芸能デスックリーン

アウトロー  Jack Reacher 2013.01.30

 原作はすでに17冊発行されているリー・チャイルドのベストセラー小説「ジャック・リーチャー」シリーズ。その中の9番目の作品「One Shot」が本タイトルとして映画化された。題名通り、世の常識に囚われない型破りな元陸軍エリート捜査官が事件を解決していくサスペンスアクションだ。

 ピッツバーグ近郊の街で6発の銃声が響く。川沿いを歩いていた5人の男女が無差別に射殺されたのだ。不思議と多く残された現場の証拠品から元米軍狙撃手のジャームズ・パー(ジョセフ・シコラ)が逮捕される。取調中のパーは黙秘を続けていたが、突然紙に走り書きをする。《ジャック・リーチャーを呼べ》。ジャック(トム・クルーズ)は元陸軍の秘密調査官で、2年前に除隊して以来姿を消し、運転免許の取得歴や住所登録もない、クレジットカード、携帯電話も持たない世捨て人のような男。連絡が取れず困っていた地方検事アレックス・ロディン(リチャード・ジェンキンス)の前に忽然とリーチャーは現れた。リーチャーはパーが以前イラクで起こした銃撃事件を追っていたのだ。しかし、何故パーは自分を追いつめるリーチャーを呼んだのか? リーチャーにも判らないパーの行動を知るために、パーの弁護士ヘレン・ロディン(ロザムンド・パイク)はリーチャーを調査員として雇う。捜査を進めていく内に、パーの他に真犯人がいるのではないかという疑念が持ち上がるが…。

 トム・クルーズはこの作品をシリーズ物にしようと考えている。17タイトルの内一番映画的で見栄えのいい第9話を初っぱなに持ってきて、弾みを付けようとした。しかしトムにとってアクション映画のシリーズはすでに「ミッション:インポッシブル」が存在する。IMF(インポッシブル・ミッション・フォース)のイーサン・ハントと、元USアーミーのジャック・リーチャー。目的は悪の退治だが、ハイテクを駆使して操作するイーサン・ハントと比べてジャック・リーチャーは無骨。身体を使っての戦闘や武器もせいぜいライフルなどの銃火器。シリーズとして巨大になりすぎて元に戻れなくなった「ミッション:インポッシブル」の代わりに、アクションの原点回帰ということでこのシリーズ化に踏み切ったのだろう。ほとんどのアクションがスタントなしのトム本人がこなしている。カースタントも同じ。メーキング映像を観る機会があったが、スピンを繰り返し障害物に当たるシーンは実際にトムが運転していた。

 全米では昨年のクリスマスシーンズンに公開したが、パラマウント・ピクチャーズが続編製作に踏み切る目標興行収入2億5000万ドル(約200億円)を超えていない。トム人気の高い日本の成績が運命を左右するだろう。


☆「アウトロー」2013年2月1日(金)より丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
配給:パラマウントピクチャーズ ジャパン
© 2012 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日  Life of Pi 2013.01.22

 今作の監督アン・リーの作品は全部いい。デビュー作「推手」から3作は母国台湾、もしくは台湾・アメリカの合作映画だが、4作目の米英合作映画「いつか晴れた日に」がアカデミー賞脚本賞を受賞し脚光を浴びる様になる。続く「アイス・ストーム」では不安定な2つの家庭の葛藤を描き、「楽園をください」で南北戦争の若者を取り上げ、「グリーン・デスティニー」では香港映画のワイヤーアクションを大胆に取り上げ、中国圏の任侠映画に大きく影響を与えた。そして「ハルク」。アン・リーにとっては初めて高額な製作費を使っての大作だったが見事に大コケ。でも私からしてみれば、アメコミ特有のコマ割を大胆に映画に活かした「アメコミの味を損なわないアメコミヒーロー映画」としては最高の作品と思っている。しかし批評家からは“失敗作”のレッテルを貼られ、アン・リーは終わった感が漂う中、続いて発表した「ブロークバック・マウンテン」ではアカデミー賞作品賞を含む8部門ノミネート(結果は監督、脚本、主題歌賞の3つ受賞)という快挙を達成。とにかく多種な作品を自分の色に染めて良作にするフィルムメーカーだ。
 前置きが長くなったが、今作の「ライフ・オブ・パイ」は初の3D映画で、あのジェイムズ・キャメロンが絶賛する立体映画になっている。

 インドで小説を書こうとして挫折を繰り返しているカナダ人ライターは、作品のテーマを探すため、知人の紹介でモントリオールに住むインド系カナダ人パイ・パテルを訪ねる。このパイという名の男に会えば神を信じるようになり、面白い物語が書ける様になると聞いたからだ。そしてパイの口から発せられた身の上話は想像を絶する物だった。
 1960年代のはじめ、インド南部の街で生まれたパイは、父親の経営する動物園で様々な動物に触れあい自由に暮らす少年だった。ただ飼育員からはベンガルトラだけは気をつける様に言われていた。16歳になった1976年、不況のため動物園を閉鎖、一家は動物を売りさばくためにカナダに移住することになる。日本の貨物船をチャーターし多くの動物たちと太平洋を渡る途中、巨大な嵐が通過。貨物船は転覆沈没し、救命ボートに辿り着いたのはハイエナ、オランウータン、足の折れたシマウマ、そしてリチャード・パーカーと名付けられたあの凶暴なベンガルトラとパイだけだった。やがてシマウマらが死に、リチャード・パーカーのエサになる。パイはボートに積まれてあった大量のビスケットと飲料水で何とか飢えはしのげたが、助けが来なければ確実に餓死する、いやその前にリチャード・パーカーに喰われるかも知れない。あの時の飼育員の言葉がいっそう恐怖感を煽る。果たしてパイは腹を空かした獰猛なベンガルトラとこの絶望的な極限状況を生き抜いていけるのか。

 キャメロンが褒めるだけあって3D効果は素晴らしい。映画の大半は海のシーンという平面的な世界を幻想的で神秘的な映像に作り上げている。そもそも3Dは現実に目に見える世界を視覚に訴える物だが、アン・リーはそこにアーティスティックな物を付け加えた。それは3Dだけに頼った物ではない。一時も同じ物を見せない海の色彩や質感。陸地の様に固形に見せたり、宇宙空間のように無限の世界に似せたり。行けども行けども変わりばえのしないはずの広い太平洋をこれだけバリエーションを付けられるアン・リーの映像感覚に驚く。そしてトビウオの大群や海面一面を蒼く覆うクラゲ、スピリチュアルなクジラのブリーチング。果たしてこれは現実なのか幻想なのか?
 
 トラとのシーンはほとんどがCGだという。どう見ても本物としか思えないトラの表情や仕草。ワイヤーアクションやアメコミ映画に新しい息吹を吹き込んできたアン・リーが、3DやCGにもまだまだ挑戦していく予知があることを教えてくれる。 

 先ほど、パイの語る身の上話は現実か幻想かと書いたが。その答えは辿り着いたミーアキャットが生息する不思議な島にある。何があったかはネタバレになり、結末を語ってしまうことになるので伏せておくが、この映画はストーリーと視覚の両面で楽しめる奇跡の映画である。


☆「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」2013年1月25日(金)よりTOHO シネマズ日劇ほか全国ロードショー<3D・2D 字幕版/日本語吹替版同時上映>※一部劇場を除く
配給:20世紀フォックス映画
© 2012 Twentieth Century Fox

テッド  Ted 2013.01.16

 本作は昨年6月に全米公開されたが、前週の1位2位だった「メリダとおそろしの森」「マダガスカル3」という強力アニメ勢を蹴落とし、初登場1位を獲得したコメディ映画。主演はアクション俳優としての地位も確立しているマーク・ウォールバーグ。そしてその相棒を務めるのはテディベアのテッドだ。

 1985年のボストン。8歳のジョンは友達のいない少年。いじめられっ子のユダヤ人にも嫌われる浮いた存在だった。そしてクリスマス・イヴ、ジョンに初めて友達が出来た。両親が買ってくれたジョンと同じぐらいの身長を持つテディベアだ。《イヴの願いは必ず叶う》という言い伝えを信じ、ジョンはテッドと名付けたクマのぬいぐるみが喋られるよう願った。すると翌朝、テッドは喋り出したのだ「君と僕は一生親友だよ」。これには贈った親も仰天。その噂は街中に広まり、やがて全国にも知れ渡るようになり、TVショーにも出演、テッドは一躍“時の人”ならぬ“時のクマ”になった。
 それから27年、35歳のなったジョン(ウォールバーグ)とテッド(声:セス・マクファーレン)の友情は相変わらず続いていた。とは言え、大人になると親友だけでは物足りなく、異性にも目覚めてくる。4年付き合ってきた恋人ロリ(ミラ・クルス)との将来を考える時期が来たのだ。ロリの気持ちも同じだったが、どうもテッドが邪魔に思う。そしてついにロリは「私とテッド、どっちか選んで」と究極の選択を要求してきた。テディかレディか…。当然ジョンはテッドと別れを告げる。1人で暮らすことになったテッドはスーパーのレジ打ちのバイトをはじめるが、その帰り「昔からテッドのファン」というストーカー親子に誘拐されてしまう。はたしてジョンの取った行動は…。

 ここまで読むと、ディズニーが作ってもおかしくないストーリー展開だと思うだろうが、実はこれ、歴とした〈R15+〉の映画なのだ。その理由はテッドの行動にある。大人になったジョンと同様テッドも成長し(見た目は変わらないが)、ナンパはするは、F○○Kは連発するは、クスリはやるはのやりたい放題。チ○チ○ないのに娼婦4人を囲っての。また映画の内容も、ライアン・レイノルズをゲイに描くし、ノラ・ジョーンズはテッドのセフレになっている。ブランドン・ラウスに至っては「スーパーマン俳優のダメな方」と扱き下ろす。本人、よく怒らないなあ。

 おもちゃやヌイグルミは喋りだすのは「トイ・ストーリー」が有名だが、これは人前では大人しくしている。でもこのテッドは誰の前でも平気で喋りまくる。こんなパターンもあるんだと変な感心もした。そんな態度が人気に火がつき、あんまり賢くないから隠すことなくクスリもやる。それがバレて、あれだけマスコミに持て囃されたのに、あっという間に過去のクマになってしまう。ファンタジーと思いながら妙に現実的だ。

 監督はテレビアニメ「ファミリー・ガイ」で受賞経験もあるセス・マクファーレン。テッドの声も担当している俳優でもある。この映画の成功より今年のアカデミー賞授賞式の司会を務める。いかに「テッド」がアメリカ人に受けたがわかる抜擢である。そのアカデミー賞で「テッド」の“Everybody Needs A Best Friend”が主題歌賞にノミネートされた。さてどんな歌だったか? 劇中の“F*** You Thunder Song”が強烈すぎて主題歌を思い出せない。


☆「テッド」2013年1月18日(金)よりTOHOシネマズ スカラ座ほか全国ロードショー〈R15+〉
配給:東宝東和
© 2012 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

東ベルリンから来た女  Barbara   2013.01.15

 韓国には「JSA」や「ブラザーフッド」、「プンサンケ」など、軍事境界線で分かれた北と南を取り上げた優秀な映画がいくつもある。またドイツでも「善き人のためのソナタ」や「グッバイ・レーニン」、「トンネル」など西と東を分けたベルリンの壁を題材にした映画が数多くある。
 今回の映画「東ベルリンから来た女」も、ベルリンの壁崩壊の9年前を描いたドイツ映画だ。

 1980年、東ドイツのバルト海岸の小さな町に、女医のバルバラ(ニーナ・ホス)がやってくる。彼女はかつては東ベルリンの大きな病院に勤務していたのだが、自由思想に憧れ、西ドイツへの移住申請をしたが政府に却下され、この地に左遷させられたのだ。
 ベルリンの壁崩壊以前1970年代以降のドイツは、東西の交流は盛んになっていた。ここが朝鮮半島の軍事境界線と大きく違うところだ。もっと言えば東ドイツ市民は、西に移り住むことが可能だった。東ドイツ政府はその体制に不必要、または危険分子と見なした人物に西への移住を許可していたのだ。しかし将来東で役立つだろうと思われる人物の移住はそう簡単に許可が下りない。バルバラはちょうどそのような人物。それどころか西に移り住みたいという意志を見せたばかりに、逆に危険思想の人物と決めつけられ、国家警察である“シュタージ”の厳しい監視がつく事になる。

 バルバラはそのせいか、職場の仲間とは一線を引いて打ち解けようとしない。上司に当たるアンドレ医師の「孤立しない方がいい」と言う忠告も無視する。ニーナ・ホスの凜とした表情がバルバラの意志の強さを物語っている。しかし帰宅すればそこにシュタージが待ち伏せし家宅捜査や身体検査など屈辱的な仕打ちを浴びる。実は彼女、密かに東ドイツからの逃亡計画を練っていた。西に住む恋人ヨルクの資金援助によりそのチャンスをじっと待つバルバラ。ヨルクは東西に行き来が容易に出来るらしく、バルバラと密会を重ねる。物語はアンドレとヨルクの二人の男性の間で揺れるバルバラの恋愛映画と思われるが…。

 ある日ひとりの少女ステラが病院に運ばれてくる。トルガウの矯正収容施設から脱走し逃亡中、 髄膜炎にかかってしまったのだ。この少女の存在が、恋愛ドラマからサスペンスを帯びた人間ドラマに変貌していく。

 1時間45分のそう長くもない映画だが、詰め込まれているストーリーは莫大。ベルリンの壁崩壊前のドイツ、シュタージの意地の悪さ、強制収容施設の存在、一度の失敗が人生を棒に振る東の実情、医師としてのモラル、逃亡の困難さ…。去年のベルリン国際映画祭で銀熊賞(監督賞)や、今年のアカデミー賞外国語映画賞でドイツ代表作に選出されるのも頷ける。全く余韻を残さないエンディングもいい。

 ナイフで切り裂く様な冷たさを醸し出す当時の東ドイツの空気感が、セリフも少なく、外連のない演出で味わうことが出来る佳作だ。

 

☆「東ベルリンから来た女」2013年1月19日(土)よりBunkamuraル・シネマ、川崎チネチッタほか全国順次ロードショー
提供:ニューセレクト 配給:アルバトロス・フィルム
© SCHRAMM FILM / ZDF / ARTE 2012

ももいろそらを 2013.01.14

 2011年の東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門で上映され、その作品賞を受賞した作品である。一昨年の「ミツコ感覚」や、昨年の「先生を流産させる会」など年に1本や2本、ドキッとさせられる邦画で、しかも新人監督の作品を観ることがあるが、今年はこれに尽きるだろう(まだ2013年は始まったばかりなので前言を撤回するかも知れないが…)。

 川島いづみ、高校一年生。どこにでの居る少女だ。彼女の日課といえば新聞記事の採点。いい記事にはプラスの点をあげ、「こんなの新聞に載せるなよ」という記事にはマイナス点を付ける。いつも総合評価は 0点以下だ。ある日いづみは大金30万の入った財布を拾う。中に入っていた学生証を頼りに財布を届けようとするが、その表札を見て呼び鈴を押すのをためらう。その家の主は、いづみが先日新聞記事で見かけた天下り官僚だった。モヤモヤした気持ちで学校をさぼり、いつもの釣り堀に行くと、不景気で借金を抱えた顔見知りの印刷屋がやってくる。いづみは「この金は悪い役人が市民からかすめ取った物だから」といって、20万円を貸す。ところが、いつものツレ、蓮実と薫に財布のことがバレ、しかも持ち主がイケメン男子と判り、むりやり財布を届けに行くことになる。持ち主の光揮は中身もろくに見ず、お礼としていづみたちに3万円を渡す。しかしその数日後、いづみの前に光揮が現れ、金が足りないと文句を言いに来る。光揮が言うには、この金は入院中の好きな子に外の素敵な風景を見せるためのカメラを買うお金とのこと。それに対して金は返せないと突っぱねるいづみ。光揮は、「ならば、病人が早く退院したいと思える様ないいニュースだけを扱う新聞を作ってくれ」と交換条件を出し、いづみはそれを飲む。

 驚かされるのはセリフの多さと多彩な言い回し。最近の女子高生がこんな言葉を使うのかとビックリするセリフが連発。特にいずみが光揮に言い放つ“アナルファッカー”は強烈。単なる悪口ではなく、意味不明なタイトル「ももいろそらを」と共にラストで意味がわかる仕掛けになっている。 

 監督は小林啓一。TVのバラエティ番組やミュージックビデオ、Vシネマを経て、本作が長編映画デビューとなる。ミュージックビデオ・ディレクター出身の演出家にありがちの短いカットの積み重ねや、奇妙なアングル、有り得ない色彩などのとんがった演出は一切なく、極めてオーソドックス。他と違うところは前編モノクロで撮ったというところぐらい。これにも「未来から見れば今はすぐ過去になる」という意味を含んだ演出である。なかなかしたたかだ。わりと長回しを多用し、文字数の多いセリフ。役者は芝居、セリフを自然にこなせる様になるまで入念にリハーサルしたのだろう。

 ヒロイン川島いづみ役の池田愛も本作が映画初出演。すぐに折れそうになる気持ちを、見せかけの威勢とちゃきちゃきの江戸弁でカモフラージュする難しい役どころを堂々とした演技で映画を引っ張っていく。他の出演者もまだまだ無名名少年少女たちだが、それがかえって新鮮で瑞々しい。今の高校生はマジで江南だろうなと納得させられる。自分の高校時代はもうはるか30年以上も前。ダブるところがある様なない様な、軽いノスタルジーを体験させられる映画だった。

 ところで映画冒頭に、「自分は過去に罪を犯した そしてこの先も犯すだろう…」的な詩が流れる。それはいづみが2035年9月にしたためた物とある。これが本編にどう関係してくるのか、どう考えても謎である。

 
 ☆「ももいろそらを」2013年1月12日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー
配給:太秦
© 2012 michaelgion All Rights Reserved.

LOOPER/ルーパー  Looper 2013.01.08

 今年ブルース・ウィリスの映画は7本公開する予定だ。今作を皮切りに、来週は「噂のギャンブラー」、来月は「ファイヤー・ウィズ・ファイヤー 炎の誓い」「ムーンライズ・キングダム」、「ダイ・ハード/ラスト・デイ」、6月には「G.I.ジョー バック2リベンジ」、そして年末には「RED レッド2」。コメディあり、アクションあり、新作や続編まで、57歳大活躍である。
 で、今作は近未来を舞台にしたSFアクションだ。タイムトラベル物だが、その発想と時間旅行の新しい解釈として、とても興味が持てる作品だった。

 2074年、すでに開発されていたタイムマシンは法によって使用は禁じられていたが、一部の犯罪組織は闇で活用していた。すべての人間にマイクロチップが埋め込まれ、殺人が不可能となったこの時代、敵を消し去りたい場合はタイムマシンで30年前の2044年に転送し、その時代の“ルーパー”と呼ばれる処刑人が始末するのだ。ルーパーは未来から指定された場所と時間に銃を構え、ターゲットが送られてくるや否や射殺する。報酬はターゲットに縛り付けられた銀塊だ。腕利きのルーパー、ジョー(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)は、この日も淡々と仕事をこなすはずだった。しかし未来から送られてきた人物を見てたじろぐ。その男は歳を重ねてはいるものの、紛れもなく自分の30年後の姿だった。将来の自分の姿を確かめようとしたのか、ふさふさした今の髪が30年後にはすっかり無くなっているショックからか,引き金を引くのを一瞬ためらう。その隙に“オールド”ジョー(ブルース・ウィリス)は“ヤング”ジョーの隙を突き、逃亡する。ターゲットを逃すことはルーパーにとってそれは死を意味するもの。即座にルーパーの元締めエイブ(ジェフ・ダニエル)の部下からヤングジョーは命を狙われることになる。ヤングジョーはその追っ手から逃れながらもオールドジョーを探す。そんな若い自分を嘲笑うかの様に老練なオールドジョーはヤングジョーを出し抜いていくが…。

 実のところ、オールドジョーが30年前にやってきたのはひとつの大きな目的がある訳なのだが、その理由というのがまさにタイムトラベル物の真骨頂、《過去の改竄》である。ヤングジョーがオールドジョーにメッセージを送るために、腕に刃物で字を書く。ヤングジョーの腕は血まみれになるが、30年後のオールドジョーの腕には突如古傷として字が浮かび上がる。これはオールドジョーがヤングジョーに会わなければ出来ない傷だ。またオールドジョーは自分を殺そうとするヤングジョーをエイブの手下から守ってあげなくてはならない。ここで死なれるとオールドジョー自体の存在も消えてしまうからだ。いや、今オールドジョーが生きているのは、どんな事があってもヤングジョーは死なないと判っているからか? タイムトラベルの大きな分かれ道は“パラレルワールド”を前提とした《過去は変えられる》か、“親殺しのパラドックス”に代表される《過去は変えられない》の2つだ。この映画はその両方を上手くミックスしている。H・G・ウェルズが生み出した「タイムマシン」の絶対条件に「同じ場所、同じ時間に同じ人物は存在できない」というのがあるが(例「バック・トゥ・ザ・フューチャー」)、そんなことはお構いなし。ダイナーで30歳年の離れた二人の同じジョーが会話をするシーンまである。

 それにしてもジョセフ・ゴードン=レヴィットとブルース・ウィリス。この似ても似つかない二人を同一人物にするという発想は凄い。レヴィットが特殊メークで目のあたりをウィリス風にしているが、似ているのはそこだけ。映画の中でも2044年の1年後、3年後、6年後、10年後、23年後のジョーが出てくるが、10年後でいきなりブルース・ウィリスのジョーになり、髪の毛が寂しくなる。今の特殊メーク技術なら、レヴィットで30年後のジョーも可能だと思うが、そうしなかったところに、レヴィットの一人主役じゃまだまだ客が入らない、ウィリスとの両看板がいいと踏んだのだろう。そんなことだからウィリスの出演作が増える訳だ。

 監督のライアン・ジョンソンは2005年のデビュー作「BRICK ブリック」で注目された気鋭のフィルムメーカー。ところが2作目の「ブラザーズ・ブルーム」で大コケ。日本では劇場公開もされなかった。起死回生で挑んだこの3作目は、英紙ガーディアン電子版のおたくコラム「WEEK IN GEEK」が選んだ2012年ベスト映画で1位に選ばれたり、英語圏最大手の映画レビューサイト「Rotten Tomatoes」の「2012年のベスト・ムービーズ」でも、94/100という高いポイントを得ている。数出ている割には「・・・」な作品が多かったウィリスの久々の当たり作と言えるだろう。


☆「LOOPER/ルーパー」2013年1月12日(土)より丸の内ルーブルほか全国ロードショー
配給:ポニーキャニオン
© 2012 Looper, LLC. All rights reserved.

96時間 リベンジ  Taken2 2013.01.07

 日本では信じられないぐらいアメリカではこのシリーズ、当たっている。2009年公開の前作「96時間」は製作費2500万ドルで全米興行収入1億4500万ドルを稼いだ。昨年10月5日に全米公開したこの「96時間 リベンジ」はさらに凄く、2週間で製作費4500万ドルの倍以上の収入を上げている。「シンドラーのリスト」や「スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス」など渋い演技で名を馳せたリーアム・ニーソンだったが、このシリーズでアクションもイケる事が証明でき、190cm以上ある長身を活かして還暦とは思えぬ動きで暴れまくる姿は、将来「エクスペンダブルズ」の一員になること間違いなしだ。

 話は前作を知った上で観た方がいい。そのためか、去年10月に行われた完成披露試写では来場者全員に前作のDVD(1490円)が配られた。このご時世何とも気前がいい。
 という訳で前作を軽く紹介すると、仕事の激務から妻子と別れ手暮らす元CIA工作員ブライアン(ニーソン)。離れて暮らしても娘キム(マギー・グレイス)の事が心配で仕方がない。友人とパリ旅行に行くと告げられた時も危険だと一度は反対をするが、かわいさから許してしまう。ところが悪い予感は的中。アルバニア系人身売買組織にキムはさらわれてしまう。それを知ったブライアンは単身パリに飛び、CIA時代の経験を活かした超人的な活躍で娘奪還に成功する…。

 原題TAKENは「連れ去られて」という意味。前作はタイムリミット96時間ということで、この邦題がついたが、今作は96時間という時間は何も関係がない。まさか続編が出来るとは思っていなかったフォックスさんの邦題の付け方、失敗です。

 前作の事件から2年、相変わらず一人で暮らすブライアン。ただ、事件のトラウマから解放されつつあるにキムに車の運転を教える(この車の運転が後の伏線になっている)など、相変わらずの親バカぶりを発揮、平穏な日々を送っていた。そんなある日、元妻レノーア(ファムケ・ヤンセン)が再婚相手と上手く行っていない事を知ったブライアンは、仕事先のイスタンブールに妻子を呼び、3人で過ごす時間を作ろうと提案する。しかしそれが悲劇の始まりだった。
 前作で全滅させられたアルバニア系人身売買組織。そのメンバーのひとりの父親ムラドが猛烈にブライアンを恨んでいた。「息子を殺したブライアンをとっちめる」。息子のしていた悪行には目を瞑り、殺したブライアンを逆恨みする。ブライアン対ムラド。親バカ対バカ親の戦いである。

 ムラドはブライアンが一家でイスタンブールに旅行にいることを知り、復讐計画を実行する。しかしブライアンも一流の工作員。ホテルのロビーで怪しい目付きの男に経過ししながら、バザールにショッピングに行くブライアンとレノーア。そこでもロビーの男がいることを発見したブライアンは付けられていると判断。レノーアにホテルに戻るように言い、一味とカーチェイスを繰り広げる。相変わらずカーチェイスの迫力は凄い。バザールの街を縦横無尽に走り回り、降りては敵を卓抜した身体能力でノックアウトする。ところが迷路の様なバザールで迷子になったレノーアが拉致され、ブライアンも敢えて捕虜となる。目隠しされてアジトへ連れて行かれるが、体内時計と方向感覚、周囲の物音で移動先を分析するのが凄い。アジトに監禁されたブライアンは隠し持った超小型電話でホテルにいるキムに連絡し、大使館に逃げる様に言うが、今度は私が助ける番とキム。ならば武器を持ってこっちへ来いと地図を広げさせ、先ほど分析した居場所を見事言い当てる。ほんまかいな。キムの勇気ある行動とブライアンの機転でアジトから脱出成功、妻に必ず助けに来るからと言い残し、車を盗み、キムを安全な場所に送る。もちろん敵は追っかけてくるが、ここで銃を構え反撃するのはブライアン、車を運転するのはまだ無免許のキム。しかしそのドライブテクニックは素晴らしく、仮免2度も落ちているとは思えないハンドル捌きだ。そして無事娘を大使館に送り、妻救出に再びアジトに向かう…。

 さてここでムラドを殺してしまっては、またその息子たちがブライアンに反撃するであろう。そうなればシリーズ3作目が出来ることになる。どんな邦題がつくか楽しみではあるが、果たしてムラドを殺すかどうかは本編を観てのお楽しみ。

 前作同様、製作と脚本はリュック・ベッソン。1時間32分の中でアクション映画の楽しさを凝縮した映画作りは流石である。


☆「96時間 リベンジ」2013年1月11日(土)よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー
配給:20世紀フォックス映画
© 2012 EUROPACORP – M6 FILMS – GRIVE PRODUCTIONS