ストーリー

第10回(2008年6月24日放送)

  完成までに半年はゆうにかかる最高級の鰹節「本枯節」。それを昔ながらのやり方で、手作りで作り続ける鰹節工場「ヤマジョウ」を買収し、本枯節の製造中止を画策する商事会社「エンプール」の矢田守(加藤雅也)。ヤマジョウの「作り続けたい」という思いを背負い、おせん(蒼井優)はヤマジョウの社長夫婦(夏八木勲・李麗仙)と矢田を「一升庵」で引き合わせることに。矢田の「舌の記憶」に訴えたいという。
 矢田の父は、伝説の天才鰹節職人・藤坂二郎。矢田もおせんと同様、最高の「本枯節」の味で育ってきたのだ。その彼が本当に「本枯節」を失くしたいとは思えない・・・。

 「エンプール」社長の金池(内藤剛志)とともに一升庵にやって来た矢田にふるまわれた料理は、鰹のたたきをのせた鰹丼。江崎(内博貴)留吉(向井理)は土佐づくりの鰹のたたきを汗だくで焼きあげる・・・。
 矢田の祖父は土佐の漁師。母親が作ってくれていた土佐醤油の味、父の本枯節の味のする出汁に驚く矢田。ヤマジョウの社長はずっと守の父である天才鰹節職人・藤坂二郎の味を目指して本枯節に心血注いでやってきた。
 「二郎の本枯の味をはっきり覚えてる奴なんていないからこそ、お前に食って欲しかった」と守に語る。そして、買収されても、本枯節を少しでいいから作らせて欲しいと頼むのだった。
 頑なに「無理だ」と言い張る矢田に、おせんは「味というのは、舌から舌に語り継いでいくしかできない頼りない存在」
 だからこそ両親の誇りである本枯節を守ることができるのは藤坂守しかいないと訴える。

 矢田は幼い頃、父親の鰹節を自慢に思っていたことを思い出す。小さくなった父の本枯節のカケラのペンダント。母に「お父ちゃんがカツブシ作れなくなったら、俺がかわりに作る。お父ちゃんの味は俺が一番よく知ってるから」と笑っていた子供時代を・・・。
 矢田は金池に、必ず採算の取れる流通を考えるので本枯節の生産ラインを残して欲しいと願い出るのだった。
 金池は冷たく言い放つ。「そういうことなら契約は白紙に戻します」
 矢田からも、この件からも手を引くから、勝手に滅びろと・・・。

 矢田はエンプールを辞め、ヤマジョウの再建に奔走しているという。一件落着したかのように思えたが、今度はおせんのもとに銀行の担当者が、一升庵への融資の引き上げと借金8000万の一括返済を求めてきた。さらに金池が『千成地区・再開発計画』の資料を手に訪れ、一升庵の買収話を持ちかける。この辺一帯にビルを建て、複合商業施設にするプランだと言う。借金を返すためにも丁度いいでしょうと笑う金池。金池が一升庵を潰すため、銀行にも手を回していたのだ。そのことを知った一升庵の面々も金池にくってかかる。
 そこへ金池の秘書がやってきて、車で待っているはずの金池の息子・亮(小林廉)がいなくなったと言う。皆で一升庵の中を探し回ると、江崎が畑で大根を不思議そうに見ている亮を見つける。亮は大根が畑で育つ事や美味しさを知らないというのだ。

 借金の問題、買収話・・・一升庵存続の危機の中、江崎は、「俺は船が沈むのを待つだけなんてイヤだ!」と突然店を辞め出て行ってしまう。
 ぼんやりと落ち込んでいるおせんの元へ千代(由紀さおり)が現れた。「このままだと一升庵がなくなってしまう」と話すおせんを見て、千代は突然新聞紙に火をつけ「一升庵を燃やす」という。慌てて止めるおせんに千代は「こんなもんは燃えたらなくなっちまうんだよ。そりゃ、守らなきゃいけない、つながなきゃいけない、あんたは女将だからね。でも、一升庵のもてなしも、美しさもここが燃えたらなくなるのかい?」と微笑む。
 一升庵はおせんの心の中にある・・・「あんたが一升庵だ」と・・・。
 おせんは「今の言葉きっちり、つながせてもらいますから」と新たな決意を胸に抱く。

 おせんは皆を集め自分の気持ちを伝える。
 一升庵が無くなってしまっても、一升庵はみんなの仕事の中に、舌に生きている、と。だから今度は金池と亮を一升庵に招いて、一升庵の味をいつか思い出してもらえるようにしたいと告げる。

 金池親子を招待したその日、江崎が戻ってきた。エンプール系列レストランで料理の使いまわしをしている不正の証拠をもってきたのだ。一升庵を辞めたのは潜入捜査だったという江崎は、この証拠を金池に突きつけて、一升庵の買収をあきらめさせようと提案する。しかし、不正は悪いことだがそれは出来ないというおせん。一升庵は最後まで一升庵らしくありたいと。

 金池親子がやってくると、おせんは楽しく食事をしてくださいと微笑む。料理の中には亮が畑で見た大根で作ったふろふき大根も。おせんがつきっきりで煮たその大根を一口食べた亮は「味がしない」とかばんからケチャップを取り出し大根にかけてしまう。そして刺身や肉にも次々とかけていくのだった。金池は「申し訳ないが、イマドキの子なんだ。これもご時世だ」とおせんに言う。
 「確かに一升庵は滅び行くものなのかもしれません」そう語りだすおせん。
 でもお願いだから亮に大根の味を教えてあげて欲しい、そうしなければ一生その味を知らず過ごすことになる、そしてもちろん亮の次の世代の子供たちも・・・。

 「つなぐ・・・わっちにとってそれは次の人たちに何かを残すことです。ヤマジョウさんの本枯や、一升庵の味、職人さんの技や思い」
 「金池さんが教わってきたことをどうか亮くんにも教えてあげてください。つないであげてください」
 「ケチャップがおいしかった」と笑う亮を見つめながら、金池は一升庵をあとにする。

 江崎が一升庵に戻るというと、おせんは首を横にふり今の店で頑張って欲しいと告げる。一升庵で得た味や真心や知恵をその店に伝えて、不正を正してきて欲しいと。
 江崎は「そういうつなぎ方もあるんですね」と・・・。

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 季節がかわり、一升庵の板場では皆が集まり、おせんを中心に談笑している。そこには江崎の姿も。珍品堂さん(渡辺いっけい)の姿もある。
 みんな笑顔で、にぎやかな・・・いつもと変わらない一升庵がそこには、今は、まだ、ある・・・。