
製作費1万5000ドルという低予算で作られた1作目から3年、早くも4作目が公開される。日本に限れば「パラノーマル・アクティビティ 第2章 TOKYO NIGHT」も公開しているので5作目だ。製作費も回を追うごとに上がっていき、「2」は300万ドル、「3」は500万ドル、そして今作も500万ドルといわれている。毎回無名の俳優を使っているので出演費はそんなに掛かっていないはずだ。今作はなんとILMがエンドロールにクレジットされていたから、製作費のほとんどがそっちに行ったのではないだろうか。
前3作を時間軸で言うと、全作通してキーになる登場人物ケイティの幼少期1988年9月を描いた「3」。妹クリスティとほんの遊び心で始めた交霊ごっこが、この先多発する怪奇現象の始まりだった。それから18年後の2006年8月を描いたのが「2」。クリスティ夫妻の家で奇妙な現象が起こる。悪魔の仕業と信じた夫妻はある儀式を行い、姉ケイティに悪魔を移動させる。その約1か月後のケイティを追ったのが「1」。恋人のミカと新居に移ったが、正体の見えぬ何者かに夜な夜な悩まされる。そして10月9日、ミカの最後が監視カメラに映し出され、ケイティは失踪する。そして失踪したケイティはクリスティ夫妻を殺し、長男ハンターを誘拐するという「2」のラストシーンに続く。
今作「4」はそれから5年後の2011年11月、ネバタ州郊外の住宅街。女子高生のアレックスは、ある日突如、原因不明の怪奇現象に悩まされ始める。それは最近ある一家が隣へ越してきたと同時の出来事と気付いたアレックスは、家中に監視カメラをセッティング、スカイプでボーイフレンドのベンに状況を伝えていた。ある夜、ベンとスカイプで話をしていた時、玄関で不気味に佇む少年の影が映し出される。その少年と目があった瞬間、部屋の明かりが点滅、パソコンの画面はノイズが走り、家中のドアや窓が一斉に開き始める。そしてアレックスの背後にも得体の知れない《何か》が現れる。アレックスの身に想像を絶する恐怖が襲う…。
アレックスの背後に現れたのがケイティで、玄関に佇む少年はハンターなのだが、これはこのシリーズ、特に「1」と「2」を観ていないとさっぱりわからないだろう。そういう意味では初心者には全く親切ではない映画になってしまった。ただ単純に、スクリーンから滲み出す恐怖を味わいたい人には、この辺の小賢しいストーリーなど無視しても結構、十分怖がらしてくれる。確かに回を追うごとに恐怖度はアップ。ラストはめちゃくちゃ怖かった。かなりJホラーを意識した作りになっている。また、前作までの「ハンディカメラを死ぬまで離さない」という不自然さがいくらか解消され、スカイプやスマホのムービーなどを駆使して、映像的にも無理がない。これまでは「見た目」の映像しか撮れなかったが、今回は「自分撮り」の機能を使い、登場人物の恐怖に歪む表情を採用している点が新しく効果的だった。機材の進歩は確実に映画を面白くしている。
さて、エンドロールの最後に次作「5」を思わせるエピローグが挿入されている。舞台はメキシコっぽい。「 第2章 TOKYO NIGHT」のようにスピンオフ系なのか、正当な5作目なのかは定かではないが、まだ続くのは事実なようだ。
☆「パラノーマル・アクティビティ4」2012年11月1日(木)よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー
配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン
© 2012 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

[リミット]の監督ロドリゴ・コルテスが、次に演出を務めた作品はロバート・デ・ニーロ、シガニー・ウィーバー、キリアン・マーフィー共演の「Red Lights」だった。世にはびこる霊能者のインチキを暴く“心霊ハンター”と、伝説の心霊能力者とのガチバトルを描いたスリラー映画だが、ロドリゴ・コルテス監督はこの題材の純粋なホラー部分だけを抽出し、ドキュメントタッチでひたすら怖い映画が作れないかと考えたのが、この「アパートメント:143」だ。だが「Red Lights」で多忙を極めていたコルテスは、演出を新人監督カルレス・トレンスに譲り、自分は製作・脚本で参加した。
男女3人の超自然現象解明チームが古いアパートにやってくる。精神科医のDr.ヘルザー、科学技術士ポール、そして“ゲートキーパー”のエレンはアパートの一室、ホワイト家の室内にカメラをはじめ沢山の機材を運び込む。ホワイト家は父親アランと十代の長女ケイトリン、そして4歳の息子ベニーの3人暮らし。以前住んでいた家で妻シンシアが死亡したのをきっかけに不可解な現象に見舞われ怖くなり、このアパートに引っ越してきたのだが、再び同じ現象が起こり始めたという。そこでヘルザーのチームが調査に来たのだ。調査初日から怪現象は起きる。天井から聞こえるラップ現象、呼び出し音の鳴り止まない電話、食器棚の崩れる音など…。翌日カメラは異様な物を記録していた。暗視赤外線カメラでストロボ撮影をした映像に一瞬白いワンピースを着た女性の姿が映っていたのだ。Dr.ヘルザーはこの現象をポルターガイストと位置づけ、高名な霊媒師を呼び除霊を図るが、その瞬間ケイトリンに異変が起きる…。
同種類の映画に「グレイヴ・エンカウンターズ」があったが、両作ともP.O.V.方式をとっており、手持ちカメラや監視カメラの映像がメイン。画質の荒さやぎこちないカメラの動きなどが臨場感を出す事に成功している。特にビビったのが暗視赤外線カメラでストロボ撮影。一定間隔で闇と実景が交互に映し出される訳だが「絶対何か出てくる」とわかっていても、出てきた時には飛び上がる。エンディング間際でも、カメラや装置を撤去し一件落着と思わせた後に、もうひと驚かしがあるのも、この手の映画のお約束だがビクッとしてしまう。
死んだ妻や反抗期の娘など、映画のキーポイントになるものはあるが、結局何が原因なのかは謎のまま。でも、怪奇現象なんて科学的には有り得ないことだが、現実に起こっている事例はいくつもある。この時代でも解明されていないから“超現象”なのだ。だからこの手の映画は完結しなくても、十分に驚かせてくれればそれでいい。
おかしかったのは映画の中に登場する除霊装置。なぜかモザイクがかかっていた。例え映画でも映してはいけない、世間に公表してはいけない代物という意味なのか。
こうなったら元になった「Red Lights」も是非観てみたい。日本公開はあるのでしょうか?
☆「アパートメント:143」2012年11月3日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷他にて前項順次ロードショー
配給:東京テアトル
© Nostromo Pictures SL 2011

他の映画館では扱わないコアな音楽ドキュメンタリーやホラー、エッジの効いた社会派ドラマなどを上映してきたミニシアター《シアターN渋谷》が、今年の12月2日に閉館してしまう。ホラー好きの私などは、「セルビアン・フィルム」や「狼の死刑宣告」、そして「ロックン・ルール」や「ロボゲイシャ」など楽しませてもらった。唯一無二の作品チョイスだっただけに閉館は実に悔やまれる。そのシアターN渋谷でクロージング上映の一つとなるのが、このホラー映画「トールマン」だ。
ワシントン州ピッツビル郡の小さな町コールド・ロック。かつては炭坑で栄えてはいたが、6年前の鉱山閉鎖で急速に寂れ、貧困にあえぐ町となった。希望もなく町民の心は荒んでいく中、それに拍車をかける事件が多発した。次々と幼い子供たちが行方不明となっていったのだ。その数すでに18人。数少ない目撃者の話を統合すると、犯人はフードを被った背の高い男。人はそれを“トールマン”と呼び恐れた。ジュリア(ジェシカ・ビール)は夫の死後、ひとり息子のデビッドとこの町に暮らす女医。小さな診療所を切り盛りし、町民からは慕われていた。ある晩、ジュリアの自宅から物音がした。不安げに子供部屋に行くとベッドは空。慌てて外に駆け出ると、フードを被った大男がデビッドを肩に担いで歩いている。“トールマン伝説”など全く信じていなかったジュリアだったが、自分の息子が誘拐されるなんて…。傷だらけになりながらも必死で追いかけるジュリアだがとうとう見失ってしまう。“トールマン”とは一体何者なのか? そして連続誘拐の真の目的は…?
監督は、2009年の「マーターズ」(これもシアターN渋谷でレートショー公開した作品)で、容赦ない“痛み”を観客にぶつけたフランス出身のパスカル・ロジェ。しかし今回は前作で見せたグロとも言える暴力描写は控え、ストーリーにとんでもない仕掛けを施している。
愛する息子をさらわれ、犯人を追いかけるジュリア…と言う図式はどこでもあるが、問題はこの先。大どんでん返しが待っている。私もこの仕掛けに気付いた時、頭の中が大混乱、整理するのに時間が掛かった。そのため、後の展開を追いかけることが疎かになり、鑑賞後も理解できない部分が多くモヤモヤしながら帰路についた。
試写上映の前、ロジェ監督の舞台挨拶があったが、そこでこの映画製作のきっかけとなった《失踪人のビラ》の話をした。ビラには10年前15年前のものがあり、失踪した子供はどこに行ってしまったのだろう…と言うのが発想の原点だという。まさか現実に行方不明となった子供たちがこの映画の通りになっているとは思わない。ただアメリカでは年間80万にの子どもたちが失踪するという。そのほとんどは数日中に見つかるが、それでも1000人は忽然と姿を消したままらしい。その1000人がこの映画の結末のような状況に置かれていたとするならば、これは喜劇なのか悲劇なのか?
☆「トールマン」2012年11月3日(土)よりシアターN渋谷にてロードショー
配給:キングレコード
© 2012 Cold Rock Productions Inc., Cold Rock Productions BC Inc., Forecast Pictures S.A.S., Radar Films S.A.S.U.,Société Nouvelle de Distribution, M6 All rights reserved

タイ映画の「マッハ!!!!!!!!」や「トム・ヤム・クン!」に出演していたトニー・ジャーの“ノー・CG、ノー・スタント、ノー・ワイヤー”のアクションには驚き、このジャンルにもまだ未来があると感じたが、このインドネシア映画「ザ・レイド」にも同等の興奮を覚えた。102分間ずっとアクションが途切れず、ハイテンションが続く。
インドネシアのジャカルタにそびえ立つ30階建てのビル。そこはギャング、殺し屋、麻薬ディーラーなど悪人が巣くうアジトだった。地元警察も恐れを成して手を出せない悪の総本山に、20人のSWATチームが麻薬王リヤディ逮捕のために奇襲をかける。しかしその計画はリヤディには筒抜けで、SWAT全員がビルに閉じ込められてしまう。さらに各フロアには武装した拳法の達人が配置してあり、激しい銃撃戦が繰り広げられる。ひとり、またひとりと命を落とすSWAT隊員。倒せど倒せど敵は無数に湧き出てくる。SWAT隊員は全住人を倒し、犯罪ビルから生還できるのか…。

日本には馴染みの少ないインドネシア映画。しかしこんな濃い映画を撮っていたなんて知らなかった。説明的パートは冒頭10分程度のみ。残りは全部アクションに次ぐアクションのオンパレード。疲れます。銃撃戦では血や肉が吹き飛び、人の命をこんなに粗末にしていいのかなと思うぐらい冷徹。そして肉弾戦になると、インドネシアの伝統武術『プンチャック・シラット』を駆使し、目にもとまらぬ速さでバトルが繰り広げられる。出演者全員がこの「シラット」の達人と言うだけあって、その痛みがスクリーンを飛び出してこちらに伝わってくる。特に犯罪グループの用心棒“マッド・ドッグ”って言うヤツ、身長160cmぐらいしかなくてザンバラ髪、「コイツ行けんの?」って感じの風貌だが、めっちゃくちゃ強い。主人公の新米警察官ラマと巡査部長ジャカ(この2人もシラット上級者)が2人束になってかかっても、負けない。「武器などいらん、素手で勝負だ」とナイフや拳銃を放り投げ、蹴る、殴る、締める。このバトルが長すぎて途中飽きてくるかと思いきや、ハイテンションが続く。CGやワイヤーなどを使ってないマジバトルなので、緊張感が持続するのだろう。
この《ストーリーよりアクション》という単純明快さが受けて、インドネシアでは続編が決定、ハリウッドでもリメークが計画されているという。間違ってもCG多用の凡作にならない様に祈る。
☆「ザ・レイド」2012年10月27日(土)よりシネマライズ、角川シネマ有楽町ほか全国ロードショー〈R15+〉
配給:角川映画
© MMXI PT. MERANTAU FILMS

最近は俳優業より監督業の方に注目がされるベン・アフレックの3作目の監督作。日本ではDVDスルーとなった1作目の「ゴーン・ベイビー・ゴーン」(2007)で監督としても注目され、続く「ザ・タウン」(2011)でも、助演のジェレミー・レナーがアカデミー賞にノミネートされるなど高評価を得た。そして今作も卓抜した演出力を見せつけてくれる。
アフレックが今回題材に選んだのは、実際に起きたフィクションよりも大胆な事件だ。
1979年11月4日、イラン革命が激しさを増すテへランで、過激派がついにアメリカ大使館を占拠し、前国王パーレビの身柄引き渡しを条件に大使館員を人質に取った。しかしその混乱の中、職員6人が裏口から脱出に成功し、カナダ大使の私邸に身を隠す。だが、もし見つかれば6人の命はおろか、カナダ大使の身も危ない。アメリカ大使館の写真付き名簿はシュレッダーに掛けてはいるが、過激派は子供を使って切れ端をつなぎ合わせている。顔が分かるのは時間の問題だ。国務省はCIAに応援を要請、人質奪還のエキスパート、トニー・メンデス(ベン・アフレック)が呼ばれる。トニーは彼ら6人を安全に国外に退避させる方法を思いつく。それは架空の映画を企画し、6人をカナダから来たロケハン隊に仕立て出国させるという奇想天外な作戦。トニーの友人で「猿の惑星」で特殊メイクを担当したジョン・チェンバース(ジョン・グッドマン)や大物映画プロデューサー、レスター・シーゲル(アラン・アーキン)の協力を仰ぐ。まずレスターのオフィスでボツになった山積みのシナリオから中東を舞台にしたSFアドベンチャー「アルゴ」を発見、スタッフルームを開き、名刺、ポスターを製作、マスコミを集めて大々的な製作発表を開いた。しかし肝心の大使6人は「出来っこない!」と計画に尻込みするが、トニーの説得でそれぞれの役割をしぶしぶ暗記する。ところが決行前日、トニーの上司ジャック・オドネル(ブライアン・クランストン)から計画中止の一報が入る。軍による人質奪還作戦「イーグルクロー作戦」が発令されるのだ。このままでは6人は見殺しになる。トニーはオドネルに6人の出国を宣言。アメリカ大使館では名簿の写真がほぼ復元しようとしていた。果たしてトニーと6人の運命は…?
史実である限り、結果は分かりきっている。「イーグルクロー作戦」に失敗したカーター大統領は、その後の大統領選で共和党のレーガンに敗北。イランは人質返還でレーガン・アメリカと合意し、52人の大使館員は444日ぶりに解放される事になる。ただ、この「ウソ映画の撮影クルーになって出国」なんて話は聞いたことがなかった。あまりにも荒唐無稽でフィクションでも思いつかない作戦だ。事実、この事件にまつわる真実は闇の中だった。事件発生から18年、当時の大統領クリントンが機密扱いになっていたこの事実を解除し、この信じられない作戦が世に明かされたのだ。おまけにその年がCIA創立50周年で、優秀なエージェントに賞を与える場で、トニー・メンデスはスター・エージェント数名の中に選ばれている。でも、このウソ映画作戦はWikipediaにも載っていないし、映画を観終わった今でも半信半疑だ。
この映画の面白さは2点、ウソ映画をでっち上げる行程と、クライマックスの出国できるかどうかの緊迫感だ。前者はジョン・グッドマンとアラン・アーキンの軽妙な演技でコミカルに見せてくれる。後者はアフレックの演出が光る。何が何でも6人を捕まえようとするイラン過激派の執拗な追撃、それに対して必ず助けると言う強靱な精神と勇気ある行動で突き進むトニーの信念とのぶつかり合い。そしてアフレックは自分をよく撮る才能にも長けている。他の監督作よりベン・アフレックが素敵に見える。貫禄付けのためか体重を増しているのにもかかわらずかっこいい。ほとんど笑顔を見せず、信念のために動く男の姿がまたシビれる。ワーナーはベン・アフレックを「第2のイーストウッド」にしようとしているのではないか? 来年の賞レースに必ず絡んでくるはずの佳作だ。
☆「アルゴ」2012年10月26日(金)より丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
© 2012 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

2010年のサスペンス映画[リミット]がらみの映画が2本続けて公開される。[リミット]はライアン・レイノルズ主演の最初から最後まで棺桶の中のお話というスペイン産ワン・シチュエーション物だった。その[リミット]の脚本クリス・スパーリングがまた脚本を務めた今回紹介する「ATM」と、同じく[リミット]の監督ロドリゴ・コルテスが製作・脚本を担当した11月3日公開の「アパートメント143」である。
ワン・シチュエーションということならこの「ATM」がその流れをくんだ物だろう。郊外に立設されたATMが舞台の大半を占めている。
この日は会社のクリスマスパーティ。デイヴィッドは転職が決まっている女子社員エミリーに密かに想いを寄せていた。今日クリスマスは彼女の最後の出勤の日。デイヴィッドは思い切ってエミリーに声をかけて、家まで送る事に成功する。しかしそこに同僚で空気の読めない男コーリーが帰る方向が同じといって車に乗り込んでくる。仕方なく3人で車を走らせるデイヴィッド。するとコーリーが「ピザを食べたい。あの店は現金しか取り扱わないから近くのATMに寄ってくれ」と言い始める。広い駐車場にぽつりと建つATMに寄る3人。さっさと金を下ろしてコーリーを帰らせ、二人っきりになろうと急ぐデイヴィッドだったが、想わぬ出来事に遭遇する。ATMの外に見知らぬ男が立ちこちらを睨みつけている。単なる脅しと思っていた3人だったが、その男は、偶然散歩に来た男を素手で殴り殺す。こいつは俺らも殺す気だ…。ガラス張りのATMコーナーから一歩も出られなくなった3人。気温はマイナス21℃、夜明けまではまだまだ時間がある。人の通りは全くなく、ケータイも車の中に置いたままだ。この男の目的は? そして3人はこのピンチから脱出できるのか?
今回のシチュエーションは、ATMである必要性はない。このATMコーナーは緊急の呼び出しボタンも作動しないし、監視カメラも役立っていない。公衆トイレでも山奥の別荘でも同じような映画は撮れるだろう。閉鎖された空間に残された3人と、それを外から睨みつける1人の男。3人はどうしようか悩むだけでなかなか外に出ようとはしない。大体、広い駐車場の隅に建つATMコーナーまでちょっと歩く距離に車を停める必要もない。もっと近くに停めればいいし、敵は1人でこちらは女性がひとりいるにせよ3人。力尽くで敵は倒せると思うが、そういう行動に出ない。そして敵も、暖房装置を壊したり、どこからかホースを持ってきて水攻めにあわすなど、直接密室に入って手を出すことはしない。だから多少のもどかしさは残る。
しかし後半、直接手を出さない理由もわかり、これが単なる頭のおかしい人間の犯行ではなく、現金目当てでもなく、緻密に練られた計画の上での行動である事が分かると薄気味悪くなる。犯人はあの3人でなくても良かった、誰でもいいからこの犯行が成功するかを試したかったのだとすると怖ろしい。映画は実に後味悪く終わり、救いがない。
犠牲になる3人も、最初は力を合わせて脱出を試みるが、最後には「俺を乗せたお前のせいだ」とか「ピザ食べたいって言ったお前が悪い」とか仲間を罵りあうように変化するのも興味深かった。
☆「ATM[エー・ティー・エム]」2012年10月20日(土)よりシネクイントにてレイトショー
配給:シンカ

イギリスの労働者階級の悲哀を描かせたら右に出る物はないケン・ローチ監督。おそらくその影響を強く受けたであろう作品だ。監督は、俳優で「ボーン・アルティメイタム」や「ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!」に出演したパディ・コンシダイン。主演はケン・ローチの1998年の傑作「マイ・ネーム・イズ・ジョー」でカンヌ国際映画祭男優賞を受賞したピーター・ミュラン。コンシダインの長編初監督作になるこの作品は、かなり重い雰囲気の人間ドラマである。
失業中のジョセフ(ミュラン)は妻にも先立たれ、今は酒浸りの毎日。毎晩酔っ払っては周囲に因縁を付けてトラブルを起こす。もうコントロールが効かないのだ。そして酔いが醒め我に返ると、自分のしでかした行為を猛省する。冒頭、酒に酔ってケンカして、自分の飼い犬に八つ当たりして蹴り殺してしまうのには驚いた。人殺しの映画はたくさんあるが、犬を殴り殺す映画なんて観たこともなかった(実は後にもう一匹殺すのだが…)。犬は殺さないまでも、ロンドン郊外労働者居住区にはこんな大人は沢山いそうだ。この日もジョセフはバーでケンカになり、街外れのチャリティ・ショップに逃げ込む。そこの女店主ハンナ(オリヴィア・コールマン)はパンチを食らったジョセフの顔を治療し、次第に打ち解けていく。
こうしてジョセフの荒んだ心は、明るく聡明な女性ハンナによって立ち直っていく…。と思ったら大間違い。実はこのハンナにも他人には言えない大きな悩みを持っていたのだ。

ある日ハンナを訪ねたジョセフは、ハンナの顔に大きなアザがあるのに驚く。風呂で転んだと言うが、ジョセフは信じられない。裕福な地区に暮らすハンナは何不自由なく暮らしていると思っていたが、ハンナの夫ジェームズ(エディ・マーサン)は見た目優しそうな良き亭主であるが実は妻に暴力を振るうDV夫だったのだ。ある日とうとう堪えかねてジョセフの家に隠れるハンナ。自分がハンナに甘えている場合ではない。そう思い立ち上がったジョセフはハンナの家に向かうが、そこで驚愕の事実を知る…。
イギリスでは日本よりも階級社会がまかり通っていて、低所得者が一度しくじるともう抜け出せなくなる。まるでアリ地獄の様に次から次に悪い事が重なっていく。そんなもどかしさが、色彩を押さえた画面から滲み出てくる。
この映画のタイトル「思秋期」は、一生を四季に例えてのもの。秋は、盛りの夏を過ぎて枯れていく時期。それをこの映画の主人公ほどの年代とダブらせている。もう秋だからといって悲観してばかりもいられない。やがて来る冬の時代でも、2人寄り添えば温かく過ごせるという前向きな人生を教えられる映画であった。
☆「思秋期」2012年10月20日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
配給:エスパース・サロウ
© CHANNEL FOUR TELEVISION/UK FILM COUNCIL/EM MEDIA/OPTIMUM RELEASING/WARP X/INFLAMMABLE FILMS 2010

アクションスターを勢揃いさせ、全世界で2億7400万ドル(約220億円)の興行収入を稼ぎ出した「エクスペンダブルズ」。あれから2年、キャスト、内容ともスケールアップして完成した続編「エクスペンダブルズ2」だ。自ら<消耗品>と名乗る最強の傭兵軍団エクスペンダブルズ。前作のメンバーからミッキー・ロークが外れたが、スタローン、シュワちゃん、ブルース・ウィリス、ジェイソン・ステイサム、ドルフ・ラングレン、ジェット・リーなどは引き続き出演。新たにジャン=クロード・ヴァン・ダム、チャック・ノリス(72歳!!)、リアム・ヘムズワースが参加している。
冒頭10分、チベットにアジトを持つ武装反乱軍が誘拐した中国の大富豪を、バーニー(スタローン)率いるエクスペンダブルズの面々が奪還するというミッションを見せるが、武装した装甲ジープ3台を操り、大型銃器や刃物、鍛えられた肉体でバッタバッタとテロリストを倒していくシーンは、軽く普通のアクション映画1本分の見せ場がある。富豪奪還の途中、テロリストに拷問を受けていたエクスペンダブルズのライバル傭兵会社リーダー、トレンチ(シュワルチェネッガー)をも救出する。彼も同じミッションを受けていたのだ。スタローンとシュワちゃんが一つのスクリーンに収まると「ロッキー」や「ターミネーター」を観て育った自分はドキドキする。相変わらずスタローン達の撃つ弾丸はことごとく命中するが、敵の撃つ弾丸はちっとも当たらないという状況で、なんとか富豪救出は成功する。
実は前作を紹介したこのブログ(2010年10月13日)で、「ジェット・リーは降板する」と言ってしまったが、今作にも出演していた。ただ、この中国人富豪救出のミッションを終了した時点で、ジェット・リー扮するイン・ヤンはエクスペンダブルズから離れてしまう。前半途中で出演しなくなってしまったのだ。東洋人枠が空いたところで、そこに入ってきたのはジャッキー・チェンでもドニー・イェンでもない、ユー・ナンという中国人女優だ。元陸軍の女ソルジャーで、暗号解読にも長けているという設定。「スピード・レーサー」に出演していたと言うが、知らないなあ。

中国富豪救出を成功しニューオリンズに戻ったバーニーを持っていたのは、CIAのチャーチ(ブルース・ウィリス)だ。前作で遂行した南米でのミッションで多額の損害を負ったチャーチは、その償いをバーニーに課せようと新たなミッションを強要する。アルバニアに墜落した中国の輸送機からプルトニウムの埋蔵場所を記録したデータボックスを回収せよというものだ。新たに加わったマギー(ユー・ナン)を含むエクスペンダブルズを引き連れ、バルカン半島に向かう一行。マギーの技術によって容易にデータボックスを回収できたが、そこに現れたのが犯罪武装集団のリーダー、ヴィラン(ヴァン・ダム)だ。若いメンバー、ビリー(リアム・ヘムズワース)を人質にとってデータボックスと交換を要求する。人情に厚いバーニーは、泣く泣くデータボックスをヴィランに渡し、ビリーを解放させようとするが、ヴィランはデータボックスを受け取りながらビリーを殺害する。エクスペンダブルズ唯一の20代メンバーのリアム。アメリカで大ヒットの「ハンガー・ゲーム」に出演した次世代アクションスターだが、あっさりと殺してしまう。「若い芽は摘む」のかスタローン! ほとんど見せ場もないままリアム、フェイドアウト。そして、これまで真の悪役をやったことのないヴァン・ダム。冷血な爬虫類的悪役を喜々として演じている。彼を敵役に設定したスタローンのキャスティングが冴える。
仲間を殺されたバーニーはヴィラン復讐に命を賭ける。そこにシュワちゃんのトレンとウィリスのチャーチが加勢して、3大アクションスター揃い踏みで大活躍する。前作はカメオ的出演のシュワ&ウィリスだったが、今回は銃をぶっ放すわ走り回るわ老体に鞭打って暴れまくる。
そしてクライマックスは、バーニーとヴィランの一騎打ち。これまでスタローン演じるバーニーは銃をぶっ放すばかりで生身のバトルはほとんどなかった。歳だからしょうがないかなあと思っていたが、ここでは14歳も若いヴァン・ダムと素手でガチンコバトル。キックボクシング仕立てのハイキックで攻めまくるヴァン・ダムに、「ロッキー」を彷彿させるパンチで応酬。両者の特長を活かした演出は、前作の監督スタローンに代わり、「コン・エアー」や「トゥーム・レイダー」を監督したサイモン・ウエストの力量によるものだ。
これだけのスターが集まったアドレナリン出まくりの映画だが、パロディの多さも特書の一つ。シュワちゃん参加に対して快く思ってなかったメンバーが「溶鉱炉の突き落とすぞ」と捨て台詞を言ったり、前作同様「I'll be back」と言って離れようとするシュワちゃんに、ブルース・ウィリスは「You'll be back enough」(戻りすぎだ)と言って戦列に引き戻したり、スタローンvsヴァン・ダムの最後に「ボクシングを習え」と言い捨てたり、アクション映画ファンがニヤリとするセリフもいっぱい出てくる。
「エクスペンダブル3」にはニコラス・ケイジやジョン・トラボルタの参戦が噂されている。でも早く“3”を撮り始めないと、メイン役者が動けなくなってしまうぞ。
☆「エクスペンダブルズ2」2012年10月20日(土)より全国ロードショー
配給:松竹・ポニーキャニオン
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マヤ歴による“地球最期の日”を二ヶ月先に控えて、また終末思想の映画が公開する。エメリッヒの「2012」や「ノウイング」、「ディヴァイド」などここ2、3年の間に世界の終末をスペクタクルに描いた作品は多いが、この作品は全然違う。派手なVFXも使用せず、「俺に任せろ」とイキがる“ヒーロー”も出てこない。大体後十数時間で滅亡するというのに、全く大騒ぎしていないのだ。アドレナリンの上がるディザスタームービーを期待して来ると足をすくわれる。
ニューヨークの高層マンションの一室、いつもと変わらぬクリスマスイヴの午後を過ごすカップル。女は画を黙々と描き続け、男はパソコンの前に座りスカイプで前妻に愛を伝える。それを見て嫉妬する女。世普段と変わりない光景。だが終焉は違うのは明日の4時44分に必ず世界の終わりがやってくることだけ。隕石がふってきたり、エイリアンが攻めてくる訳でもない。オゾン層の破壊という人類が自ら犯した過ちによって地球が終わる。富裕層も低所得労働者も、老人も若者も、立場は同じ。あと14時間44分でこの世は終わる。回避する術は全くない。ただ運命を受け入れるしかないのだ。
「地球最後」を扱った作品の中でこれはラース・フォン・トリアー監督&脚本の「メランコリア」に近い感じ。実際に地球最期の日を目前にしたら、人間の行動はこんな物かもしれない。ジタバタしてもしょうがないから、最後まで楽しいことをしようと思うだろう。これが徐々に破滅に向かっていくのなら話は別だが、エンドが決まっているならその瞬間をこの目で観たいという気持ちもある。
映画の中で面白かったのはTVキャスター。「私は家族と地球最後を迎えたいので実況を止めます。あとは無人カメラでその状況をご確認ください」とマイクを放り投げて、キャスター席を後にする。なるほど、私も情報番組に携わる者。日本のテレビ局は、もし地球最期の日を迎えたらどのように対処するのか。テレビ局で最期を迎えるのか、愛する人の隣で迎えられるのか? 終末が近付き、高層ビルの窓の明かり、自宅のモニターがパッと消え、真っ暗になるとさすがに衝撃は大きい。
主演は超個性派俳優ウィレム・デフォー。「スパイダーマン」の敵役グリーン・ゴブリンで日本では有名だが、爬虫類の様な顔立ちは、脇役で出演しても主演を喰う迫力。今作の冒頭では恋人役のシャニン・リー相手にあんまり筋には関係ないけど、5分ほどの濃厚なベッドシーンがある。監督は「バッド・ルーテナント 刑事とドラッグとキリスト」「ボディ・スナッチャーズ」の鬼才アベル・フェレーラ監督。この監督、最近チベット仏教に傾倒している様で、ダライ・ラマの説法が映画に挟み込まれている。チベット仏教では、死はまさに悟りへの絶好のチャンスであり、その時死の恐怖は完全に克服されているという。そんな思想がこの映画にも反映している様だ。
☆「4:44 地球最期の日」2012年10月6日(土)よりシネマート六本木ほか全国順次ロードショー
配給:コムストック・グループ
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北野映画で最も好きな「アウトレイジ」の続編が完成した。北野映画の続編は初めてだ。実際、前作「アウトレイジ」を撮り終えた時点で続編を考えてはいなかっただろう。ビートたけし演じる主人公の大友は、獄中で殺されてしまっているから。ところが前作がヒットし、それに乗っからない手はないと言うことで、「大友は実は死んでなかった」という荒技を駆使して本作に挑んでいる。
前回の抗争から5年、巨大暴力団『山王会』は会長・加藤(三浦友和)、若頭・石原(加瀬亮)の新体制で、関東一円を取り仕切るまでに成長し、今や国政の世界まで影響を与える存在になった。「合法的にデカイ金を動かしていく」頭脳的な闇取引を推進する石原は、古くから組を支えてきた幹部陣を隅に追いやる。また警察組織も、山王会の急成長を苦々しく思っていた。組織犯罪対策部の刑事・片岡(小日向)は古参幹部のひとり、富田(中尾彬)と手を組み、加藤を会長の座から引きずり落とそうと画策する。まず関西最大の組織暴力団『花菱会』を敵対関係にし、両組織を潰そうとする。ところがその計画が加藤らにばれ、首謀とされた富田は殺される。計画に失敗した片岡は次に服役中の大友(ビートたけし)に面会に行く。大友は5年前に対立する村瀬組組長・木村(中野英雄)に腹を刺されたが一命を取り留めていた。片岡は、山王会壊滅の切り札として「大友は死んだ」とデマを流していたのだ。その大友が出所したという情報が石原の耳に入り、青ざめる。石原はかつて大友組の金庫番だったが、裏切って加藤と手を組んだのだ。「大友をブチ殺せ!!」逆上する石原。だが当の大友はヤクザに戻る気はなく、復讐すら考えてなかった。しかし片岡は、『山王会潰し』のために大友は必要だった。同じく山王会に恨みを持ち、片岡の腹を刺した木村と大友に手を組ませ、計画を実行しようとするが…。
見事なプロットである。北野武がここまでストーリーを作れるとは思っていなかった。画策、信頼、裏切り、そして制裁。一寸の先も見えない下克上の世界に、複雑に絡まった人間関係をまぶし、一大エンターテインメントにする力業は流石である。前作から観ている人には、それぞれ登場人物のバックボーンが分かり楽しめるが、今回が初見の人でも面白く観られるはずだ。ギャグに走らない点でも正解だ。
大友は前作では『組織』という中にいて、居心地のいい場面もあったが、結局組織に潰された。今作では一匹狼でいるつもりだった。しかしそれも限界がある。その葛藤が大友の表情に良く表れていた。《義理と人情》を描いたのが「仁義なき戦い」を代表する昭和のヤクザ映画(任侠映画)だとしたら、「アウトレイジ ビヨンド」は《金とメンツ》を最優先するヤクザの世界を描いている。今回大友の出番は多くはない。出ていても他の出演者ほど吠えない。他はみんな良く喋る。こんなにセリフの多いヤクザ映画はないだろう。北野ヤクザ映画の特色だ、ほとんどのセリフの後の「このヤロー!!」が続く。出番の少ない代わりに、逆に寡黙という点で目立とうとしている様だ。その反対に普段は寡黙な役が多い加瀬亮がクレイジー。所謂インテリヤクザなのだが、一度キレると手のつけようのないほど暴れまくる。こんな加瀬亮見たことない。そして花菱会若頭・西野役の西田敏行。静けさの中に見せる狂気は彼の真骨頂だ。
前作が《究極のバイオレンス映画》だとしたら、今回のバイオレンス度はかなり低い。殺し方も拳銃が多く、前回の様な痛々しい暴力、殺し方が減った。今回はバッティングセンターでの“ピッチングマシン殺人”と、木村が指を詰める時、“刃”ならぬ“歯”で噛み切るのが目新しいかな。
それにしても男性ばかりの出演者、それもほとんどヤクザしか出てこなく、女性はおろか、一般市民も出てこない。唯一色っぽいシーンが、出所した大友の面倒を見ることになった在日ヤクザがあてがった娼婦(月船さらら)の紋々入りバックショットぐらい。前作同様、一般人が被害に巻き込まれないという点では、安心(?)して観ていられるバイオレンス映画だ。
☆「アウトレイジ ビヨンド」2012年10月6日(土)より新宿バルト9、新宿ピカデリーほか全国ロードショー〈R15+〉
配給:ワーナー・ブラザース映画/オフィス北野
© 2012 「アウトレイジ ビヨンド」製作委員会