#296 読了日記044 『警視庁捜査一課長 特捜本部事件簿』
January 26, 2009

『リアルタイム』コメンテーターの田宮栄一さんが本をお出しになりました。去年は台湾で過ごした少年時代を回想した「あの日の台湾」を出版、続く本作は待望の「捜査一課長回想録」というべき一冊です。

・田宮榮一 『警視庁捜査一課長 特捜本部事件簿』(角川書店)

090124Mr.Tamiya.jpg田宮さんはご存じのとおり、警視庁で数々の事件の捜査にあたってきた捜査のプロ。とりわけ1年半にわたる捜査一課長在任中は、ホテルニュージャパン火災、羽田沖日航機墜落事故など歴史年表にも掲載されるような大事件を捜査し、名課長としてその名を刻んだことは、リアルタイムをご覧の皆様ならばご存じのことと思います。本書では、両事案を含む11の事件を振り返り、地道な捜査の実相や知られざる裏側、指揮官としての決断や心情を率直に記しています。

ただし、凡百の事件本と決定的に違うのは、滲み出る著者の人柄です。たとえば夜討ち朝駆けを繰り返し、うるさく事件を取材してまわる記者とのエピソードからは、記者と取材対象者という関係を超える、著者の優しさがわかることでしょう。また、捜査の責任者として、人知れぬ汗を流している同僚や部下へ寄せる労いの心。さらに、騒然とする現場や事件後の生活に直面した被害者・遺族・関係者への思いやりあふれる記述からも、捜査官という肩書きの、ときに冷徹にも聞こえる響きとは全く異なるぬくもりを感じます。これらは日々私たちが現場で、スタジオで触れる田宮さんそのものなのです。

 そして何より、首都東京の治安を守るという、尋常ならざる重責を全うしようとする誇りと使命感。田宮さんが捜査一課長として迎えたただ一度の大晦日、猟銃による銀行強盗が発生しました。現場からの帰路、深夜の高速道路を走る課長車の中から見た家々の明かり。田宮さんはその時をこう綴っています。 
「大晦日の夜、家族団らんのときを過ごし、初詣での支度をしている人もいるのだろう。深更におよんでなお明かりが灯されているのは、その平穏を物語っているように思えた。 
その平穏を護るのが私の役目だ。呼び出しを受けて現場に駆け付けた捜査員もまた、同じ思いだろう」
…この話を、私はまさにその高速道路を夜間走行中に、田宮さんから伺ったことがあります。私を滅して世のため、人のために尽くす仕事は数あれど、その仕事に誇りをもって邁進し、結果を出し続けて全うすることは難しいでしょう。しかし見事にやり遂げた。その原点は、冬の夜空のもとにちらちらと輝くささやかな市井の暮らし、というところが、何とも田宮さんらしいと思うのです。

現役のころには自身の愛犬を見事に警察犬にした(アダム号)ことも、そんな田宮さんの見えざる勲章のひとつでしょう。このアダム号と母犬のマッキーについても一章を割き、本書を読み進む読者はほっとさせられます。田宮さんがかわいい愛犬を前に、あの細い目をさらに細めている表情が目に浮かびますから。

田宮さんは、「仮に復職できるとしたらどの職に就きたいか」と聞かれると、即座に「捜査一課長」と答えます。「男冥利に尽きる」と振り返る数々の仕事。単なる記録にとどまらない、「ひとすじに」という生き方がうかがえる一冊です。

#295 JAZZ
January 22, 2009

年が明けたと思いきやもう1月も下旬です。きょう1月22日は「ジャズの日」なんですって。1月22日=JANUARYの22日→JA22→JAZZ、ということだそうで。もっともこの日が始まったのはそう古い話ではなく、21世紀になってから。最近は毎年この日前後にジャズのコンサート、イベントが行われているようです。

私自身はJAZZ、たまに聞きます。去年は夏のおわりに東京国際フォーラムで行われた東京JAZZフェスティバルへのお誘いをうけ、聞いてきました。何日か行われるうちの1公演を選んだのですが、これがすごかった。とりわけハンク・ジョーンズが。「ミスター・スタンダード」との敬意をこめた称号をもつこの老ピアニスト。素晴らしい演奏でした。痩せた枯れ枝のようにも見える細い指が華麗に舞います。演奏と同等かそれ以上に魅力的に映ったのは身のこなしや佇まい。ホール全体にうねるノリ。カッコイイ!のひとことに尽きます。このカッコイイ爺さんが何と90歳!と知り、まさに驚天。しびれました。

そんなカッコイイJAZZの世界。私たちの仕事場である日本テレビが、とりわけその草創期にジャズと深い関わりがあること、ご存知ですか。日本テレビの歴史を綴った記録やドキュメント、エッセイなどに触れると分かるのですが、ジャズマンを経て日本テレビに入ったという大先輩が何人もいるのです。そうした大先輩の作った番組、タイトルを見ただけで、その豊かな音楽性がテレビという新しいメディアでどれだけ大きな花を咲かせたかが分かります。

私自身が生放送を何年かやった経験から言うのですが、テレビの生放送は「グルーヴ感」がその善し悪しを決める、と言えるのではと思います。日本語でいうとまさに「ノリ」でしょうか。次々と入る新しいニュースをてきぱきと伝える。スタジオとVTRがテンポよく絡み合う。ゲストとキャスターの会話が弾む。あるときは一気に伝え、ほどよい間合いを持つ。…出演している当人が気持ちよくオンエアのグルーヴに乗っているときは、えてして見ている側にもその空気が伝わるのでは、と常々考えています。
換言すれば、「間が悪い」「テンポが悪い」のは人前で表現するという世界では致命的、なのかもしれません。その意味で、ジャズというグルーヴの世界でも食べていける才能とセンスを持っていた男達が、テレビ番組の制作・演出で偉大な足跡を残したのは当然だと得心がいくのです。

体力やら運動能力にはいまひとつ自信の無い私ですが、グルーヴを大切に、という心掛けは失ってはならないと考えています。JAZZの日の所感でありました。

#294 読了日記043『空飛ぶタイヤ』『オレたち花のバブル組』
January 12, 2009

・池井戸潤 『空飛ぶタイヤ』『オレたち花のバブル組』

社会的な題材の小説というのは、だいたい巻末に「この小説はフィクションであり・・・」という但し書きがあるもの。テレビのドラマもそうですね。ただし、どれだけフィクションとはいっても、実際に起こった事件をモチーフにしていると一見してわかる小説の場合、読者はそれなりの斟酌を求められます。

「空飛ぶタイヤ」は、トラックからタイヤが脱落し、直撃を受けた主婦が死亡した事件がモチーフ。トラックの運送会社社長、財閥系の自動車メーカー、それぞれに融資をする銀行というおもに3グループの人々が、事件のあとどうこの事件と向き合っていったかが生々しく描かれている。フィクションという斟酌を差し引いても、事故原因を弱小運送会社の整備不良だと誤魔化し、自社製品の欠陥を隠そうとするメーカー(3年前にリコール隠しを指弾されたにも関わらず、その後も隠ぺいのための秘密会議まで運営していた)の体質には、登場人物の唾棄すべき言動を通じて筆者の怒りがはっきりと読み取れる。
 一方の「オレたち…」は銀行が舞台だ。まだ行内中枢のライン上にいる者、心身を病んで出向した者、バブル入社組の仲間たちも人生いろいろ。それぞれに直面する案件を前に、どうバンカーとして現実を自分の理想に近づけるかで悩み、たたかっていく。
 いずれの作品も、「銀行」という経済社会で欠くことのできないプレーヤーを、重要な存在と位置づけているのが共通している。その切り口は「融資」。ときに、誠実ながらもぎりぎりの経営をしている企業の存否を決定づける存在として、またときには社会正義に反する経営を続ける不届きな企業を正す存在として。この点は都市銀行での勤務を経て文筆の世界に入った著者ならではの面目躍如である。大小さまざまなドラマが入り乱れる企業財務の世界。門外漢でも平易に理解できる筆力は、さすがとしか言いようがない。それを多様なキャラクターを通じて深みのあるエンタテイメントに仕上げているのだから、誰にでも薦められる。
 「深み」というのは、読み進むうちに、否応なく現下の日本経済について考えさせられることが証左。とりわけ「空飛ぶ…」での事故当事者の運送会社など、逆境の連続また連続。とくに年末を控えて「倒産せずに年を越せるか」という命題は「切実」などという言葉では済まされないものがあった。時あたかも師走・正月。日本中でどれだけの中小企業が、資金繰りで苦労をしていることだろう。この2冊には、誠実な経営をしている企業を見極めて、しがらみ抜きに融資というかたちで力を貸すことを信条とする「理想的なバンカー」が出てくるのだが、いま現実社会ではどうだろうか。とある中小メーカーで聞いたところでは、かつては足繁くやってきて世間話をし、工場や事務所の状況をつぶさに見ていった銀行も、最近は「銀行のほうにお越しください」とやらで、書面上の実績や「経営計画書」を見るばかりだという。

嘆息が増えるばかりの日本経済。どうか新しい年は、実直な企業がひと息つける状況が一日も早く生まれるように願うばかりである。

 

#293 迎春
January 6, 2009

あけましておめでとうございます。2009年、どのような新年をお迎えでしょうか。去年は年末にかけてずいぶん暗く厳しい世相となりました。もちろんその状況に大きな変化がないのは何とも口惜しいところ。日比谷公園での「年越し派遣村」の窮状を見ても明らかです。今年は一日も早くこうしたムードが払拭できるよう祈るばかりです。

090102anahatiman.jpg心の中で祈っていても仕方がないので、まず初詣。ことしは2か所に行って参りました。元日には自宅の近所の神社へ。そして2日には早稲田の「穴八幡宮」に参拝いたしました。ここは私の母校、早稲田大学文学部のすぐ目の前。まあ在学中はぜんぜん参詣などしたことはなかったのです。ですが。以前にもご紹介した「お気に入りの書店」がすぐ近く、そしてその書店は「年中無休」という素晴らしい営業形態をとっているので、正月の外出にはうってつけの場所なんですね。ここは江戸の歴代将軍が参拝、流鏑馬の奉納も何度も行われたそうで、それゆえ参道のすぐ横には何とも華麗な「流鏑馬の像」があるんです。縁起物や美味しい食べものの屋台が立ち並ぶこじんまりとした参道を登ると、そこに拝殿が。いつもお決まりの内容ですが、きちんと心を鎮めて手をあわせてきました。

さて。ここでそのまま帰ってはいけないのであります。穴八幡宮は「一陽来復」のお守りを分けてくださることでも知られています。金銀融通のお守りなので、この不況下には求める人が例年以上に…行列していました。やっぱり。その列の長さに慄いて、今回は入手を断念…。これにて私の金銀融通は断念と相成りました。ちなみに、このお守りは冬至か大晦日か節分のいずれかの日の深夜24時に、きちんと決められた方角の高いところに貼り付けることになっています。そう書いてから考えてみると、私はこれまでもその日時で貼り付けたことはありませんでした。だからか…。

不況に打ち克つお守り、節分までもらうことができるはずです。年明けも寸暇を惜しんで仕事に取り組んでおられる向きが多きとは思いますが、ご興味のある方は早稲田へお運びください。安くておいしいお店もいっぱいありますから、冬の街歩きにもよろしいですよ。