
今作の監督を務めたサム・メンデスは、1999年の「アメリカン・ビューティー」でアカデミー監督賞を受賞した人物。本作は含めて過去23作作られた「007」シリーズで初のアカデミー受賞監督が撮った作品となる。これまでサム・メンデスは「ロード・トゥ・パーディション」や「レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで」など人間ドラマを得意とした監で、アクション主流の「007」に合うタイプだとは思えなかったが、これが大きな間違い。優秀な監督は何を撮らしても完璧な物を作る。シリーズの中で最高傑作だと思う。

ジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)はNATOのテロリストの情報が入ったハードドライブを盗んだ組織を追いイスタンブールまでやってきた。ところが先に潜伏していた同僚のエージェント、ロンソンが撃たれて負傷、治療にかかるボンドにMI6本部の上司M(ジョディ・リンチ)の指示は「かまわず追え」という非情の物だった。ボンドはアシスタントのイヴ(ナオミ・ハリス)の運転するランドローバーに乗り込み、実行犯のパトリスの乗るアウディを追う。そのアウディが大破すると今度はバイクにまたがり逃げる。追うボンドも同様にバイクを操る。イスタンブールの街並みでの逃走劇は「96時間 リベンジ」でも迫力を見せつけられたが、流石007シリーズはその上を行く。バイクで民家の屋根を走り回り、走る列車に飛び移ると積んでいたパワーショベルでパトリスの行く手を阻む。イヴは本部に状況を報告する。するとMから犯人射殺の命令。列車の屋根で揉み合う2人にイヴは引き金を引くが、弾丸はボンドに命中、90m下の川底に落下するボンド…。ここでようやくタイトルロール。アデルの歌うテーマソングに乗って、CMディレクターのダニエル・クレインマンの演出した幻想的なタイトルバックがいい。冒頭10分以上の追走劇は映画一本分以上の中身の濃さ。どっとアドレナリンが発散される。この映画の宣伝文句に「ボンド死す!?」とあるが、もちろんここで死んだら後2時間以上ある本編がボンドなしで展開しなければならない。

ところが、MI6にはボンド殉職の知らせが入り、Mは追悼文を読み上げる。この失態に情報国防委員会委員長のマロリー(レイフ・ファインズ)は、Mに引退勧告を告げる。また盗まれたハードドライブを追うMI6は逆探知で在処を割り出すが、それがなんとMのパソコンから発信されていることが解る。ディスプレイには《自分の罪を思い出せ》と表示し、その数秒後に爆発、MI6本部が破壊された。そのニュースを人里離れたビーチで見つめる男がいた。ボンドである。やっぱり!という感じだが、奇跡的に命を取り留めたボンドは怠惰な生活を送っていたが、MI6立て直しには自分が必要とロンドンに戻ってきたのだ。再会に喜ぶMはボンド復帰のために体力テストを施す。しかし、傷のせいか年齢のせいか結果は散々。しかしMは合格をだす。
この映画のテーマの一つが《世代交代》だ。かねがねダニエルは「自分がボンド役をやるには年齢に無理がある」とこぼしていた(そのくせ後2本はシリーズに出る契約をしたが…)。先輩ボンド役の最終年齢を盛ると、最高齢がロジャー・ムーアの58歳。ショーン・コネリーが53歳、ピアース・ブロスナン49歳と、まだまだダニエルは若い方だ。Mの引退勧告もそうだが、さらに世代交代と言えば、これまで武器開発担当者はおじいさん俳優と決まっていたQの役が大幅に若返ったことも挙げられる。ボンドの息子と言ってもいいぐらいの年齢だが、言う事が憎い「あなたが1年かけて敵に与えるダメージを僕は紅茶を飲みながらパソコンであっという間に出来る」。もう身体を張って工作活動をする時代ではないと言いたいのか。それともう一人。Mの秘書役としてミス・マネーペニーが10年ぶりに復活し若返る。誰がなるかは観てのお楽しみだが、彼女で4代目。黒人のマネーペニーもなかなかいいかも。
ボンドは自分の肩から被弾した弾を取り出し、敵が上海にいることを突き止める。そこで大ボス、今回の真の敵シルヴァと対面する。このシルヴァは元MI6の工作員で、かつてはMの部下だった男。立場はボンドと同じだが、Mに対する忠誠心がまるで違う。任務を遂行するためにMから消されたと逆恨みするシルヴァはM、ひいてはMI6に復讐を誓っていたのだ。世代交代もそうだが、この映画はこれまでにもなくMによって回っている映画だと痛感する。

シルヴァを演じているのが、映画史上最高の悪役といえる「ノーカントリー」のアントン・シガー役のハビエル・バルデム。ここでもアントン・シガーに負けないぐらいの冷酷ぶり。先天的か薬の副作用か恐怖を味わったせいか、アルビノ気味の白い肌がいっそう不気味さを漂わせている。この悪良くに対して、シリーズのもう一つの目玉《ボンドガール》の存在が薄い。イヴは同僚で、それ以上の関係には発展しないし、唯一出てきたのがセヴリン役のペレニス・マーロウ。カジノでボンドにトラップをかけるのだが、あっさりシルヴァに殺されてしまう。もともとダニエル・クレイグ版007は濡れ場が少なく、ちょっと残念。でも往年のファンをニンマリさせるシーンもある。ボンドの生家に隠されていたアストンマーティンDB5。「007 ゴールドフィンガー」からしばしばボンドカーとして使用される名車だ。ナンバープレートの《BMT 216A》はその「ゴールドフィンガー」の時と同じだ。その登場と共にあのクラシカルな「007」のテーマ曲が流れると一気に気分は1964年だ。
最後にエンドロールを観ると分かるがこの映画、日本をロケ地にしていることが解る。長崎県の端島、いわゆる軍艦島だ。シルヴァのアジトがある島で、この軍艦島の外観が使用されている。この見た目異様な島は邦画ではしばしば見かけるが、洋画で使用されるのは初めてなんだって。

☆「007 スカイフォール」2012年12月1日(土)より字幕版/日本語吹替版にて全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ
Skyfall © 2012 Danjaq, LLC, United Artists Corporation,Columbia Pictures Industries, Inc. All rights reserved.

エイリアンが地球を襲う…と言うSF映画はこれまでいっぱい作られてきた。それは一概に金が掛かる。最近では「バトルシップ」が2億900万ドル、「トランスフォーマー3 / ダーク・オブ・ザ・ムーン」が1億9500万ドル、「世界侵略: ロサンゼルス決戦」が7000万ドル。エイリアンやセット、CGに製作費の大半を持って行かれるためである。ならばエイリアンを見えない侵略者として描けば、密室に逃げ込んで表に出たら争いが終わっていたとすれば、カタストロフィーを描かなくてすむので、CGも美術費も大幅カットできる…と言う発想で作ったかどうかわからないが、この「ダーケストアワー 消滅」は3000万ドルで製作された。あの低予算SF映画で知られる「第9地区」とほぼ同額だ。まあ、スケール感の小ささは否めないし、タレントも小粒。でも、見えない敵に見つからない様に逃げ、かつ闘うというのは面白い。
コンピューターソフトで一発当ててやろうとモスクワに乗り込んだショーン(エミール・ハーシュ)とベン(マックス・ミンゲラ)。しかしプレゼンで同様のアイデアを持ち込んだロシア人スカイラー(ジョエル・キナマン)に先を越され撃沈。ナイトクラブでヤケ酒を飲んでいた。そこに旅先で知り合ったアメリカ人女性バックパッカー、ナタリーとアン(オリヴィア・サールビー、レイチェル・テイラー)も合流、さらに偶然スカイラーもその場にいた。その時突然停電に見舞われる。慌てて外に出ると天空からいくつもの発光体が降下していた。その発光体は触れる物すべてを破壊し吸収していく。人間も同様、光に触れた者は塵の様に粉々になる。街はパニックになり、ショーンら5人は光から逃れる様に地下室に閉じこもる。3日後、地上に出てみると街は廃墟と化し、その惨劇はモスクワだけではなく全世界的規模の物であった。この姿を現さぬエイリアンの目的は、地球上のエネルギーを吸収し我が物にすること。まだ吸収したりないのか発光体はまだ地球上に残っている。ショーンたちは光を避けながら、人類の希望を見出そうとするが…。
製作は「ウォンテッド」の監督ティムール・ベクマンベトフ、脚本は「プロメテウス」のジョン・スペイツという期待の持てるスタッフたちだが、ストーリーはオーソドックス。エイリアンの侵略、主人公が間一髪生き延びる、奮起してエイリアン退治に挑む、協力者が現れる、途中仲間がやられる、避難所があるという情報が入りそこに向かう…。ただ目新しいのは舞台がモスクワということ。エイリアンの侵略はロサンゼルスと相場が決まっているが、モスクワの街を破壊していく映像は新鮮。
エイリアン物はどんな姿で登場するかというのも注目の的になる。J・J・エイブラムス製作「クローバーフィールド/HAKAISHA」や、監督作「SUPER8/スーパーエイト」などは少ししか見せないエイリアンの姿に議論が集中し、肝心の映画の中身が蚊帳の外になったことがあるが、端っから姿を見せないというのは、その時限を越えストーリーに集中できる。でも姿が見えないのに、エイリアンの侵略と決めつけるのは早計のような気もするが。それでも後半、姿を見せ始める。命が危なくなると姿を消す能力が薄れ、ちょっとだけ見える様になる。見えちゃうとその造形にオリジナリティがあるかどうかが気になるところ。その姿は賛否あるだろうが、最後まで徹底して見せなければ良かったのに、と思う。
☆「ダーケストアワー 消滅」2012年12月1日(土)よりシネマート六本木・新宿(レイトショー)ロードショー・心斎橋ほか全国順次公開
配給:エスピーオー
© 2012 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

2001年の「ハリー・ポッターと賢者の石」から去年の「ハリー・ポッターと死の秘宝 Part 2」まで10年間、「ハリー・ポッター」シリーズに掛かりっきりだったダニエル・ラドクリフ(実際は2007年に「ディセンバー・ボーイズ」や、TV映画「マイ・ボーイ・ジャック」に出演しているが)。年齢も現在23歳。今の顔から11歳のハリー・ポッターの顔になかなか結びつかないほど成長した。今作は「ハリー・ポッター」シリーズ完結後に初めて出演した映画であり、イギリスの人気作家スーザン・ヒルが1983年に出版した「黒衣の女 ある亡霊の物語」の初の映画化作品である。
ひとり息子ジョセフと暮らす若き弁護士アーサー・キップス(ラドクリフ)は、4年前に妻を亡くした喪失感を未だに引きずり、仕事にも身が入らず失業寸前だった。そんなある日、彼に先月他界した女性の遺産を整理するという仕事が舞い込んだ。その女性の住んでいた館は、人里離れたきり深い沼地に浮かぶ島の中に立っており、そこに続く一本道は満潮時になれと水没し、行き来が不可能になるという異様な環境に立地していた。到着後、アーサーはすぐ仕事に取りかかる。不気味な人形や古い調度品に囲まれ、いかにも曰くありげな家。膨大な文書の中にナザニエル・トラブロウという7歳の少年の死亡証明書を発見する。この家の主ドラブロウ夫人の息子と思われるこの少年はこの沼地で溺死し、遺体は未発見のままだという。死亡証明書を発見してから、アーサーの回りで不可解な出来事が起こり始める。館の2階に不気味な物音と囁く様な声、自然と動き出す人形、そして森の中に出現する黒ずくめの女性…。この館には何かがある。謎の解明に立ち上がったアーサーに、さらなる恐怖が襲ってくる…。
ハリーを卒業したとたん、子持ちの弁護士役という設定は頭が追いついていかない。確かに無精ヒゲを生やし、子供の頃の面影はあまり残っていないが、大人すぎる。ハリー・ポッターを引きずりたくないというラドクリフの気持ちはわからんでもない。確かにここが、子役から大人の役者にステップアップする正念場でもあるだろう。でもこういうハリポタの雰囲気に似たゴシックホラーを選んだのは間違いではないのかな。もっと違うタイプのアクションとかラブストーリーに出た方が心機一転という感じがしていいと思うのだが。
でもこの作品はホラーとしては良くできている。派手なシーンもないし、屈強な殺人鬼も出ないし、流血シーンもない。それでいてゾクゾクさせられる。ジャパニーズ・ホラーを手本にした様な心理的な恐怖に陥れる手法を使っている。セットだけでも十分怖いし、恐怖を煽る雰囲気作りも上手い。監督のジェームズ・ワトキンスは「ディセント2」の脚本を担当した人。さらに初監督した「バイオレンス・レイク」(2008年・日本未公開)はエンパイア賞の最優秀ホラー映画賞や、ガーディアン誌が選ぶその年の最も優れたホラー映画にもなった。将来が期待できる監督だ。
☆「ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館」2012年12月1日(土)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
配給:ブロードメディア・スタジオ
Photo credit Nick Wall © 2011 Squid Distribution
© 2011,SQUID DISTRIBUTION LLC, THE BRITISH FILM INSTITUTE © 2011 Squid Distribution

今作の監督、ジム・シェリダンと言えば、「マイ・レフトフット」や「父の祈り」、「マイ・ブラザー」など、優秀な人間ドラマを生みだし、アカデミー賞にもノミネートされる名匠だ。そのシェリダン監督が、四半世紀にわたるキャリアの中で初めて手がけるサイコスリラーがこの「ドリームハウス」である。スリラーと言っても、さすがにシェリダンが撮ると、画で怖がらせることはしない。得意の心理描写で、緊張感と恐怖心を煽る方法を取っている。それが怖いか怖くないかと言えば、全然怖くないのだが…。
ニューヨークの出版社に勤務する優秀な編集者ウィル・エイテンテン(ダニエル・クレイグ)は郊外に夢のマイホームを購入した。そして妻リビー(レイチェル・ワイズ)と2人の娘たちとの時間を大切にするために会社を辞め、この素敵な家で小説家への転身を図る。ところが引っ越し早々、娘が「窓の外から家を観ている人がいる」と怯える。さらに玄関には送り主不明の花が置かれていた。何かの間違いだろうと取り合わなかったウィルだったが、翌朝降り積もった雪の上に見知らぬ足跡を発見し、不安を抱くことになる。その夜、自宅の地下物置で物音がし、ウィルが調べに行くと、近所の少年少女が怪しげなミサを行っていた。とっ捕まえて問いただすと、なんとこの家で以前一家惨殺事件があったという。そんな話は初耳のウィルは真相を確かめるために警察を訊ねるが取り合ってくれない。そこで近所に住む女性アン・パターソン(ナオミ・ワッツ)宅に向かう。多くを語りたがらないアンだったが、どうやら事件は5年前、妻と子供二人が殺され、唯一生き残った一家の主ピーター・ウォードは精神病院に収容されている、近所の住民はピーターこそが真犯人ではないかと噂している…。ウィルは愛する家族を守るためにこの事件を単身調査するのだが、その影に驚愕の真実が隠されていた…。
主演は、来週にはもう一つの主演映画「007 スカイフォール」が公開するダニエル・クレイグ。そっちの映画ではイギリスを守るために地球を股にかける諜報員をスマートに演じているが、この映画では家族を守るためにドタバタと動き回る、決してかっこいいとは言えないオッサンを演じている。妻役のレイチェル・ワイズとはこの映画の共演がきっかけで本当の夫婦になってしまった。レイチェルは以前映画監督のサム・メンデスとも付き合っていたが、そのサム・メンデスは「007 スカイフォール」の監督である。
最近のサイコホラーは事件の元凶が《気がついていない自分》というパターンが多い。おそらく「シックス・センス」がこのきっかけを作ったんだろうが。その後「ハイド・アンド・シーク-暗闇のかくれんぼ-」しかり、「シークレット ウィンドウ」しかり…。この映画もそうかなと思って観続けていくと、思わぬ方向に進んでいき、完全にヨミが外れてしまった。「エイテンテン」という主人公の奇妙な名前や、家を知らない運転手や、出版社を辞める時の奇妙な会話など、すべての結果を知った上で思い出すと、意外と多く伏線が張られていたことに気付く。
前にも述べたが、怖い物見たさでこの映画を観ると当てが外れる。それよりもシェリダンが紡ぐ心理ドラマとしてのサスペンス、そして先週公開した「ボディ・ハント」でも抜群の冴えを見せた脚本デビッド・ルーカが描く予想を裏切るストーリー展開を楽しんでもらいたい。
☆「ドリームハウス」2012年11月23日(金)よりシネマサンシャイン池袋ほか全国ロードショー
配給:ショウゲート
© 2011 MORGAN CREEK ALL RIGHTS RESERVED

リュック・ベッソン制作・脚本の近未来スペースアクション映画。最近のリュック・ベッソンは製作側に回ると俄然いい仕事をする。「96時間」や「コロンビアーナ」、「パリより愛をこめて」などストーリーテラーとしてはすごく優秀な映画人だと思う。設定はもちろん、ストーリーの運び方など上手い。ただ監督業となると首をかしげたくなる。前作の監督作「The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛 」も、映画製作の意欲は買うけど、監督としての出来映えは普通だった。「レオン」や「ニキータ」の頃のとんがった部分が取れてしまった。もともと10作程度で監督業から足を洗うと明言していたベッソンだったので、今ではプロデュース業の方が肌に合うのだろう。そして今作は製作・脚本にとどまり、監督はスティーブン・レジャー&ジャイムズ・マザーという新人コンビに任せている。それにしても、ベッソンの製作会社ヨーロッパ・コープからは生きのいい監督がどんどん出ている。この監督コンビも新人らしからぬ思い切った演出をする2人だ。
2079年、凶悪事件は一向に減らず、一度逮捕し有罪を受けた凶悪犯は、二度と脱獄できない収容所を作った。それは宇宙に浮かぶ監獄《MS-1》。コールドスリープによる囚人管理システム、重火器搭載の自動防衛体制、ソーラーシステムによる半永久稼働の設備。収容された500人の凶悪犯は一分の隙もないシステムに統率された共同生活を送っていた。そこにある重要人物が視察にやってくる。以前から囚人の扱いに疑問を抱いていた大統領の娘エミリー(マギー・グレイス)だ。到着するなり、エミリーは大統領の娘という立場を隠し、所内で一番凶暴と言われる囚人ハイデル(ジョセフ・ギリガン)のインタビューをはじめる。ところがハイデルはちょっとした隙を突き、銃を盗み、コールドスリープ中の500人の囚人を目覚めさせ、刑務所職員とエミリーを人質に取り、釈放を要求し、答えが出るまで職員を1時間ごとに殺していくという。この非常事態は大統領の耳にも入る。エミリーが大統領令嬢とバレては大変なことになる。CIAはこの事態を収めるのに最適な男として元CIAエージェントのスノウ(ガイ・ピアース)を指名する。しかし彼は今、身に覚えのない同僚殺しの罪に問われている最中だ。だが彼しか適任者はいない。CIA調査官ハリー(レニー・ジェームズ)は、任務を拒むスノウに、潔白を証明する人物がMS-1に収容されていることを明かし、助けなければ罪は確定すると脅し、無理矢理向かわせる。果たしてスノウはエミリーを救出できるのか? 500人の凶悪犯vs1人の男の戦いが始まる…。
リュック・ベッソンはフランス人でありながら、また映画作りの拠点をフランスに置きながら、実にアメリカ映画に近い仕事をする。この映画だって、ベッソンの名を伏せて観たら、ハリウッド映画だと万人が思うだろう。まあ多少のスケール感やCGの出来映えなど、ハリウッドの一級品にはかなわないところもあるが、ストーリーは惹きつけられる。憎まれ口を叩きながら孤軍奮闘するガイ・ピアースもがんばっている。「L.A.コンフィデンシャル」の神経質なエリート役など、経歴からしてあまりアクション俳優という印象がないがピアースだが、なんと幼少の頃からボディビルに打ち込み、大会優勝経験もあるという。ガイ・ピアースの身体を観るだけでも価値のある映画だ。
☆「ロックアウト」2012年11月23日(金)より丸の内ピカデリー他全国ロードショー
配給:松竹 提供:カルチュア・パブリッシャーズ
© 2011 EUROPACORP
2008年の「グラン・トリノ」を最後に役者業を辞め、監督業に専念すると宣言したクリント・イーストウッド。これまでイーストウッド映画では助監督や製作のパートナーを務めてきたロバート・ロレンツが、監督デビューするのにあたって先の宣言を撤回、愛弟子のために俳優復活をする。
ガス・ロベル(イーストウッド)は大リーグ、アトランタ・ブレーブスの老スカウト。若い頃は名スカウトマンとして現在活躍する一流選手を見出したガスだが、今では視力も弱まり、体力の衰えも目立つ。パソコンやEメールも使わず、足で選手の卵を発掘する昔ながらのスタイルは、若い経営陣との意見の食い違いも少なくなく、球団側はクビを言い渡す口実を探していた。そして今年またドラフトの季節がやってきた。全米で注目されるノース・カロライナの天才バッターをスカウトし、結果を出さなくてはならない。しかし視力の低下はスカウトには致命傷だ。そこでガスの友人でスカウト部のボス、ピート(ジョン・グッドマン)は、一人娘で有能な弁護士であるミッキー(エイミー・アダムス)に旅の付き添いを頼む。ガスは妻が早くに亡くなり、男手一つで育てようとしてできなかったミッキーとは疎遠になっていた。ガスは今更娘の世話にはなりたくないし、ミッキーはミッキーで自分のキャリアを捨ててまで父親に着いていくことはしたくなかったが、父の身を案じ旅に同行する。久しぶりの親子水入らずの旅。言葉を交わすことによってお互い新しい発見や過去の真実を見つける2人。初めて向かい合った父娘が旅の終わりに見つけ出した物は…。
元々この企画はロレンツがイーストウッド監督用に取ってきた物だった。シナリオを受け取ったイーストウッドは、ロレンツがいつか監督を務めたいと思っていることを知り、この作品が初監督に最適だとロレンツに譲ったという。そしてイーストウッドは役に集中することになった。他人の監督作に出るのは1993年の「ザ・シークレット・サービス」(ウォルフガング・ペーターゼン監督)以来19年ぶりとなる。しかし出来上がった作品はいささかライトではあるが、イーストウッド色の強いヒューマンドラマに仕上がっている。
大師匠を前にして演出するのは気が気ではなかっただろうし、緊張の連続だっただろう。イーストウッドはいつもの嗄れ声で、前出演作「グラン・トリノ」のウォルトのような頑固者のオヤジ。演出をしなくていいためか、いつもよりのびのび演じている気がする。しかし、歳を取った。82歳である。1930年生まれだから、ショーン・コネリー、高島忠夫らと同い年だ。老いたエピソードが映画の端々に出てくるが、実体験ではないだろうかと思われる演技も出てくる。そして口から発せられる皮肉たっぷりのセリフ。これも最近のイーストウッドが演じる人物の大きな特長である。
イーストウッド色が強いと言っても、師匠には出せなかった味もある。ライバル球団の若いスカウトマンでジャスティン・ティンバーレイク演じるジョニーとミッキーとの淡い恋なんかは、イーストウッド映画にはなかった物だ。彼が演出するととたんに重厚になる。「マディソン郡の橋」などはいい例。
今回は製作にイーストウッドの名が連ねられているが、次作はイーストウッドなしで作品を撮ってもらいたい。評価はその時に出るだろう。
ベースボールを題材にした映画と言えば、最近だとブラピ主演の「マネーボール」だろう。頭の固い老スカウトマンを押さえつけ、データ重視でチームを編成するという、この「人生の特等席」とは真逆のテーマだ。あの映画もヒットし出来も良かったので、今作も健闘して欲しい。
☆「人生の特等席」2012年11月23日(金)より丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
© 2012 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

20世紀フォックスのオープニングロゴと共に流れるアルフレッド・ニューマンによるファンファーレ。あの超有名な曲の後に邦画が続くと、なんだか妙な気持ちになる。2002年の「OUT」から思い出した様にフォックスさんは邦画をリリースする。ワーナー・ブラザースも最近では「ワイルドセブン」や「るろうに剣心」を配給しているし。邦高洋低の今の日本映画界、アメリカの大手映画会社が邦画に目を付けるのは必然なのか。
ということでフォックス配給の邦画「カラスの親指」。別にアメリカナイズされている訳でもないが、邦画の良さを見つけることの出来る快作だ。
タケこと武沢竹夫(阿部寛)とテツこと入川鉄巳(村上ショージ)は詐欺コンビ。今日も競馬場で1人の男をまんまと騙し、金をふんだくることに成功した。ところがある日、2人で共同生活しているアパートが火災に遭う。タケは血相を変えてその場から逃げる。実はタケには8年前から引きずっているくらい過去があった。まだ普通のサラリーマンだったタケは同僚の保証人になったばかりに多額の負債をしょうことになった。サラ金の厳しい取り立てが勤務先まで及び、タケは会社をクビになり、ヤミ金業者の“わた抜き”(返済能力のない客から、最後の一滴まで搾り取る仕事)をやることに。しかしタケがわた抜きをした母子家庭の母が自殺をする。残され泣き崩れる幼い姉妹を見て罪悪感を感じるが、社長のヒグチ(鶴見辰吾)はそんなタケを一蹴。怒りを覚えたタケは重要書類を盗み警察に届ける。その結果ヒグチは逮捕されるが、その報復としてタケの家が焼かれ、一人娘まで亡くしてしまう。以降、真っ当な職にも就かず、詐欺師として裏社会で生きることにしたのだ。今回のアパート火災もヒグチの仕業だった…。
阿部寛と村上ショージの凸凹コンビがいい。今年はローマ人(テルマエ・ロマエ)、そして今回とは真逆の刑事役(麒麟の翼)と幅広い役柄をこなせる阿部と、本格的な演技は初めての村上。特に村上は今回、大阪弁を封印して大役に挑んだせいか、吐くほどの緊張感があったそうだ。その成果もあって、冒頭競馬場でのユースケ・サンタマリアをカモにするシーンは爽快である。
ヒグチの目を盗んで河川敷の一軒家に越したタケとテツは、上野の街でひとりの少女が中年男性のスーツから財布を盗むのを目撃する。気付いた中年男性から少女を助けた二人は問いただすと、少女まひろ(能年玲奈)は母が自殺をして食い扶持に困りスリで稼いでいるが。もはやアパートを追い出される寸前だという。その話を聞いたタケは「ウチに来い」と自宅に住まわせる。翌日まひろはやって来たが、姉のやひろ(石原さとみ)とそのカレシ貫太郎(小柳友)も一緒だった。恋して奇妙な5人生活が始まるが、それは案外楽しい時間だった。ところがまた家に火が付けられた。恐怖が頭をかすめるタケ。荷物をまとめ今晩の内にここを出ようというタケにまひろは言う。「また我慢するの? もう我慢はしたくない」。まひろの忠告に促され、タケは詐欺師ならではの作戦で反撃に出る。
ここで登場したまひろ役の能年がまたいい。まだ何も染まっていない素直な演技と真摯な眼差しにドキッとさせられる。19歳だがショートカットのせいか実年齢より若く見える。2010年の「告白」に出ていたのは知らなかった。来年のNHK朝の連続テレビ小説「あまちゃん」の主演に抜擢されたのも頷ける。
この5人組がヒグチ一味を相手取って大芝居を打ち、エンディングを迎え「めでたしめでたし」となると思いきや、ここが詐欺映画たるもので、まんまと観客をも騙す。この手の映画は観終わった後、頭の中で再生する。そしてもう一度映画を観たくなるものだ。「詐欺映画」ってジャンルはないけど。この前の「鍵泥棒のメソッド」や、結婚詐欺を扱った「夢売るふたり」など詐欺がテーマの映画にこのところ外れがない。
☆「カラスの親指」2012年11月23日(金)より全国ロードショー
配給:20世紀フォックス映画
© 道尾秀介・講談社/2012「カラスの親指」フィルムパートナーズ

劇団「THE SHAMPOO HAT」旗揚げ公演以来、全作品の作・演出・出演を担当した赤堀雅秋が、主演を務め、2007年に初演した戯曲を映画化。もちろんその芝居は観ていないが、実に映画的な作品だ。演劇の映画化にありがちなワン・シチュエーションではなく、舞台は多種にわたる。カットの切り替えを使用して、内面の変化を丁寧に表現できている。映画初監督である赤堀の才能に驚いた。堺雅人と山田孝之という魅力的な役者の初共演でも注目の映画だ。
東京郊外で鉄工所を経営している中村健一(堺雅人)は、5年前に最愛の妻・久子(坂井真紀)がトラックに轢き逃げされ亡くなったことを今でも引きずっており、無気力な生活を送っている。遺骨を未だにテーブルの上に置き、事故に遭う直前に吹き込まれた久子の留守番電話を繰り返し聞き、糖尿気味でストップをかけられていたプリンを食べ続けている。久子の兄・青木(新井浩文)はそんな中村を心配し再婚を進めるが、中村にはそんな気はまるっきりない。一方、轢き逃げ犯・木島宏(山田孝之)は刑期を終え、友人の小林(綾野剛)の家に転がり込み、タクシー会社で研修を受けるがやる気はゼロ、相変わらず無反省に生きていた。ただ、1か月前から木島の元に「お前を殺して俺も死ぬ 決行まで後○日」と書かれた無記名の脅迫状が毎日届いていた。そしてその日はあと数日まで迫っていた。木島から脅迫状の件を聞かされた青木は中村を止めようとするが、どこかに妹の復讐心があり言えずにいた。そしてついに決行日、久子の5回目の命日でもあるその日、中村と木島は対峙する…。

堺は得意の笑顔を封印して、亡き妻を思い続け、静かに木島への復讐を狙う中村を好演。分厚いレンズの眼鏡に、べたべたの髪というこれまでのイメージと違う役に挑んでいる。また山田も、狂気的な暴力とその裏に潜む人を惹きつける負の魅力を持った木島を熱演している。それにしても山田孝之という俳優、何を演じても“死”のイメージが付きまとう。別に最後に死ぬ役って意味ではない。コメディを演じてもシリアスなドラマでも、醸し出す雰囲気は“死”だ。
中村が憧れていたのは普通の生活。これは誰でも出来ることだが、普通というのは意外に難しい。映画に象徴的に現れるプリンに例えても、普通のプリンは誰にでも作れるが、固すぎてはプルプル感が出ないし、柔らかすぎては崩れてしまう。例え上手く作れても外的圧力ですぐ壊れてしまう。中村にとって木島は外的圧力に他ならない。
ラストの二人対峙のシーン。中村は持っていた包丁を投げ捨て、メモを読み出す。それはこの1か月木島が何を食べたかのリストだ。毎日にたようなコンビニ弁当やインスタント類。そしてこう叫ぶ「君は生きているんだよ。ただ何となく生きているんだよ」。そして「君は最初からこの物語には関係なかった!」。木島は中村の人生に関係なかったと割り切ることによって、復讐もせず、自分の中で完結させる。そして留守電メッセージも消去し、新しい普通の生活がはじまるのだ。

☆「その夜の侍」2012年11月17日(土)より全国ロードショー
配給:ファントム・フィルム
© 2012「その夜の侍」製作委員会

「ウィンターズ・ボーン」でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされ、続く今年2月公開(日本では9月)の主演映画「ハンガー・ゲーム」では全米興行成績4週間連続No.1を記録するなど、今乗りに乗っているジェニファー・ローレンスの最新主演作がこのスリラー映画「ボディ・ハント」だ。決してとびっきりの美人ではないけど、演技力は確か。恐怖に引きつる顔や、叫び声は真に迫る。
17歳の高校生エリッサ(ジェニファー・ローレンス)は両親の離婚のため、母サラ(エリザベス・シュー)と共に郊外の一軒家に引っ越した。街から離れているとは言え、この広さで家賃が驚くほど安いのは、4年前に隣家で起きた猟奇殺人のせいだった。13歳の少女キャリー・アンが就寝中の両親を刺し殺し、行方をくらます…。そんなワケあり物件であることは、エリッサ達も知っていたが、低家賃の魅力には勝てなかった。しかし、もう誰も住んでいないと思っていた隣家に、キャリー・アンの兄ライアン(マックス・シェリオット)が住んでいた。事件当時、伯母の家に預けられていたライアンは、莫大な遺産を手にし、この家に一人住んでいたのだ。しかし周囲はそんな家にまだ住んでいる彼を変人扱いしていた。新しい高校生活をスタートさせたエリッサは偶然夜道でライアンと出会う。最初は距離を取っていたが、話をする内に回りが言うほど奇人でもないライアンに次第に惹かれていくのだった。ライアンも心打ち解けたのか、妹キャリー・アンの過去を明かす。二人でブランコに乗っていた時、自分の不注意で妹が落ち、それが原因で脳障害を起こし、それから全くの別人になってしまったと。しかし彼にはエリッサにも明かせない秘密がまだあった。自宅の地下室に監禁された女性。この女性は何者か? そしてその女性がライアンの目を盗んで地下室から抜け出して、エリッサの家までやってくる!
この映画の魅力はジェニファー・ローレンスの演技力にもあるのだが、もうひとつ、卓抜したストーリー展開にある。原案はジョナサン・モストウ。「ブレーキ・ダウン」や「U-571」、「サロゲート」の監督でもあるモストウは捻りのきいたドラマを創造した。地下室にいる女性は誰なのか? 何故ライアンは彼女を地下室に監禁しているのか? そして彼女が地下室を抜け出した理由は何か? おそらく観客は閉じ込められているのが誰で、何故閉じ込められて、どうして出たがっているのかは容易に推理できるだろう。ところがストーリーが進んでいく内にそのすべての予想が覆される。あまり詳しく言うと、映画鑑賞の面白みが半減されてしまうのでここまでにするが、まさにミスリードのオンパレードだ。
妹の名前、「キャリー・アン」。映画「ポルターガイスト」に出てくる金髪の少女も同じ名前(Carol Anne)だ。これを演じた子役ヘザー・オルークは「ポルターガイスト3」の撮影直後に急死したのは有名な話だ。そんなことが頭にちらつきながら観てしまったのも、製作陣が仕掛けたミスリードなのか?
☆「ボディ・ハント」2012年11月17日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
配給:ポニーキャニオン
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現在でも映画一本の出演料が15億円とも言われている、ハリウッドを代表するスター、ニコラス・ケイジ。キャリアだって「リービング・ラスベガス」(1996)でアカデミー賞主演男優賞を獲っているし、家柄だって、フランシス・フォード・コッポラを叔父に持ち、いとこにソフィア・コッポラもいる。ただ私生活は波瀾万丈で暴行、治安妨害、公衆酩酊の容疑で逮捕歴もあり、アメコミマニアや、カーマニアとしても浪費癖がある。そのため莫大な借金を抱えているとも噂され、ここのところ「何でこんな作品に?」という様なB級映画にも進んで出演している。
今年の日本公開作はこれで3本目になる「ゲットバック」も大作感は全くないが(“怒らすケイジ”という惹句も、体感気温を5,6度下げる)、まだニコラス・ケイジがキラキラしていた時代の名作「コン・エアー」(1997)でタッグを組んだサイモン・ウエスト監督とのコンビでスリルある展開のアクション映画になっている。サイモン・ウエストは「エクスペンダブル2」の監督でもある関係で、次作「エクスペンダブル3」にニコラスも参加が決定したという話もある。
天才的銀行強盗ウィル(ニコラス・ケイジ)は長年組んでいる3人の仲間と夜の銀行に侵入し、1000万ドルを強奪に成功する。しかし、以前からウィルを追っているFBIのハーランド(ダニー・ヒューストン)はこのヤマを見張っていた。SWATが投入されると、ウィルら仲間はパニックに。現金を運び出すところをホームレスに見つかる。仲間の一人ヴィンセントは(ジョシュ・ルーカス)は目撃者を殺そうとするが、ウィルの中に“殺し”はない。やむを得ずウィルはヴィンセントの足を撃つ。そんなモメ事の内についにウィルは取り押さえられてしまう。しかしその直前、ウィルは証拠隠滅のため1000万ドルを焼却してしまう。それから8年、刑を終えたウィルは出所。その足で疎遠になっていた娘アリソン(サミ・ゲイル)に会いに行く。しかし自分を裏切った父を疎ましく思っているアリソンに面会を拒否される。しぶしぶ帰るウィルの携帯にヴィンセントから連絡が入る「娘を預かった。俺の分け前をよこせ」。8年前、ウィルに撃たれ足を失ったヴィンセントは、まだウィルが1000万ドルを隠し持っていると信じていたのだ。焼き捨てたと言っても信じてもらえない。困ったウィルは当時逮捕されたハーランドに助けを乞うが、ハーランドも1000万ドルはウィルが持っていると思い、逆に追われる身となる。警察の捜査網をかいくぐり、娘を捜すウィル。そして同時に身代金となる1000万ドルを工面するために無謀な銀行強盗を計画するが…。
リオのカーニバルと並ぶ世界の主要カーニバルの一つ、ニューオリンズのマルディグラの中、警察に追われ、ヴィンセントを追うウィルのトリッキーな動きが面白い。近くにいるのにカーニバルの喧噪で叫び声すら聞こえないもどかしさ。この追跡劇の面白さは、流石メリハリの効いたサイモン・ウエストの演出が冴える。しかし面白いのはそこまでで、身代金を作るための金塊強盗はちょっといただけない。8年前に盗みに入った銀行で、そこで地下に眠る金塊の山を見た。それを盗み出そうという計画。8年間も同じ場所に保管していると信じ込むあたり脚本が弱い。盗み出す方法も、こんな事で成功するなんて、銀行のセキュリティをバカにしているとしか思えない稚拙さである。
ヴィンセント役のジョシュ・ルーカスがいい。ウィルに撃たれた右足を義足に変え、ジャンキーの様に髪をふり身がして暴れる姿は、前半に見せた端整な顔立ちがウソの様。ニコラス・ケイジを完全に喰っている。
☆「ゲットバック」2012年11月10日(土)より新宿ミラノ、ユナイテッド・シネマ豊洲ほか全国ロードショー
配給:日活
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ここ数年、宝島社「このミステリーがすごい!」のランキングでトップになる作品は、必ず映画化、TVドラマ化されている。2006年「容疑者Xの献身」、2008年「警官の血」、2009年「ゴールデンスランバー」、2010年「新参者」、そして2011年はこの「悪の教典」だ。貴志祐介が書いたこの小説、週刊文春「ミステリーベストテン」でも1位を獲り、第1回山田風太郎賞受賞、第144回直木三十五賞候補、第32回吉川英治文学新人賞候補、2011年本屋大賞ノミネートと輝かしい記録を打ち立てている。今回初の映像化に挑戦するのは、三池崇史監督。今年に入ってすでに「逆転裁判」(2月)「愛と誠」(6月)と2本送り出しているが、相変わらず多作である。その三池監督の原点に返った様なバイオレンス映画になっており、東宝としては2000年に入ってから「愛の流刑地」「告白」に続く3本目の〈R15+〉映画となっている。
蓮実聖司(伊藤英明)は晨香学院高校の英語教師。ハーバード大学院でMBAを取得、アメリカの金融会社に就職するも2年で退職、帰国して高校教師に転職したという変わり者。しかし、爽やかな風貌と親しみやすい性格で、生徒からは「ハスミン」と慕われ、また学校内で起きる諸問題も先頭に立って解決する実行力を持ち同僚からも信頼を得ている、いわば“教師の鏡”ともいえる人物だ。「私は2年4組を完璧なクラスに仕上げたい、心からそう思っています」こんなセリフも蓮実が吐けば真実味を帯びる。ある日、受け持ちの女子生徒から相談を受ける。クラスメイトの美彌がコンビニでの万引きをネタに体育教師の柴原(山田孝之)からセクハラを受けている…。蓮実はすぐさまコンビニに美彌を連れて代金を払い詫びを入れ、逆に柴原を問い詰め謝罪させた。この行動力に美彌は蓮実に好意を抱く。そんな時事件が起きる。娘がイジメに遭っていると学校に乗りだしてきたモンスターペアレントに辟易していた蓮実だったが、その家が火災に遭い親は焼死する。親の吸った煙草のポイ捨てが原因なのだが、ネコ避けに使用していた水入りペットボトルが灯油にすり替えられていたのだ。その頃から蓮実の行動に疑問を持つ物理教師の釣井(吹越満)が過去を探り出す。
蓮実は自分の目的を妨げる障害を排除するためなら手段を選ばない。理想のクラスを作るには殺人も厭わないというサイコパス(反社会的人格を持つ精神病質者)だ。ペットボトルの水を灯油にすり替えたのも、自分の過去を調べ始めた釣井を自殺したように見せかけ殺したのも、肉体関係を持ちわずらわしくなった美彌を屋上から突き落としたのも、蓮実の理想のために行った事だ。しかしそれだけやれば綻びも見えてくる。それを隠すためにまた殺人を繰り返す。そしてクライマックスは2年4組全員処刑だ。それも犯人は別の男に仕立てる。同性愛者である美術部顧問の久米(平岳大)が教え子の男子生徒との深い関係がバレたため、腹いせに犯行したとお膳立てをする。久米の趣味であるクレー射撃の散弾銃を殺人に使用する用意周到さ。
この前代未聞の殺人鬼を、つい4か月前、同じ東宝の「BRAVE HEARTS 海猿」で命を張って人命救助していた特殊救難隊員。仙崎大輔を務めた伊藤英明が演じているのが面白い。「一発で二人殺すのは難しいなあ」と平然と言い張る蓮実の異常さは、「海猿」とは真逆だ。もうシリーズ終わったから、ヤケになっているみたい。
三池の演出はいきいきとしている。特に後半の殺戮シーンは初期のVシネマ時代を彷彿とさせる。前作「愛と誠」のミュージカルシーンの歌を銃声に変えた様なハツラツとした映像。この2作で三池作品は復活した感じだ。
先月からBeeTVやdマーケット VIDEOストアで前日譚に当たる物語「悪の教典−序章−」を配信している。アメリカの金融会社勤務時代や晨香学院高校に赴任仕立ての出来事がわかり、これを観ると、この映画がかなり深く解るのでオススメだ。
☆「悪の教典」2012年11月10日(土)より全国東宝系にてロードショー
配給:東宝
© 2012「悪の教典」製作委員会