10月1日 難読漢字

「漢字は、書けなくてもいいけれど、読めなきゃダメ。アナウンサーなんだから」
と、先輩から言われ、後輩にも伝えてきた。
「書けなくてもいい」というのはジョークだが、
パソコンの普及とともに、本当にどんどん書けなくなってきて、情けない。
肝心の読む方も、かろうじて低下を食い止めている程度である。


とはいえ、クイズ番組はともかく、ニュースや情報番組を担当している分には、
漢字検定に出てくるような難読語を読むことは、あまりない。
気をつけなくてはいけないのは固有名詞。
地名や人名には、独特の読み方や、同じ漢字でも複数の読み方がある。
将棋の羽生さんは「はぶ」、フィギュアスケートの羽生さんは「はにゅう」。
ここまで著名な人だと間違えることはないが、本番直前に飛び込んできたニュース原稿に、
なじみのない地名人名が、振り仮名なしで出てきたときは、かなり慌てる。


放送14年目に入ったラジオ日本の朗読番組「わたしの図書室」も、
毎回、取り上げる作品の漢字の読み方チェックから準備が始まる。
昔の小説などは読めない漢字だらけなのではないかと、はじめは恐れていたのだが、
ルビが振られていることも多く、固有名詞は研究者に尋ねることもできて、
困り果ててしまうようなことはない。
むしろ、読みに迷うのは、日常よく目にする、やさしい漢字。


「私」「家」「明日」「故郷」「一品」...
「わたし」か「わたくし」か?「いえ」か「うち」か?「あす」か「あした」か?
「ふるさと」か「こきょう」か?「ひとしな」か「いっぴん」か?
この類の漢字には、ルビも滅多に振られていない。
黙読の場合は気にならず、すんなり読み進められるのだが、
音読となると、迷ってしまう。
「わたし」と「わたくし」では、響きが異なり、登場人物の印象も違ってくるのだ。


「私の家では」というひと言を読むのに、これほど難渋するとは...
朗読番組を担当するまで気づかなかった。
青い鳥と難読漢字は、ごく身近なところに存在していたのである。