第2章: Sarah Bernhardt & the Theatre World サラ・ベルナールとの出会い

ジスモンダ

《ジスモンダ》 1894年 カラーリトグラフ 216 x 74.2 cm (C)Mucha Trust 2013

世紀末のパリに出たものの、鳴かず飛ばずだったミュシャが一夜にしてアール・ヌーヴォーの寵児に躍り出るきっかけとなった作品。当時すでに生きた伝説となっていた大女優サラ・ベルナールのポスターがなぜ無名のミュシャに発注されたかについては諸説あるが、いずれにしても1895年の彼女の正月公演のため、前年の暮れに一気呵成に作られたことは確かである。『ジスモンダ』はサラお気に入りの戯作者ヴィクトリアン・サルドゥーの中世を舞台とする宗教劇で、ジスモンダが手にしたシュロの枝は「シュロの日曜日」というキリスト教の祭日に因む。当時やはりポスター作家として人気を博していたロートレックにもシェレにもないビザンティン風のエキゾティックな衣裳や、サラの印象的なポーズ、モザイクを模したレタリングなどが人気の秘密であったと思われる。