
エレベーターを舞台にした映画はかなりある。古くはヌーヴェル・ヴァーグの先駈けとなったルイ・マルが弱冠25歳で撮ったの「死刑台のエレベーター」(1958)。2010年には日本でも阿部寛、吉瀬美智子主演でリメークされた。そして209年にも、構成作家としても有名な堀部圭亮初監督の「悪夢のエレベーター」、そしてM・ナイト・シャマラン原案・製作の「デビル」(2011年)もエレベーターの中で起きる謎の殺人事件を扱ったホラー映画だった。日本ではDVDスルーになった「パニック・エレベーター」もサスペンス映画だ。
エレベーターという狭い密室の中での出来事なので、セット費が掛からない。またエレベーターの中にはせいぜい10人ぐらいしか入らないので人件費も安く済む。アイディアさえあれば安価で面白いサスペンス映画が出来るのである。
マンハッタンのウォール街にそびえ立つ「バートン・ビル」。投資会社のCEOヘンリー・バートンの所有する超高層ビルだ。その最上階のペントハウスで、ヘンリー主催のパーティーが開催され、招待客は社員や投資家など様々な人たち。身体チェックを受けて最上階に昇る一機のエレベーターに、ヘンリーと乗り込んだのは孫娘マデリーン、投資アドバイザーのドン・ハンドリーと、その婚約者でインド系美人キャスターのモーリーン、人の良さそうなデブ社員マーティン、投資家の中年女性ジェーン、パーティーの余興に出演するユダヤ人芸人ジョージ、イスラム教徒の警備員モハメッド、そして妊婦のセリーヌの9人。多少窮屈なエレベーター内で、閉所恐怖症のジョージの身体に異変が起こる。汗を流し始め、早口でつまらないジョークを飛ばし始める。いたずら好きのマデリーンは非常停止ボタンを押してしまう。ガタンと音を立ててとまるエレベーター。あわてて管理人を呼び出すが対応はのらりくらり。いろんなボタンを押してみるがビクともしない。49階といえば地上200メートルのところだ。待てど暮らせど来ない修理人を待つ間に、たわいのない会話から思わぬ方向に話は進む。まず警備員モハメッドと芸人のジョージが3.11を巡る言い争い。セリーヌのお腹の子は実はドンの子だという事実を知って、陰険になるドンとモーリーン。そして女投資家のジェーンは息子の戦死に気落ちして手を出したバートン銀行の債権、それが不良債権で一文無しになったと告白。バートンへの恨みをこのパーティーで晴らすと身体に時限爆弾を巻き付けていたのだ。パニックになるエレベーター内。その中で心臓発作で急死するジェーン。身体から外すと爆発する爆弾に引きつる乗客。次第に見えてくる人間の本性。爆弾はいつ爆発するのか? それより前に救助が来るのか?
エレベーターの中は一種の小さな世界だ。いろんな人種、思想や信仰が異なる人たちが乗り合わせる。通常なら長くても数十秒間だけの“乗り合い”だが、停まってしまうと、どことなく会話が始まり、それによってそれぞれの本性が見えてくる。ノルウェイ出身のスレィグ・スヴェンセン監督はヒッチコックの「救命艇」、シドニー・ルメットの「十二人の怒れる男」、ポランスキーの「テナント/恐怖を借りた男」などを意識して作ったという。
この手の密室サスペンスは誰か必ず命を落とす。この映画の出演者は無名な人ばかりなので、誰が先に死ぬのか分からない。そして惨いシーンもある。かすかに開いたエレベーターのドアから、半身乗りだして助けを呼ぶ。その瞬間エレベーターが動き出したら…。わかっていてもそのシーンを見せつけられると目を背けてしまう。他にも、生き残るために人道を外れる行為が行われるが、スクリーンには映し出されていないのがせめてもの救いだった。
☆「エレベーター」2012年9月29日(土)より渋谷シネクイントにてレートショー
配給:ミッドシップ/シンカ
© Quite Nice Pictures 2011 All Rights Reserved.

前3部作の「ボーン」シリーズはマット・デイモンのキレのあるアクションと、ボーンの失った記憶をどこまで遡れるかがキモだった作品だった。実はその裏で別のストーリーが並行して進んでいた…というのが、この「ボーン・レガシー」だ。だから「アイデンティティー」から続く「ボーン」シリーズの世界観はそのままで、主役が代わる。ストーリーは相変わらず複雑で、過去作を観て復習しておく必要がある。
マット・デイモン扮するジェイソン・ボーンは、CIAの極秘プログラム《トレッドストーン計画》が生み出した最強の暗殺者だった。3部作の最後「アルティメイタム」では、《トレッドストーン計画》をグレードアップした《ブラックブライアー計画》が進められていた事が明らかになった。そして本作では、実はその裏でさらなる極秘プログラム《アウトカム計画》が遂行されていたという。もうここで何が何だか分からなくなる。そんな時、この計画がボーンによって漏洩する事になる。世間に知れたらCIAはおろかアメリカ国家までがやばくなる。事の重大さに国家調査研究所のリック・バイヤー(エドワード・ノートン)はプログラム抹消を命ずる。
アラスカの雪山で1人の男がサバイバル訓練を行っていた。アウトカム計画により最強の工作員となった、本作の主役アーロン・クロス(ジェレミー・レナー)だ。アウトカム計画のプログラムを実行中は血液の採取や、2種類の薬の服用が義務づけられていた。しかし身を寄せていた山小屋が無人飛行機に爆撃されるなど、プログラムを遂行することに疑問を持ち始める。
一方、アーロンの体調を管理しているステリジン・モルランタ社のマルタ・シェアリング博士(レイチェル・ワイズ)の同僚が突如銃を乱射、その場にいた研究員がほとんど殺される。なんとか逃げ切ったマルタは気が動転したのか、ここでの研究内容のヤバい点を捜査員に話してしまう。「彼が乱射したのはここで行っている人工的な操作が原因」。CIAは喋りすぎたマルタを抹殺しようとする。そこを助けたのが、薬を求めにやってきたアーロンだった。襲いかかる敵をバタバタと片付けるアーロン。ところが薬は製作中止となっており、一度飲めば半永久的な効果を持つウィルスが培養される。すなわちもう服用しなくてもいいのだ。なんじゃそれ。
それからアーロンとマルタは、CIAの追っ手を振り切りきってマニラに逃げる事になる。ここからは「ボーン」シリーズに通じるアクションに次ぐアクションのオンパレード。低所得者層が暮らす密集住宅の屋根から屋根、塀から塀を走り回り、バイクにまたがっては高速道路から露店街、路線バスまでも巻き込んでのカーチェース。これまでわかりにくく込み入った話が嘘の様に、脳天気な活劇に変わる。バイヤーが送り込んだ最後の切り札、《トレッドストーン計画》、《ブラックブライアー計画》をも超える最強のプログラム《ラークス計画》(いくつ計画してるのか!)の人間兵器#3(ルイス・オザワ・チャンチェン)との追撃戦は白眉。
どうしても比べてしまうのが、マット・デイモンとジェレミー・レナー。マットの場合はすでに人気俳優の地位を確立しての起用だったが、ジェレミーは売り出し中ではあるが、まだ発展途上。今作の出來で今後が左右されそうだが、決して悪くはない。見た目もいいし身体つきもがっしりしている。芝居もまあまあだ。逆に何でもスマートにこなせる分、マットの様なアクがない。将来続編ができて、マットのジェイソン・ボーンと交差する様なことが実現すれば、ファンとしてはたまらない。
ところで、最近の映画の中でCIAは悪役というポジションが確立している。「デンジャラス・ラン」では汚職職員が蔓延していると言い、「Black & White/ブラック&ホワイト」ではハイテク機器を駆使して相棒の恋路を邪魔するなどいいかげん。CIA職員はどう観てるのだろうか?
☆「ボーン・レガシー」2012年9月28日(金)よりTOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー
配給:東宝東和
© 2012 2012 Universal Pictures

映画を作るのには金がかかる。大概は企業からの資金調達で製作費にあてる。しかし、この映画のお金の集め方はちょっと違う。映画ファン同士のネットワークによって集められたのだ。フィンランドの製作陣はまず、公式HPを立ち上げ、数分のティーザーを公開する。そして「この続きが観たい人はカンパを!」と資金を募ったのだ。しかし、すべてがすべてこの方式で金が集まる訳がない。そこにはユニークな発想と、完成品を観たくなるだけの製作能力がなければダメだ。かくして製作費750万ユーロ(約7億5千万円)のうち、100万ユーロ(約1億円)が個人からの出資で賄われている。その映画の内容がトンデモ映画で、おそらく数年後、“カルト映画”の仲間入りすること間違いなしの奇作だ。
2018年、再選を目指すアメリカ合衆国の女性大統領は低迷する支持の回復のため、46年ぶりに有人月面着陸を計画する。乗組員は黒人ファッションモデルのワシントンら2名。無事着陸に成功するが、ひとりの宇宙飛行士が巨大なクレーターを覗き込んだ瞬間、何者かに射殺される。驚いたワシントンは駆け寄ると、クレーターの中にハーケンクロイツの形をした巨大な基地を見る。そこから現れたナチスの兵士に着陸船を破壊され、ワシントンは捕虜として拉致されてしまう。そこは第二次世界大戦の敗戦から逃れてきたナチスの残党が月の裏側に作った、世界征服を目論む秘密基地だったのだ。宇宙船『神々の黄昏』号の完成をもってその計画は実行されようとしていた。捕虜にしたワシントンが宇宙服を脱いだ瞬間、黒人だと判り震撼する。「我々アーリア人より遥かに劣る黒人が宇宙飛行士だとは!」。さらにワシントンが持っていたスマホにも驚愕する。壁一面に並んだコンピューターより遙かに演算能力のある一台のiPhone、これさえあれば『神々の黄昏』号の完成も早まる。野心家の将校クラウスは、白人に整形させられたワシントンを案内役に、アップルストアから大量のiPhoneを仕入れるために地球に向かう。
月の裏側に秘密基地が…と言うのは「トランスフォーマー:ダークサイド・ムーン」に似ている。確かに地球からは月の裏側は見られないからなあ。でも“月の裏側にナチスの秘密基地がある”という都市伝説はあった。アドルフ・ヒトラーの「予言」 の一部を載せておく。
『ユダヤの天才的科学者たちは、想像を絶する速い乗り物を発明しやがて人類の秘密を知るだろう。 それは飛行機より遥かに速く、ロケット兵器を凌ぐものだ。 ユダヤは秘密を知ることで落胆するに違いない。 それは、自らの創造主が何であるか、 また、やがて来る人類の二極化に携わる者が何であるかを知るからだ。 グレーの一色で固められた大きな岩の裏側に、それを見るだろう。 創造主の戦の残骸を』
地球に舞い戻った一行の行動は、アメリカ批判やカルチャー・ギャップのオンパレード。アメリカ大統領は、共和党のサラ・ペイリンにそっくりだし、そもそも宇宙船が月面に着陸した時に「YES, SHE CAN」と書かれた幟が降りるはしゃぎっぷり。コリン・パウエル元国務長官は名指しで非難されるし、北朝鮮もやり玉に挙がる。
どことなくレトロ・フューチャーな色合いがいい。小松崎茂の世界をダークにした感じだ。肝心のVFXも流石にハリウッドの水準までは行かないが、この製作費でここまでで来たのは感心する。
☆「アイアン・スカイ」2012年9月28日(金)よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー〈PG12〉
配給:プレシディオ
© 2012 Blind Spot Pictures, 27 Film Productions, New Holland Pictures.ALL RIGHTS RESERVED.

初期の「007」シリーズが好きで、いつか本格的スパイ映画を撮ろうと思っていたスティーヴン・ソダーバーグ監督についにその時がやってきた。ジーナ・カラーノという女優の出現だ。彼女は元々、アメリカ女子総合格闘界を代表するスター選手。キックボクシングでは14戦12勝1敗1分け、総合格闘技では8戦7勝1敗と、人気実力ともトップクラスだった。その試合映像を観たソダーバーグが自分の撮りたかったスパイ映画の主人公にピッタリのイメージと、演技経験皆無のカラーノを主演に迎えた。

世界を股にかけて活躍する女性スパイ、マロリー・ケイン(カラーノ)。戦闘能力はおろか、知性、美貌も兼ね備えたエリートスパイだ。ある日のニューヨーク郊外、同じスパイ仲間のアーロン(チャニング・テイタム)とダイナーで落ち合う予定だった。時間通りに姿を現したアーロンは、一言二言会話をした後、突如マロリーに襲いかかった。何故?と思う暇もなく殴りかかるアーロン。しかし、格闘技には一日の長のあるマロリーはアーロンをノックアウト、その場から姿を消す。1週間前、民間軍事企業の若き代表でマロリーの元恋人であるケネス(ユアン・マクレガー)の元に人質救出のミッションが届いた。依頼者はアメリカ政府の陰の実力者コブレンツ(マイケル・ダグラス)と、スペイン政府の要人ロドリゴ(アントニオ・バンデラス)。ミスが許されないこのミッションに、コブレンツらはマロリーを指名したのだ。バルセロナに乗り込んだマロリーは、アーロンら3人の男性工作員と協力し、ジャンという東洋系ジャーナリストの救出に成功しロドリゴに引き渡す。次にマロリーが請け負ったミッションは、ダブリンで同じくスパイのポール(マイケル・ファスベンダー)と“夫婦”になりすまし、スチューダー(マチュー・カソヴィッツ)と言う男と接触するという簡単な任務だった。しかしそこで見つけたのはバルセロナで救出したジャンの死体。さらに今まで穏やかだったポールがまたも突然襲ってくる。長い格闘の末、ようやく倒したポールの口から自分がジャン殺しの容疑者になっていることを知るマロリー。裏にはケネスが糸を引いているのか? さらに武装集団がマロリーを包囲する…。

アンジェリーナ・ジョリーが演じたCIAのエージェント“ソルト”や、シアーシャ・ローナン演じる“ハンナ”も、卓越した戦闘能力で敵をバッタバッタと倒していった。それを観ていつも疑問に思っていた。何故彼女らは男よりも強いのだろうか? いくらソルトが優秀なエージェントでも、同じCIAで同じ特訓を受けている男性エージェントに勝つ事は不可能ではないか? ハンナが父親仕込みのサバイバル能力があったとしても大人数の男性兵士を敵に回し脱出は不可能ではないか? 男女の体力差は常識的に見て男性の方に分がある。ところがである。このジーナ・カラーノを見て、男より強い女もいるかも知れないと思う様になった。このアクションはスタントなしのガチである。ハリウッドは女性アクションスターの新しい逸材をようやく発掘できた。さらにこのカラーノ、格闘家独特のゴツゴツした感じがない。顔もまあまあだ。次作はやっぱりなと思う「ワイルド・スピード」シリーズの第6作目。あの「エクスペンダブル」の3作目のオファーも来ていると噂も。後は演技を磨けば大成するだろう。
今作はまだ覚束ない演技を、豪華出演陣がカバーしている。なにげに凄いぞ、このキャストは。ユアン・マクレガーにダグラス、ファスベンダーの両マイケル、新鋭のチャニング・テイタム、そしてフランスからマチュー・カソヴィッツに、スペインからはアントニオ・バンデラス。主演デビュー作で、脇にこんな名優を従えているなんて、そしてほとんどの俳優をボコボコに出来るなんて、カラーノは幸せだ。

☆「エージェント・マロリー」2012年9月28日(金)よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー
配給:ファントム・フィルム
© 2011 Five Continents Imports, LLC. All rights reserved

全米であの「アベンジャーズ」が公開されるまで、2012年の興行収入のトップを走っていた大ヒット作品。原作本も3部作で累計3,650万部のベストセラーになっている。24人の少年少女が最後の1人になるまで殺し合うというプロットが、2000年に公開された日本映画「バトル・ロワイアル」に酷似していると話題になった。そのせいかどうかわからないが、「バトル・ラワイアル」のハリウッド・リメイクが頓挫したそうだ。しかし似ているのは殺し合うという点だけ。背景も動機も全く異なり、これはこれで十分楽しめた。
富裕層が暮らすキャピトルと、労働階級が棲む12の地区で構成される巨大独裁国家ハネム。ここでは毎年、「ハンガー・ゲーム」と言う一大イベントが行われていた。74年前の反乱戦争により
国家が荒廃したという反省から権力を見せつけるために、12の地区から男女ひとりずつの24人を選出して最後のひとりのなるまで殺し合わせるサバイバルコンテストを実施したのだ。これはリアルタイムで全国に放映され国民は視聴を義務付けられている。プレーヤー抽選会の日、第12地区からはまだ12歳の少女プリムローズが選ばれる。泣き叫び必死に抵抗するプリムローズを見て、姉のカットニス(ジェニファー・ローレンス)が身代わりとしてゲーム参加を申し出る。
この映画の最大の弱点が、この殺し合いゲームが存在する理由だ。政府公認の殺し合いなんか世界中探してもない。国家権力を見せつける方法も他にいくらでもあるはずだ。そもそもそんなの国連が容認する訳がない。まあそんなことを言い出したら、この映画を真っ向から否定することになるので、よしとするか。
同地区の男性プレイヤー、幼馴染みでカットニスに好意を持つピータ(ジョシュ・ハッチャーソン)と共にキャピトルに移送される。そこでゲーム開始までの数日間、今まで体験したことのない裕福な暮らしと、戦士としての猛特訓が始まる。ふたりの教育係は過去ハンガー・ゲームで優勝経験のあるヘイミッチ(ウディ・ハレルソン)、そして専属スタイリストとしてシナ(レニー・クラヴィッツ)が紹介される。「ハンガー・ゲーム」は見栄えも大切な要素。ゲームを優位に進めるための物資、武器、食料を提供してくれるスポンサーを得るためだ。アピールタイムでは、カットニスの大胆な行動で一躍注目選手となった。そして試合前日の前夜祭でも真っ赤なドレスで登場したカットニスに、ピータはインタビューで愛を告白。視聴者はこの2人の恋の行方にも気を揉むようになる。何せ、生き残るのは1人だけなのだから…。
「バトル・ロワイアル」が極めて狭い範囲でのサバイアルであったのに対し、「ハンガー・ゲーム」は国を挙げての一大イベント。視聴者あっての物。“ゲームメイカー”なる人物がいて、ゲームが硬直化すると火の玉攻撃をしたり、猛獣を放ったりして視聴者を飽きさせない工夫をする。どちらかというと「グラディエーター」や「バトル・ランナー」に雰囲気が似ている。しかも近未来という点でも視覚的に興味が持てる。メタルを基調としたセットデザインはイカす。
主演が勇敢な少女と言う点もアメリカ的。愛を告白した幼馴染みで内気なピータとのコンビネーションも悪くない。ケガをしたピータを庇いながら闘うカットニス。今や男が女性を守る時代ではないのだ。
来年には同キャスト(監督はゲイリー・ロスからフランシス・ローレンスに替わるが)で続編「The Hunger Games: Catching Fire」が公開されるという。日本でも「バトル・ラワイアル」同様ヒットして欲しい。
☆「ハンガーゲーム」2012年9月28日(金)よりTOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー〈PG12〉
配給:角川映画
© 2012 LIONS GATE FILMS INC. ALL RIGHTS RESERVED.

先月大ヒットした「アベンジャーズ」。それがマーベル・コミックスのヒーローが大集合した映画だったが、こちら「モンスター・トーナメント 世界最強怪物決定戦」はその真逆。人々を恐怖のどん底に落とした伝説の怪物達が一堂に会したモンスター映画だ。それも世界最強のモンスターを決めるという誰もが一度は考えるが、結論を出す前にアホらしくて忘れてしまう小っちゃな問題を大真面目(?)に取り組んだ作品だ。
登場するモンスターは誰もが知っている怪物からあまり馴染みのない物まで計8体。闘う場所はヒルサイト共同墓地に特設されたリング。ここで世界から召喚された8体ものモンスターが市有を決するのだ。

出場メンバーは下記の通り
【ミドル級クリーチャー部門】
“一つ目の暴れん坊”サイクロプス
ギリシャ神話に登場する一つ目の怪物。そこから発するビームは強烈。
“汚らわしき呪われた魔女”ウィッチ・ビッチ
魔女狩りを逃れた魔女。得意技は黒魔術。
【ミドル級アンデッド部門】
“朽ち果てた死霊”ミイラ男
生前は古代エジプトのカフラ王と推測されるミイラ。包帯の隙間から毒粉を撒く
“血に飢えた女王”レディ・ヴァンパイア
1381年トランシルバニア生まれ、弱点は木の杭。
【ヘビー級クリーチャー部門】
“湿地の悪魔”スワンプ・ガット
ミシシッピーの湿地帯に生息する絶滅危惧種。猛毒ゲロを吐く。
“満月の夜の狩人”狼男
野生の感と敏捷性は抜群。決戦の日が満月なのでコンディションも上々。
【ヘビー級アンデッド部門】
“ゴス系の巨人”フランケンシュタイン
出場選手一の体格の持ち主。巨大なパワーを誇る。
“脳みそ大好物野郎”ゾンビマン
軍による特殊訓練を受け、ゾンビとしては速い身のこなしを得る。

これらが勝ち抜き戦によって最強の怪物が決まる。試合前には高校野球のようにそれぞれの怪物の紹介VTRが流れるから、楽しい。
モンスターたちも現役プロレスラーやOBが演じているので、バトル自体迫力満点。ロバート・メイレットや“ディーゼル”ケヴィン・ナッシュなど、自分はよく知らないが知る人ぞ知るレスラーの様だ。アナウンサーと解説者が実況席にいて、パフォーマンスを説明してくれるので、プロレスを知らない人でも苦なく観られる。

映画なので単なるトーナメントでは終わらない。ゾンビマンの試合の後、加勢のためか墓場から死体がよみがえり、会場は大パニック。解説者が噛みつかれストーリーはあらぬ方向へ。どのモンスターが勝ち抜くのか予想しながら観てもいいし、意外な展開を楽しむのもいい。C級映画と侮らず、気持ちを大きく観てもらいたい。
☆「モンスター・トーナメント」2012年9月22日(土)よりシアターN渋谷にてロードショー
配給:アルバトロス
© 2011 Chiller Films. All Rights Reserved.

同名のブロードウェイ・ミュージカルをそのまま映画化したのが今作。もちろん映画化にあたってはスケールアップし、俳優陣も一新している。劇中に流れる80年代を代表するロックの名曲が言わば主役の、ミュージカル・ムービーだ。
1987年のハリウッドはサンセット通り。そこは夢見る若者を吸い寄せる魔力あふれる街だ。今日もまたロックシンガーを目指す少女シェリー(ジュリアン・ハフ)が、オクラホマからバスでやってくる。だが大事にしていたレコードをひったくりに盗まれ途方に暮れていた時、バーボン・ルームというライブハウスで働く青年ドリュー(ディエゴ・ボネータ)に声をかけられ同クラブでウェイトレスとして働くことになる。彼もまたロック・ヴォーカリストを夢見る一人。このバーボン・ルームは数々のロックヒーローを生み出したロックの聖地なのだ。伝説のロッカー、ステイシー・ジャックス(トム・クルーズ)率いるバンド「アーセナル」もその一つ。しかし、その人気も翳り始め、ステイシーはバンドを解散しソロ活動を狙っていた。そしてその解散ライブをバーボン・ルームで行う事が決まる。すると、思わぬ所から横ヤリが入る。先日就任した新市長の妻パトリシア(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)が、青少年の健全育成のため街からロックを排除、バーボン・ルームごと閉鎖させようと市民団体を結成したのだ。そのためアーセネルの前座バンドが逃げ出し、急遽ドリューがステージに上がることに。その頃からお互いに意識しだしたドリューとシェリーだったが、ドリューがステージ上から見たのは、女癖の悪いステイシーの楽屋から衣服を直しながら出てきたシェリーの姿だった。失望の中、ステージをやり終え、シェリーを追いかけるドリューだったが、そこに現れたのがステイシーのマネジャー、ポール(ポール・ジアマッティ)。ドリューのステージを見て、落ちぶれたステイシーの代わりにドリューをスターにしようと目論んだのだ…。

我々日本人はミュージカル映画は得意ではない(私だけか?)。普段の生活の中で街中が歌い出すシーンをお見かけすることがまずないからだ。この映画でも冒頭、ハリウッドに向かうバスの中で、シェリーの独り言が歌に変化していくというシーンから、それが隣の人をも巻き込み、最後には運転手を始めバス乗客全員が歌うという空恐ろしい展開に目が回る。有り得へん。まあそれがミュージカル映画だと開き直れれば苦にもならないが。
一応、主演はドリューとシェリーの若者二人だが、ステイシー・ジャックスの個性が強烈すぎて、どうしても目はトム・クルーズに行ってしまう。酒と女と名声に溺れるロックスターを、ステレオタイプではあるが、トムが体当たりで演じる。歌も彼自身が歌っているから、脇役とは言え熱の入れ様が伝わってくる。そしてもう一人、脇の脇だがキャサリン・ゼタ=ジョーンズも忘れてはならない。パット・ベネターの「強気で愛して(Hit Me with Your Best Shot)」をスカートがめくれるほどのボディ・アクションで熱唱する。

ドリューとシェリーの恋の行方や、ステイシー・ジャックスのソロとしての成功、パトリシアの抗議とバーボン・ルームの存続…など複数のストーリーが交差してお腹いっぱいになるが、最後には綺麗にまとまっていく。爆笑なのは、マネジャーのポールがドリューをロックミュージシャンではなく、当時流行りかけていたボーイズグループ「Zガイーズ」のリードボーカルとしてデビューさせようとしたこと。おそらく「ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロック」や「バックストリート・ボーイズ」をパクったグループだろうが、そのファッションの今見ると限りなくダサい。あの頃はカッコいいと思っていたのかなあ。
冒頭でも言ったが、’80sのロックナンバーが楽しい。80年代に青春を過ごした我々の様な世代はドンピシャ。“産業ロック”と揶揄されることもあるが、この頃の音楽は今の様なリズム主体ではなく、メロディ主体であるため耳に残っている。フォーリナー、ジャーニー、ボン・ジョビ、ガンズ・アンド・ローゼズ、エクストリーム、デヴィッド・リー・ロス、スターシップ、REOスピードワゴン、クォーター・フラッシュ etc...。ちょうどMTVなどの洋楽クリップを紹介する番組も増え、ビデオデッキも普及した時期でもあるので、曲を聴くと映像も浮かんでくる。小さい頃、両親が“懐かしのメロディ”的な番組を観ていると、退屈で仕方なかった。今の若い人たちは、'80sを聴く我々をどう思うのか。

☆「ロック・オブ・エイジズ」2012年9月21日(土)より全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
© 2011 WARNER BROS. ENTERTAINENT INC.

内田ケンジ監督の最新作がやっと公開される。2005年の「運命じゃない人」がカンヌ国際映画祭で4賞受賞。登場人物それぞれの視線を変えると、物語がこうも違って見えるのかと驚かされた作品だった。続く2008年の「アフタースクール」では先入観がいかに当てにならないか、先の読めない展開を見せつけられた。私の回りにもこの内田ケンジ作品のファンも多く、新作が期待されていた。とは言え内田監督は寡作である。それもそのはず、監督は脚本作りに3、4年かけるという。今作もその成果が出た作品に仕上がっている。

35歳の売れない役者・桜井(堺雅人)は、生きる希望をなくし、おんぼろアパートで首吊りを図るがロープが切れて失敗。思い直し銭湯に行く。偶然脱衣場で横に居合わせたのが、眼光鋭く身なりのいい男コンドウ(香川照之)。このコンドウという男は裏社会の便利屋で、つい先ほども一人片付けて、その返り血を洗い流すために銭湯に来たのだ。ところがコンドウが洗い場に入ったとたん石鹸に足を取られ転び、頭を床に強打する。その拍子にコンドウのロッカーの鍵が桜井の足元に転がってくる。それを自分のと取り替え、救急隊を横目に見ながら桜井はコンドウの服を着、持ち物、乗り付けた高級車まで持って行ってしまう。一方コンドウは病室で目を醒ますが、自分が誰で何をしていた者か分からない状態になっていたが、脱衣場に残された服や持ち物で自分は『35歳桜井』だと信じることにする。退院の日、督促状に書かれた住所が自分の家だと思い、隣にいた女性・香苗(広末涼子)に道を尋ねる。一流品を紹介する雑誌「V.I.P.」の編集長・香苗は、がんで入院中の父が生きている内に花嫁姿を見せたいと結婚にあせっており、男性との出逢いに賭けていた。ここはチャンスとコンドウを車に乗せ、家まで送る。ところが着いたところはボロボロのアパートで驚くコンドウ。取りあえず家の中の品やカレンダーの記載で、桜井は役者であることが分かる。コンドウになりすました桜井はコンドウの豪華な自宅に入り込むが、数十枚の偽造身分証明書や、クッキーの缶に隠した数千万の現金、拳銃の存在に驚く。そこに工藤と名乗る男から電話が。「この前の殺人のお礼金500万を支払いたいので場所と時間を指定して欲しい」。応えに困った桜井は、自分のボロアパートの郵便受けに入れおくようにと言ってしまう。

ここから事件はあらぬ方向へと進んでいくが、決してハードボイルドにならず、所々に内田のコメディセンスが光る。記憶喪失物は過去にも色々作られているが、ここまで笑えるのはない。やっぱり内田ケンジは脚本の人で、その作り込み方は異常なほど。桜井がコンドウの金で借金を返し、車の中でボロボロ泣くシーン、とあるところに積まれた雑誌「V.I.P.」、やたらに鳴るカーアラームの“キュインキュイン”と言う音、桜井のアパートに住む猫好きの隣人…、一見何の脈絡もなく、ストーリーの中ではいびつに感じるシーンやセリフも、最後には綺麗にまとまる。“大団円”とはよくいった物で、すべて丸く収まっている。内田監督の頭の中はどうなっているのか覗いてみたい。おそらく脚本の段階で撮る画は見えているのだろう、映像の方も無駄もなく、役者に対しての演出もこれ以上の物はないところまで高めている。その演者も見事にそれに応えている。堺は“笑顔で喜怒哀楽を演じ分ける”演技で、情けない男を飄々とこなしているし、香川は強面の裏社会の人間と、記憶をなくしおろおろする“桜井”を演じ分けが自然にできている。そして広末も笑顔を封印して感情を表に現さない完全主義者を嫌味なく演じている。またいつもおどおどした役が多い荒川良々がヤクザの組長、その元愛人で事件のキーを握る女性に森口瑶子と、今までの役柄にない役が妙にはまっている。

一応主役は堺雅人になっているが、途中からどうも香川と広末のラヴストーリーになっているように感じるが、最後の最後で堺が持って行くのが内田シナリオらしい。エンドロールの最後まで見て欲しい。
☆「鍵泥棒のメソッド」2012年9月15日(土)よりシネクイントほか全国ロードショー
配給:クロックワークス
© 2012「鍵泥棒のメソッド」製作委員会

1996年に生まれた日本製ゲームソフト「バイオハザード」。細菌兵器を開発したアンブレラ社の暴走により、ゾンビが街にあふれ出す…。その世界観を継承しつつ、アクションの要素を盛り込んで、2002年に製作されたのが映画版「バイオハザード」だ。監督のポール・W・S・アンダーソンと主演のミラ・ジョヴォヴィッチが、ゲーム版「バイオハザード」の大ファンであることから、自ら望んで映画化に参加したという。それが今作でシリーズ5作目。現行のシリーズ映画で、女性が主人公というのはこのシリーズぐらいではないか。しかしそれも次作で完結するらしい。
前作のラストシーン、アリス(ミラ)とアンブレラ社の戦闘機群との船上バトルから幕を開ける今作「リトリビューション」。
アンブレラ社が開発したウィルスが世界中に蔓延した地球はゾンビたちに占領されていた。巨大タンカーに囚われていた生存者を救出したアリスに襲いかかるアンブレラ社の空挺部隊。アリスは猛攻を受けて海中に沈んでいく。気付くとアンブレラ社の施設の中。かつての仲間ジル(シエンナ・ギロリー)もアンブレラ社に洗脳され、アリスを拷問にかける。隙を突いて逃げ出すも、そこは東京を模した仮想空間。押し寄せるゾンビ軍団をなぎ倒すと、次のステージが待っている。途中、見方と名乗るエイダ(リー・ビンビン)が現れる。信用できるかどうかは疑問だが、ここから脱出するには、映画の仲間である特殊部隊の協力がなくしてはできない。その頃、その特殊部隊隊員はアンブレラ社のウィルス研究室を破壊するために施設に潜入する。一方のアリスは次の仮想空間でのクローン・クリーチャーと闘い、ついに娘のベッキーと再会し、さらにアンブレラ社との戦いで死んだレイン(ミシェル・ロドリゲス)のクローンと合流する。しかし、そこに立ちはだかるジルと、もう一体のレインのクローン。そして本当の敵の出現…。

はっきり言って今作は最終章となる6作目への繋ぎでしかない。大きく話が進展する訳でもないし、キーになるサムシングもない。まあシリーズ物に良くある“息抜き”の回である。でも、見どころはたくさんある。まず、過去作からの出演者やゲームで人気のキャラクターがたくさん出ているところ。
ジル・バレンタイン。2作目でアリスと共に闘った女刑事。アリスより人気が出てしまい、ミラがシエンナ演じるジルの再登場に難色を示したと言われていたが、シエンナの直談判で再登場が決まった。確かにミラに負けぬほど美しくカッコいい。
レイン・オカンボ。女性特殊部隊員。1作目でゾンビにかまれて死んだが、クローンという形で再登場。
アルバート・ウェスカー。アンブレラ社の幹部。前作でアリスに殺されたが、今回はビデオ出演。
エイダ・ウォン。ゲーム版では頻繁に登場する女スパイだが、映画版は初。中国の映画界はハリウッドに彼女を強力に売り込んでいるようだ。
レオン・S・ケネディ。ゲーム版では人気のキャラクターだが、映画版では彼も今回が初登場。ヨハン・ソープ演じるレオンは、はらりと垂らした前髪がゲームキャラと同じで、ゲームから抜け出てきたみたいにそっくり。
J-POP GIRL。日本で最初にT-ウィルスに感染した少女。中島美嘉演じる彼女は前作では冒頭、渋谷のスクランブル交差点のシーンに出演しただけだったが、今作はミラとのバトルもある。
そして見どころの2点目は、アクション。それも女性対男性、女性対女性というように女性のアクションが凄い。特に氷上で闘うアリスとジルのバトルは見応えがある。
また、この映画がゲームから生まれたことを再確認できるシーンもある。アリスが進む仮想空間でのバトル。一つのステージが終わり、ドアを開けると次のステージが待っている、そこにはさらに強い敵と、アリスには強力な武器が用意されるなど、まさにゲーム感覚。コントローラーでアリスを操っている感じだ。
ついに人間対クローン&ゾンビの戦いに決着を付ける次作。広げすぎた風呂敷をどう畳むのか。一説には1作目の冒頭に戻るなんて話もあるが、楽しみだ。
☆「バイオハザードV:リトリビューション」2012年9月14日(金)より全国ロードショー〈PG12〉
配給ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

「ザ・セル」「落下の王国」「インモータルズ-神々の戦い-」で圧倒的な映像美を見せつけたインド出身の映画監督ターセム・シン。その異才は今回グリム童話「白雪姫」に活かされる。
6月に公開した「スノーホワイト」は“闘う白雪姫”と言った風にダークだったが、こちらはコメディタッチのファミリー映画。ターセムとコメディ。ちょっと異色な組み合わせではある。
昔々ある国に白雪姫(リリー・コリンズ)という身も心も美しい女性がいた。しかし生まれてすぐに母を失い、また父である国王もこの世を去り、代わりに国を治める継母の女王(ジュリア・ロバーツ)に育てられる。ところが自分が一番美しいと信じる女王が、成長と共に美しさを増してくる白雪姫を疎ましく思っていた。ある日隣国の王子アルコット(アーミー・ハマー)が城にやってくる。その王国が金持ちの国だと知った女王は、王子をモノにするために大舞踏会を計画する。実は女王が美を追究するあまり国の金庫は空っぽになり、アルコットと結婚することでまた贅沢できると睨んだからだ。しかし今や舞踏会を行うだけの資金すらない。女王は税金を上げてそれに充てる方針をとる。一方、白雪姫はこっそり城を抜け出し、町の様子を見て驚く。以前の楽しげな町の雰囲気が一変、貧困であえぐ人で溢れていた。噂に聞いていた隣国の王子に国を助けてもらおうと舞踏会に潜り込む。そこでお互い一目惚れする白雪姫とアルコット。大事な金蔓を白雪姫に取られてたまるかと女王は白雪姫を危険な森に追放し、アルコットにはホレ薬を飲ませモノにする。白雪姫は森を彷徨いながら、そこで7人のこびとに出会う。彼らも女王の悪政に反対し追放されたのだ。白雪姫はこびとたちに武術を学び、国と王子を取り戻すために女王に立ち向かう。
「スノーホワイト」で女王を演じたシャーリーズ・セロンは怖い悪女だったが、ジュリア・ロバーツ演じるこちらの女王はサバサバしていて、憎みきれない悪女である。そして白雪姫も「スノーホワイト」のK・スチュワートの方はいつも神経が張り詰めていて、近寄りがたい雰囲気があったけど、こちらの白雪姫は親近感がある。演じるリリー・コリンズは、あのフィル・コリンズの娘。太マジックで描いたような眉毛が印象的で、映画の途中までちっとも美しいとは思わなかったけど、ストーリーが進む内にだんだんかわいく見えてくる不思議な顔だ。
さてこのコメディとターセムの相性だが、さほど成功したとは思えない。ターセム特有のはったりを効かせた構図や、異空間を思わせるロングショットが皆無だった。
そのかわり、これが遺作となった石岡瑛子の衣装が目を見張る。舞踏会のシーンでその豪腕は発揮された。孔雀をあしらった女王のコスチュームと対比させるような白雪姫の白鳥の被り物。そのほかカメの頭やサソリの尻尾、トナカイの角、ウサギの耳などおよそ衣装と結びつかない物を大胆に取り入れてターセム・ワールドを構築している。この映画はもはや石岡瑛子の映画である。過去ターセム作品全作の衣装を担当していた石岡瑛子。最も重要な相棒を失ったターセムの今後が気になる。
映画のラストでマサラ・ムービーのように出演者全員がダンスを踊り歌を歌うシーンがある。「そういえばターセムってインド人だったっけ」と思う瞬間だ。聞くところによるとこの全員ダンスシーンは一度は撮ってみたかったという。これまでそんなシーンを挿入する映画を撮れなかったので、やっと果たせた夢であろう。
☆「白雪姫と鏡の女王」2012年9月14日(金)より丸ノ内ルーブルほか全国ロードショー
配給:ギャガ
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理由もわからず、突如押し入った謎のハサミ女に襲われる若い妊婦の恐怖を描いた「屋敷女」(2008)。容赦ない暴力とアンモラルな内容で当時話題になったが、その監督コンビ、アレクサンドル・バスティロとジュリアン・モーリーの新作ホラーがこの「リヴィッド」だ。グラン・ギニョールのフランスだけに怖がらせ方も陰湿だ。
母の自殺に心を悩めるリュシーは気分転換のために仕事を始める。それは身寄りのない老人宅を回り、薬を与えたり身の回りの世話をする介護ヘルパーだ。指導係のウィルソンと最後の家を回る。そこには人工呼吸器を付けた老婆が寝たきりの状態でベッドに横たわっているた。かつては厳格なバレエ講師だったが、一人娘のアナに先立たれ昏睡状態となり今は死人のように眠ったままとウィルソンは語る。さらにこの屋敷には途方もない財産が隠されているとも。その夜、リュシーは恋人のウィリアムとその友達ベンの3人で寝たきりの老婆のいる屋敷に忍び込む。ウィルソンの言う“財産”を盗み出すためだ。3人は一つだけ固く鍵のかかった部屋を見つける。鍵を探し出し侵入すると、死んだはずのアナが白いバレエ衣装を着て人形の様に佇んでいた。すると台座が回り出し、機械仕掛けの様にアナが動き出す。あまりの恐怖にウィリアムはアナを殴り倒し、部屋を飛び出す。それと同時に、闇を裂く様な物音が響く。禁断の扉は開かれた。異次元の魔界と化した屋敷のなかで、想像を絶する惨劇の宴が始まろうとしていた。

台座に佇むバレエ衣装の少女人形と言うヴィジュアルは強烈に怖い。適度に薄汚れていて、まぶたは縫い付けられ、表情はない。これが急に動き出すから肝が潰れる。ダリオ・アルジェントの「サスペリア」を思い出す。主人公のリュシーは左右の目の色が違う。演じているクロエ・クールーという女優をよく知らないので、役柄上目の色を変えているのか判らないが、左右の色の違う瞳は魂の入り口と出口なんだそうだ。そう言えばデヴィッド・ボウイも左右の目の色が違っていた。
前作の大流血映画と違って、ゴシックホラーの色合いが強い。その分現実的な恐怖は薄れている。前作は屋敷に侵入してきた女が災いを起こす構図だったが、今作は侵入した屋敷が災いの根源だった。久しぶりの正当派のホラーで、P.O.V.などの小手先のテクニックにも走らず、イカついバケモノも出演しないが、バレエ教室という女性優位の世界や主人公の整った顔立ちが恐怖に歪む瞬間など丁寧に撮っているところが好感を持てる。
☆「リヴィッド」2012年9月8日(土)よりシアターN渋谷にてモーニング&レイトショーほか全国順次ロードショー
配給:キングレコード
© 2011 LA FABRIQUE 2 / SND / PLUG EFFECTS / LA FERME PRODUCTION

1996年に発表された乃南アサの同名ミステリー小説を韓国で映画化した作品。日本でも2001年、2010年にTVドラマ化された。その時の主演の刑事コンビはそれぞれ天海祐希・大地康雄、木村佳乃・橋爪功。2本のドラマは未見で原作も読んではいないが、配役を見るとどうやら主演は女性の方らしい。だが映画化にあたっては主従逆転して男性が主役になっている。脚本の段階では女性刑事に「TSUNAMI-ツナミ-」、「第7鉱区」のハ・ジウォンで当て書きし男性刑事に重点を置いてなかったが、ハ・ジウォンが出演できなくなり、男性刑事に「グエムル-漢江の怪物- 」、「渇き」のソン・ガンホが決まり本を男性中心に書き換えた様だ。
ソウルの地下駐車場で男性の焼身遺体が発見された。目撃したホームレスの話によると、車の中で突如男性の身体が発火したという。現場の捜査を命じられたのは、昇進の道から遠ざかった中年刑事サンギル(ガンホ)と、刑事になるために夫と別れた新米刑事ウニョン(イ・ナヨン)のコンビ。手柄を立てて昇進したいサンギルは、自殺の線が濃厚な事件と新米刑事の教育係を押しつけられヤル気ゼロ。ところが検証の結果、遺体に獣にかまれた痕、尿からは覚醒剤、そして発火の原因も遠隔操作と判り、殺人の疑いが出てきた。俄然ヤル気の出てきたサンギルはこの結果を上に報告せず、出世のために独自で捜査を進める。2人はヤク売人から被害者の連絡先である塾を聞き出し調べると、その塾のウラで商売している売春部屋を見つける。薬漬けにした少女をこの売春クラブで働かせていたのだ。その頃新たな事件が起こる。男が路上で大型犬に襲われて死亡したのだ。その男は麻薬と少女売春の前科を持つ人物で、第一の容疑者と顔見知りだった。そしてその噛み傷跡から普通の犬ではなくオオカミであることが判明する。

監督が男性主役に書き直すだけあって、ソン・ガンホの存在感は凄い。決して二枚目ではないが、立ち姿に哀愁がある。妻に逃げられ、息子に相手にされない、うだつの上がらない刑事という映画の世界では使い古されている刑事の設定も、この人が演じるとリアリティが増す。また、新米女性刑事を煙たがりながら、意外に役立つことが判り次第に信頼関係を築き、最後には無くてはならない存在になっていくという、これまた良くあるパターンのコンビ物も、相手に美貌のイ・ナヨンを起用することで大目に見てしまう。

そしてもう一人、というかもう一匹の主役がオオカミ。ここではウルフドッグ(狼犬)というイヌとオオカミの交配種だということだが、調教に適さない種らしい。映画では本物のウルフドッグと調教された一般のイヌ、そして精巧に作られた模型の三種を使って撮影に挑んだという。闇より黒い毛並みのウルフドッグが疾走するシーンは見惚れる。
音楽の世界ではK-Popが日本を席巻しているが、映画の世界では日本原作の韓国映画が多く作られている。「オールド・ボーイ」はカンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを受賞しているし、「私の頭の中の消やしゴム」、「パイラン」(ラブ・レター)、「シングルズ」(29歳のクリスマス)、「カンナさん大成功です!」、「フライ・ダディ」。「白夜行」…きりがない。そんなに失敗作がないのは原作の力が強いからだと信じたい。
☆「凍える牙」2012年9月8日(土)より丸の内TOEIほか全国ロードショー
配給:ブロードメディア・スタジオ
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今年のオスカー授賞式で「ヒューゴの不思議な発明」の出演者としてレッドカーペットに招待された英コメディー俳優サシャ・バロン・コーエン。ところが、その出で立ちに周囲はぶっ飛んだ。リビアのカダフィ大佐を彷彿とさせる白い軍服姿にもじゃもじゃ顎ヒゲ。胸には金正日総書記の写真が入った骨壺を抱き、事もあろうか遺灰を赤い絨毯にぶち撒けた。即座に警備員に連行され、レッドカーペットも掃除機で綺麗にされた。実はこれ、コーエンの新作「ディクテーター(独裁者)」のPRだったのだ。同じく今年のカンヌ国際映画祭でも、ライフルを抱えた美人ボディガード2人を従えラクダに乗って登場し、そのラクダから落下するパフォーマンスを見せ、交通渋滞を起こしている。やることなすこと型破りなコーエンだが、彼の名を広く知らしめた2007年の「ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習」では、アカデミー賞脚本賞にノミネートされたり、ゴールデングローブ賞コメディ/ミュージカル部門の主演男優賞を受賞するなどキャリアも立派だ。
そしてこの「ディクテーター」は〈ユダヤ人を揶揄する〉これまでとはひと味違った、風刺の効いた作品となっている。

北アフリカに位置するワディヤ共和国。そこには絶対的指導者アラジーン将軍がいた。大統領であった父が早くに他界し、幼少の頃から国の指導者になったアラジーンに逆らえる者はいない。そんな彼の次なる目標は核兵器の所有。しかし、国連はアラジーンの動きを察知し、NY本部に召喚する。一説ブチ撒ける気分でアメリカに乗り込んだアラジーンは、着いたとたんに何者かに拉致され、ヒゲを剃られてしまう。ヒゲのないアラジーンはただのアラブ人と何ら変わりがない。国連の演説には、側近のタミール(ベン・キングスレー)が用意した影武者が行い「ワディヤは民主主義国家に変わる」と宣言。タミールはこの機に民主化を進める魂胆だ。一方、身元不明の難民に成り果てたアラジーンは、反アラジーン勢力のレストランに迷い込んでしまう。そこはアラジーンが処刑したはずの人々が生き残り、コミューンを形成していたのだ。アラジーンは自分を政治難民と誤解した女性活動家ゾーイ(アンナ・ファリス)と手を組み、反撃に出るが…。

「ボラット」や「ブルーノ」のようなドキュメンタリー・チックな作風はやめて、完全にお芝居である。ちゃんと一本の筋が通ったストーリーもある。もちろん、これまで使われていたコーエンお得意の品のないギャグも散りばめられているが、許容できる範囲だ。しかし圧巻は最後のスピーチ。アラジーンはワディア共和国では独裁者だが、アメリカはどうか? 国民の上位1%の富裕層が富を独占する。金融危機を起こした銀行を国税で救済し、庶民の教育費・医療保険には手を差し伸べない。そして嘘をついて戦争を起こした大統領。独裁と民主主義、どっちがマシか? アメリカにアラジーンを非難できるのか!? このスピーチはあのチャップリンの名作「独裁者」の思想に通じるところもある。サシャ・バロン・コーエン、なかなかやりおる。ちなみに本作は全米を始め25か国で1位となったが、上映禁止となった国も11か国あるんだとか。
☆「ディクテーター 身元不明でニューヨーク」2012年9月7日(金)よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国順次ロードショー〈R15+〉
配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン
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