第1章: Mucha the Czech チェコ人 ミュシャ

パレットを持った自画像

《パレットを持った自画像》 1907年頃 油彩・カンヴァス 44 x 30 cm (C)Mucha Trust 2013

ミュシャはこの数年前に正面向きの、やや憂い深げな眼差しをこちらに向けている自画像を描いているが、そこでは胸から上だけで腕は描かれてない。要するに顔だけの自画像で、1905年の印象的な自画像(デッサン)も同様である。これに対し、画家が50歳を迎えようとする頃のこの自画像では視点をやや低く取り、画家としての仕事を強調するため、絵筆とパレットを持った自分を描いている。アメリカ時代の作品であるが、ルパシカというロシア風の上着を着ているのは、スラヴ民族としてのミュシャの民族意識の高まりを暗示しているようである。このルパシカや絵筆、これを持つ手、頭髪などはマネ、印象派風の、細部にこだわらないスケッチ風のタッチであるが、壮年期の充実したエネルギーを思わせる血色のよい顔の部分は、比較的よく描き込んでいる。