放送内容

第1431回
2018.06.24
そうめん の科学 食べ物

 夏になると無性に食べたくなる「そうめん」。一般に流通しているそうめんは、直径1mmのものが多く、実は世界に流通する麺の中で“最も細い”と言われているのです!そんな夏の風物詩ですが、買い置きやお中元で余りがちになることも…。
 そこで今回は、そうめんの細さの秘密や古いそうめんの意外な事実に科学の力を使って迫ります!

細さ0,4mm!“幻の極細そうめん”

 世界で最も細い麺と言われるそうめんですが、極限まで細さを追求したそうめんが存在します。その名も「ゆきやぎ」。細さは、スーパーなどで売っている一般的なそうめんのおよそ半分ほどの0,4mm!

 小麦粉の専門家、工学院大学の山田昌治教授に試食してもらうと、一本一本が非常に歯ごたえが強く、先生をもってしても衝撃的な食感だそうです。
 この極細そうめんの“細さの秘密”を探るべく、向かったのは熊本県熊本市。この道50年のそうめん職人の古瀬さんが、「ゆきやぎ」を作っています。その作り方を見ていくと…まず朝一にチェックするのが、その日の温度と湿度。そうめんの材料は小麦粉と塩と水。長年の経験と勘を頼りに、気候に合わせて塩水の濃度や量を変えます。その季節に応じて塩度を変えていかないと、そうめんが切れてしまうそうです。さらに古瀬さんは、使う小麦粉にもこだわっています。食感と味を良くするために使うのは、グルテンの多い準強力粉。そうめんは、中力粉でも十分にのびますが、極限まで細く長くするためにこの小麦粉にしているそうです。こねた小麦粉は、機械でひとかたまりにして、どんどんのばし、薄くしていきます。さらに、のばした生地は20分ほど寝かせて熟成。この「のばして熟成させる」作業を繰り返すことで、グルテンの結合が強まり、細く歯ごたえがある麺ができるのです。

 そしてその後、麺同士がくっつかないように油を塗りながら、別の機械でさらに細くのばしていきます。麺がかなり細くなってきたら、別の機械で麺を八の字に巻き付けて、また熟成。ここからは、職人の勘が必要な麺を伸ばす作業に。麺の状態は気候条件などで日々変わるため、状態を見極めながらのばし熟成させるのが、極細そうめんを生み出す秘訣です。

 その後、くっついたそうめんを2本の棒で分ける「はしわけ」の作業をスタッフが体験させてもらうと…麺同士がくっつき、うまく開けません。そうめんに使われる強力粉は、くっつく力が強く、分けるのが難しいのです。分けてのばしたそうめんは、この時点で1mmの細さに。

 ここから3時間ほど乾かすことで、水分が飛び縮んで0,4mmの極細そうめんになるのです。
 麺をカットしたら、「ゆきやぎ」の完成。一般的なそうめんでは通せない針の穴もすんなりと通るほどの細さです。古瀬さんいわく、もっと細くすることは可能だそうですが、見た目の美しさと食感と味が残るには、この細さが一番良いのだとか。では、なぜ細いとおいしく感じるのでしょうか?
 古瀬さんは、「ゆきやぎ」がそうめんつゆによく絡むとお客さんからもよく言われるそう。そこで、めんつゆの絡み方を検証!麺をつゆにつけ、重さの変化を計測すると、うどんや一般的なそうめんに比べて、圧倒的に麺が絡むことが分かりました。

 山田先生は、細い麺にすると単位重量あたりの表面積が大きくなるので、0,4mmの「ゆきやぎ」は断トツでめんつゆの絡みが多いと解説。

そうめんは古いほど美味しくなる!?

 街でそうめんに関する悩みを聞いてみると、「お中元でもらったそうめんが余ってしまう」という人が多くいました。ひと夏を越えたそうめんに対するイメージも聞いてみると…味が落ちたり、湿気たりして食べられない、と答える人も多数。
 しかし山田先生によると、そうめんは時間が経つほどおいしいと言われているのだとか。その驚きの理由を探るために、およそ400年前から伝統の手延べ製法でそうめんを作っている、瀬戸内海の小豆島に。この地で35年、そうめんを作り続けている中武さんの倉庫に案内して頂きました。倉庫の中は1年を通しておよそ20℃に管理され、たくさんのそうめんが。

 通常、そうめんは製造から半年後に出荷されることが多いそうです。さらに商品によっては、その期間が多少異なるものも。「古麺」と書かれたそうめんは、なんと約2年もここで寝かせていると言います。その理由を尋ねると、そうめんは寝かせることで硬くなり、歯ごたえがより増すというのです。
 製造から2年目を迎えたものを「古物(ひねもの)」、3年目のものは「大古物(おおひねもの)」と呼び、いずれも特級品として高い値段で売られているのです。では、私たちがよく食べている1年ものと割高な2年ものを食べ比べてみると…歯ごたえが全然違います!さらに、それぞれの抵抗力を科学的に計測してみると、1年ものの麺が切れるときの抵抗力が1.95Nだったのに対し、2年ものはおよそ1.6倍となる3.14Nに。

 山田先生は、その秘密が油にあると言います。そうめん作りでは、麺同士がくっつかないように表面に油を塗ります。こうすることで、梅雨の時期を過ぎると、小麦粉の中の酵素に活性が現れ、油と小麦粉のたんぱく質が結合して食感がよくなるのです。実はこの現象は、家庭にある“余ったそうめん”でも起きていているのです。今年食べきれなくても、封を閉じたまま直射日光を避けて、冷蔵庫などで保存すれば、翌年にはより歯ごたえの増した美味しいそうめんになっているのです!

梅干しを入れると、高級そうめんの食感に!?

 山田先生に伺った、安いそうめんを高級そうめんのような食感にする方法!その方法は、そうめんを梅干しと一緒に茹でる。まず、たっぷりのお湯に梅干しを2~3個ほど入れ、2分ほど煮ます。そしてそうめんを表示時間通りに茹でるだけ。
 それぞれの麺の歯ごたえを計測してみると、普通のお湯で茹でたものは1.55Nだったのに対し、梅干しで茹でたものは2.47N。梅干しを入れるだけで歯ごたえがおよそ1.6倍になるという結果に。

 その理由は、梅干しを入れて茹でると茹で水が酸性になるから。酸性になると、麺のデンプンが溶けにくくなります。麺のデンプンが溶け出すと、麺にスカスカの穴があくので食感が柔らかくなりますが、pH5程度の酸性のお湯で茹でると、デンプンがお湯に溶けにくくなり歯ごたえを保ちつつ、のどごしの良い麺に仕上がるのです。
 さらに山田先生は、“茹でた後”にもポイントがあると言います。そうめんを氷水につけておくと麺が締まるというイメージがありますが、これは間違い。浸けておくと、どんどん水が麺の中に入っていくので、秒単位で食感がふやけていきます。水をよくきって乾いた状態でお皿に盛るのが正しい方法だそうです。

●調理科学の専門家 露久保先生が教えるそうめんのおいしい食べ方!
 露久保先生のおすすめは、めんつゆにオクラを入れて食べる方法。先生に聞くと、「オクラに含まれるペクチンという成分は血糖値の上昇や脂質の吸収をおさえる働きが期待できる」というんです。オクラは茹でずに生のまま細かく刻んでめんつゆに入れることで、成分の流出を抑えることができます。茹で汁に入れていた、梅干しも細かく刻んで一緒にめんつゆに入れるのがおすすめです!