2月2日 その場に立って、初めて分かる その2

7年前の春、
英国のウィリアム王子とキャサリン妃の結婚式を、ロンドンから生中継で伝えた。
かつて、ウィリアム王子の母、ダイアナさんの葬儀を現地から伝えた経験はあったが、
王室の結婚式を実況するのは、私にとって初めてのことだった。


1970年代から80年代にかけて、日本テレビはチャールズ皇太子・ダイアナ妃をはじめ、
英国王室の結婚式を三度中継している。実況はいずれも青尾幸アナウンサー。
すでに会社を卒業していた青尾さんと連絡を取り、話を聞き、資料を集め、本番に備えた。


突然の葬儀に比べると、結婚式中継は準備期間がたっぷりある。
にもかかわらず、思うように仕事がはかどらない。
実は、日時と場所以外、直前までわからないことが多いのだ。
映像はイギリスの放送局BBCが担当するが、内容や撮影アングルは明らかにされず、
式次第が王室から発表されるのは、本番の24時間前!


「でもね、結婚式の段取りはおそらく同じよ」という青尾さんのアドバイスに従い、
1980年のチャールズ皇太子・ダイアナ妃の結婚式の映像で実況の練習をしてみる。
式場となるウェストミンスター寺院のこと、英国国教会のしきたり、王室をはじめとする
出席者の顔ぶれ、服装や帽子、新郎新婦の式直前のスケジュール...
調べなくてはならないことがどんどん増えてくる。


サブアナの杉上佐智枝アナが、教会に取材したり、世界各国の王族の写真を集めたり、
皇室の帽子デザイナーに話を聞いたり...と駆け回ってくれる。
次第に積もって、幅広く、厚みを増していく情報。
さて、これをどう組み立て、実況の中にちりばめていくのか...。


駅伝やマラソンよりも短い、2時間ほどの中継なのだが、
巨大なジグソーパズルと格闘しているような、
泳いでいるのに少しも前に進んでいないような、もどかしさと焦燥感。
「ああ、これがロイヤルウェディング実況の重さか」
と、先輩の苦労が初めて実感として理解できた。
同じ職場にいても、自分がその場に立ってみないと、本当のことは分からない。


まもなく平昌オリンピック。金メダルのかかった大舞台の実況は、
担当したアナウンサーだけが感じる、底知れぬ不安と恐怖、そして...喜びがあるに違いない。