第6章: Visions for Humanity ミュシャの祈り

1918-1928:チェコスロヴァキア独立10周年記念

《1918-1928:チェコスロヴァキア独立10周年記念》 1928年 カラーリトグラフ 121 x 83.5 cm (C)Mucha Trust 2013

祖国に帰ってからのミュシャは生涯をかけた大作《スラヴ叙事詩》に加え、かなりの数のポスターもデザインしている。ただしこれらは私的、商業主義的というより政府や自治体などの注文による公的な性格のものが強い。第一次大戦が終結した1918年、ハプスブルク帝国が崩壊すると、それまでその属領だったチェコスロヴァキアは待望の独立を勝ち得て、共和国としての新たな一歩を踏み出した。これはその独立10周年を記念するポスターである。何か意を決したような強い眼差しで正面を向いた若い女性は新生チェコスロヴァキア共和国を表し、彼女の額に巻かれたバンドにはボヘミア、モラヴィア、スロヴァキアなど、新しい共和国を構成する地方ないし民族のエンブレムが縫い込まれている。彼女の後ろで、彼女に美しい花輪を捧げている女性は第一次大戦の勝利の擬人的表現と考えられる。