展覧会について
  • はじめに
  • メッセージ
  • 男鹿和雄とは
  • 展覧会のみどころ

メッセージ
赤い土 スタジオジブリ プロデューサー  鈴木 敏夫
「となりのトトロ」を作っていたときのエピソードだ。吉祥寺にあったスタジオは、現在と比べると、比較にならないくらい小さなスペースだった。
畢竟、スタッフが机を寄せ合い、ひしめき合って働くことになる。アニメーションの現場は、みんな、机に向かって、ひたすら絵を描くことが仕事なのだ。
例外は無い。宮崎監督だって、同じだ。
宮崎監督は、作品作りに入ると、普段と違って厳しい表情になるが、トトロに限っては、そうでは無かった。「火垂るの墓」と二本立てなので、気が楽だと宮さんが言っていたのを思い出す。
みんなが黙々と絵を描くかたわら、宮さんは、近くのスタッフを相手に、楽しそうにお喋りをしながら絵を描いていた。
突然、大きな怒声がした。
「うるさい!静かにしてください!」
男鹿さんだった。

それだけ言うと、男鹿さんは、脇目もふらず、何事もなかったかのように絵を描き続けた。
スタジオに緊張が走った。だれも顔を上げない。
ややあって、宮さんが静かに立ち上がった。チョークを持って、男鹿さんの机のまわりに、白い線を描く。
ここから入ってはいけない。宮さんは、人差し指を口に当てて、いたずら小僧よろしく、しーっとやりながら、僕を見た。
あとで考えると、よくわかる。
男鹿さんは、ジブリ作品は、はじめての参加だった。緊張しない方がおかしかった。
男鹿さんの描いた絵を見て、宮さんがひとつだけ、注文を出したこともよく覚えている。土の色が違うというのだ。関東ローム層は土が赤い。しかし、男鹿さんの描く土の色は黒いのだ。これには、理由がある。男鹿さんを育てた秋田の土は黒いのだ。
男鹿さんが、宮さんの注文に応えようと、土を赤くしようと努力していた日々が懐かしい。
メイを探してサツキが歩き回る風景が忘れられない。背景の絵だけで、“時間経過”を表現する。見事だった。
こうして、名作「となりのトトロ」が誕生した。
いまから20年近く前、男鹿さんがまだ、30代だったころの話である。
すずきとしおのサイン

特別メッセージ
すべてに命が宿っていました。 女優  吉永 小百合
吉永 小百合男鹿和雄さんとの出会いは1996年でした。広島や東京の学校などで、原爆詩の朗読を始めて10年が過ぎた頃です。
その年、私はもっともっと多くの人々に原爆詩の存在を知ってほしい、そして、被爆者の心からの思いを聞いてほしいと願って、これらの作品を収めたCDの制作を始めていました。
被爆者が残した数多くの詩を読み、最終的に12編を選びました。CDのタイトルは「第二楽章」です。戦後50年。これからは反核、平和を訴えていくには大声で叫ぶのではなく、穏やかに静かに語りかけていくほうがよいと思い、あまり悲惨な詩は避けました。
表紙は「絵」と決めていました。やさしく、温かい絵。
原爆関係の絵は、悲惨なものがほとんどです。でも、私が望むのは飾ってもらえるような美しいものでした。
そんな絵を描いて下さる画家を探して、時間があれば本屋のハシゴをしました。しかし、なかなか見つけることはできません。
ある時、スタッフが一冊の本を届けてくれました。『男鹿和雄画集』(徳間書店刊・スタジオジブリ責任編集)でした。収められていた絵の美しさに引き付けられ、「これだ」と思いました。
男鹿さんは当時「もののけ姫」の仕事をしていらして、とても他のものを描く時間などないことを知ったのですが、あきらめきれません。祈りをこめて手紙を書きました。
スタッフと私の願いは通じました。男鹿さんは趣旨に賛同し、引き受けてくださったのです。
男鹿さんは、お描きになる絵と同じように温かく、やさしい方でした。素敵な笑顔で、私の仕事に参加して下さいました。男鹿さんから届いた絵は、言葉にならないほど美しかった。原爆ドームが夕日を受けて輝き、神々しいほどの姿で立っていたのです。
その後届けられた作品も素晴らしいものでした。吹く風に雲は流れ、木々の梢が揺らぎ、花々は香しく、川の流れからは、せせらぎの音すら聞こえて来るようでした。すべてに命が宿っていました。
1997年、原爆詩は、男鹿さんの表紙に飾られて、CDという形で聞いて頂くことになりました。今では、描いていただいた作品もすでに70を超えています。そして、朗読会場、画廊など様々な所で展覧会も開かれ、お客さまは食い入るように見つめています。
原爆詩は美しい挿絵と共に歩き出しました。男鹿さんの原爆詩画集も3冊出版されました。
嬉しいことです。
これからも男鹿さんの力をお借りして、声が続く限り朗読を続けていきたいと思っています。

(スタジオジブリ発行誌『熱風』2006年2月号 特別寄稿「男鹿和雄さんの絵と出会って」より)
吉永小百合のサイン

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