展覧会紹介

珠玉のコレクションを創った人々

これほどの質と規模での展覧会は、ワシントン・ナショナル・ギャラリー70年の歴史上なかったことであり、そして、これからもないだろう。-ワシントン・ナショナル・ギャラリー館長 アール・A・パウエル3世

ワシントン・ナショナル・ギャラリーでは、作品寄贈者の意向などにより所蔵作品の多くは、貸し出しが厳しく制限されています。このため同館は、一度に多数の作品を紹介する大規模な「美術館展」の開催が極めて困難な美術館のひとつになってきました。日本で初めて「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」が開催されたのは1999年。今回はそれ以来、12年ぶりの開催となります。

ワシントン・ナショナル・ギャラリーが所蔵する12万点の作品の中でも、特に質の高さと絶大な人気を誇るのが、その数およそ400点の印象派とポスト印象派の作品群です。本展では、その中から日本初公開作品約50点を含む、全83点を紹介します。

クールベやコローらバルビゾン派や写実主義を導入部とし、印象派の先駆者といわれるブーダンやマネを経て、モネ、ルノワール、ピサロ、ドガ、カサットら印象派に至り、セザンヌ、ファン・ゴッホ、ゴーギャン、スーラなど、それぞれの表現によって印象派を乗り越えていったポスト印象派に続きます。

17年ぶりに来日するエドゥアール・マネの《鉄道》、日本初公開のフィンセント・ファン・ゴッホの《自画像》、ポール・セザンヌの《赤いチョッキの少年》、そして同じくセザンヌが父を描いた初期の名作《『レヴェヌマン』紙を読む父》など、いずれもワシントン・ナショナル・ギャラリーの「顔」、美術史において印象派、ポスト印象派を語る上で欠かせない名作の数々です。まさに、「これを見ずに、印象派は語れない」。 

世界中から年間500万人の美術ファンが訪れるワシントン・ナショナル・ギャラリー。同館には、「常設コレクション作品」と呼ばれる作品群があり、傑作の多くがそれに指定されています。来館者の多くは、美術館の「顔」であるこれらを観るために訪れるといっても過言ではありません。
「常設コレクション作品」は、その作品価値をもとに、寄贈者または理事会の意向で決められ、
ある決まった点数以上、一度に館を離れてはならないという不文律があります。同館の全所蔵作品のうち現在「常設コレクション作品」に指定されているのは2,334点(*)。うち66点がフランス絵画です。本展には、9点の「常設コレクション作品」が出展されます。これはひとつの展覧会に出される点数としてはワシントン・ナショナル・ギャラリー史上最多です。館長をもってして「70年におよぶワシントン・ナショナル・ギャラリーの歴史上かつてない、そしてこれからもないであろう」と言わしめる、空前の質と規模の展覧会といえます。

(*) 2010年11月 ワシントン・ナショナル・ギャラリー公表データによる

◆本展に含まれる、常設コレクション作品

エドゥアール・マネ 《鉄道》、フレデリック・バジール《若い女性と牡丹》、クロード・モネ 《揺りかご、カミーユと画家の息子ジャン》、クロード・モネ 《日傘の女性、モネ夫人と息子》、ピエール=オーギュスト・ルノワール 《踊り子》、 メアリー・カサット 《青いひじ掛け椅子の少女》、メアリー・カサット 《麦わら帽子の子ども》、ポール・セザンヌ 《赤いチョッキの少年》、ジョルジュ・スーラ 《オンフルールの灯台》。

印象派、ポスト印象派の画家たちが手がけたのは油彩画ばかりではありません。素描や水彩、パステル、そして様々な種類の版画等、紙を支持体とした様々な表現にも積極的に取り組みました。今回はその中でも特に、版画が多く出展されています。これらの画家たちが活躍した時代は、写真が広く普及していった時代でもありました。それまで版画が担ってきた記録性の高い複製メディアとしての役割は、写真に取って代わられていきます。その結果、版画はそれぞれの芸術家に独自の表現や芸術性を追及する方向を強めていきました。この時代にはまた、油彩画の影に隠れがちな素描や水彩等その他の媒体でも、芸術家自身の個性に従った表現が、より自由なかたちで探求されました。
本展に出展される紙を支持体とした作品は、ワシントン・ナショナル・ギャラリー内ですら滅多に展示されません。作品保護というのが主な理由で、これらの作品は同館が所蔵する限り、1作品あたり15回までしか館外へ貸し出ししてはならない、という規定があります。本展への出展は、まさにその貴重な1回ということになります。