー学園協力の元、秋田犬のほか、西洋犬2匹にも 検証に参加してもらいます。
 まずは、シェットランド・シープドッグのフィブくん。一体、どんな行動をとるのか?フィブくんと飼い主、そして見知らぬ人が部屋に入り、フィブくんが落ち着いたところで検証スタート。
 まずは飼い主が退出。すると…飼い主に近づいていきます。ここで、飼い主への愛着行動、3つチェック。退出すると、今度は見知らぬ人の方に自ら近づいて行きます。見知らぬ人への愛着行動、2つチェック。
 今野先生によると、よくあるパターンで、不安を抑えてもらおうと、知らない人の方に行ったそうです。
 ここで飼い主が部屋に戻ります。そして、見知らぬ人が退出すると、ついて行きます。見知らぬ人への愛着行動、2つ追加。それほど、飼い主さんとリアクションが違うかというと、そんなに違わない面があります。最後は飼い主へ近づき、1つ追加。
 結果、飼い主への愛着行動は4つ当てはまったので、愛着度4。一方、見知らぬ人への愛着度も同様に4。

 フィブくんは飼い主と見知らぬ人に同じような愛着行動を示しました。

 続いては、ラブラドール・レトリーバーのベルちゃん。
 まずは飼い主が退出。ここで飼い主への愛着行動、3つチェック。その後、飼い主がいなくなると部屋の中をウロウロ。すると…見知らぬ人の顔を確認。今度は飼い主が部屋に戻り、見知らぬ人が退出しようとすると、見知らぬ人への愛着行動、1つ追加。その後、先程と同じように部屋の中をウロウロし、愛着行動は見られませんでした。
 結果、飼い主への愛着度は3。そして見知らぬ人への愛着度は2と、こちらは、飼い主への愛着度がやや上回るという結果に。

 では、いよいよ秋田犬の登場です。検証に挑むのは秋田犬のガジュマルくん。飼い主さんによると、秋田犬は1オーナードッグと言われていて、家族で飼っていてもリーダー1人を決め、誰にでも懐くのではないといいます。果たしてガジュマルくんはどんな行動をとるのでしょうか!?
 まずは飼い主が退出。すると…一緒について行こうとし、飼い主が出た後もずっとドアの前にいます。ここで早くも、飼い主への愛着行動は4つチェック。そのまましばらく観察を続けると、ガジュマルくんは、ドアの前から1歩も動こうとしません。

 今度は飼い主が部屋に戻ります。するとすぐについて行き、尻尾を振って喜んでいる様子がわかります。そして、見知らぬ人が退出しますが、ドアの方をチラッと見ただけ…。その後は、飼い主のそばから、離れようとしませんでした。飼い主への愛着行動、もう1つ追加。
 結果、飼い主への愛着行動は、全ての項目が当てはまり、愛着度5!一方、見知らぬ人への愛着度は1でした。

 さらに、秋田犬の大和くんでも検証を行うと、先程のガジュマルくん同様、飼い主の退出後はまるでハチ公のようにじっと待ち続けます。そして・・・大和くんも、飼い主だけに愛着行動を示しました。
 結果、こちらも愛着度はパーフェクト、見知らぬ人への愛着度は1という結果に。

 では、なぜこのような結果になったのでしょうか?
 今野先生によると、イヌという動物は、愛着を持つこと自体がイヌらしい行動と言われていましたが、今回のことで西洋犬は、自分にフレンドリーに接してくれる人であれば、愛着意欲の行動を持つ可能性が見られ、一方で秋田犬は、遺伝的にはオオカミに近い要素を残していて、オオカミを含めた野生動物は見知らぬ人や見知らぬ動物については厳しく対応する。内と外を明確に分けるという特徴が、今回の秋田犬では明確に見られたので、オオカミの遺伝的なところを少し残していることが影響しているのかもしれないとのこと。
 秋田犬は特定の飼い主だけに忠実で、まさに忠犬ハチ公のような行動を取っていたんです!