7年前の春、
英国のウィリアム王子とキャサリン妃の結婚式を、ロンドンから生中継で伝えた。
かつて、ウィリアム王子の母、ダイアナさんの葬儀を現地から伝えた経験はあったが、
王室の結婚式を実況するのは、私にとって初めてのことだった。
1970年代から80年代にかけて、日本テレビはチャールズ皇太子・ダイアナ妃をはじめ、
英国王室の結婚式を三度中継している。実況はいずれも青尾幸アナウンサー。
すでに会社を卒業していた青尾さんと連絡を取り、話を聞き、資料を集め、本番に備えた。
突然の葬儀に比べると、結婚式中継は準備期間がたっぷりある。
にもかかわらず、思うように仕事がはかどらない。
実は、日時と場所以外、直前までわからないことが多いのだ。
映像はイギリスの放送局BBCが担当するが、内容や撮影アングルは明らかにされず、
式次第が王室から発表されるのは、本番の24時間前!
「でもね、結婚式の段取りはおそらく同じよ」という青尾さんのアドバイスに従い、
1980年のチャールズ皇太子・ダイアナ妃の結婚式の映像で実況の練習をしてみる。
式場となるウェストミンスター寺院のこと、英国国教会のしきたり、王室をはじめとする
出席者の顔ぶれ、服装や帽子、新郎新婦の式直前のスケジュール...
調べなくてはならないことがどんどん増えてくる。
サブアナの杉上佐智枝アナが、教会に取材したり、世界各国の王族の写真を集めたり、
皇室の帽子デザイナーに話を聞いたり...と駆け回ってくれる。
次第に積もって、幅広く、厚みを増していく情報。
さて、これをどう組み立て、実況の中にちりばめていくのか...。
駅伝やマラソンよりも短い、2時間ほどの中継なのだが、
巨大なジグソーパズルと格闘しているような、
泳いでいるのに少しも前に進んでいないような、もどかしさと焦燥感。
「ああ、これがロイヤルウェディング実況の重さか」
と、先輩の苦労が初めて実感として理解できた。
同じ職場にいても、自分がその場に立ってみないと、本当のことは分からない。
まもなく平昌オリンピック。金メダルのかかった大舞台の実況は、
担当したアナウンサーだけが感じる、底知れぬ不安と恐怖、そして...喜びがあるに違いない。