ラジオ日本で「わたしの図書室」という朗読番組を担当して、
10年になる。
幼い頃から、声を出して本を読むのが好きで、
それがこうじてアナウンサーになった、と言ってもいい私。
報道・情報番組のナレーションを数多く手がけ、得意分野と
自負していたのだが、ラジオで朗読を始めた途端、悪戦苦闘した。
こんなにも、違うものなのか...?!
当たり前のことだが、ラジオには映像がない。
テレビのナレーションは、画面に映る光景をもり立て、寄り添う、いわば額縁のような役割。
特に報道の場合、声の感情過多は禁物である。
映像を邪魔しないよう、「引いて、引いて」と心がけてきた。
ところが、ラジオで同じような読み方をすると、スカスカ、パサパサ...
何の味わいもない、つまらない響きになってしまうのだ。
「この人、テレビではベテランじゃないの?」
と、番組スタッフが、いぶかしげな表情をしている。
頭では分かっていたつもりだったのに、テレビとラジオの違いを痛いほど思い知らされた。
ラジオのパーソナリティー出身者が
テレビで喋ると、やや過剰な印象になる理由も分かった。
どうずれば、朗読の味わいが出るのか。
何十年も仕事をしてきた自分の声の表情や幅をあらためて探り、
さまざまな俳優さんや声優さんの真似を試みて、
声の表現の"足し算"を繰り返し、
テレビとは違う、ラジオの落ち着き所を見つけるのに、3年ぐらいかかった。
"濃い味"のラジオを経験して良かったことは、
テレビのナレーションの力も、少し向上したような気がすること。
料理の味付けとは逆に、声の仕事は、
薄味を濃くしていくよりも、濃い味を淡いものにしていく方が、たやすいらしい。
さあ、この秋はどんな作品を読もうかな?
編集部注:
「わたしの図書室」は毎週木曜午後11時30分から、ラジオ日本で聴くことができます。