9月12日 テレビは引き算、ラジオは足し算

ラジオ日本で「わたしの図書室」という朗読番組を担当して、
10年になる。
 
幼い頃から、声を出して本を読むのが好きで、
それがこうじてアナウンサーになった、と言ってもいい私。
報道・情報番組のナレーションを数多く手がけ、得意分野と
自負していたのだが、ラジオで朗読を始めた途端、悪戦苦闘した。
 
こんなにも、違うものなのか...?!
 
当たり前のことだが、ラジオには映像がない。
テレビのナレーションは、画面に映る光景をもり立て、寄り添う、いわば額縁のような役割。
特に報道の場合、声の感情過多は禁物である。
映像を邪魔しないよう、「引いて、引いて」と心がけてきた。
 
ところが、ラジオで同じような読み方をすると、スカスカ、パサパサ...
何の味わいもない、つまらない響きになってしまうのだ。
「この人、テレビではベテランじゃないの?」
と、番組スタッフが、いぶかしげな表情をしている。
頭では分かっていたつもりだったのに、テレビとラジオの違いを痛いほど思い知らされた。
ラジオのパーソナリティー出身者が
テレビで喋ると、やや過剰な印象になる理由も分かった。
 
どうずれば、朗読の味わいが出るのか。
何十年も仕事をしてきた自分の声の表情や幅をあらためて探り、
さまざまな俳優さんや声優さんの真似を試みて、
声の表現の"足し算"を繰り返し、
テレビとは違う、ラジオの落ち着き所を見つけるのに、3年ぐらいかかった。
 
"濃い味"のラジオを経験して良かったことは、
テレビのナレーションの力も、少し向上したような気がすること。
料理の味付けとは逆に、声の仕事は、
薄味を濃くしていくよりも、濃い味を淡いものにしていく方が、たやすいらしい。
 
さあ、この秋はどんな作品を読もうかな?

  
編集部注:
「わたしの図書室」は毎週木曜午後11時30分から、ラジオ日本で聴くことができます。