平昌オリンピック・パラリンピック。
日本代表選手の堂々たる戦いぶりに、
「今時の若者は、緊張やプレッシャーとは無縁なのだろうか」
と驚嘆した人もいるかも知れないが、そんなことはない、と思う。
オリンピックのような大きな舞台に立ったことがないので、想像するばかりだが、
息がつまりそうなほどの重圧と緊張なのではなかろうか。
情報番組などで連日、スピードスケートの世界をわかりやすく説き明かしてくれた、
1998年長野オリンピックの金メダリスト、清水宏保さん。
清水選手が金メダルを獲得した日、夜のニュース番組を担当していた私は、
「大変な重圧を、どうして清水さんは克服することが出来たのですか?」
と尋ねた。
清水選手は誠実な口調で、
「緊張とプレッシャーは絶えず感じているんですけれども、ある時ふと
『あ、今、自分は緊張から解放されている』と気づく瞬間があるんです。
その一瞬の感覚を体に覚えさせて、そういう時間を少しずつ増やしていこう、と心がけました」
鍛え上げた体に、磨き抜いた心を宿して世界の頂に立った23歳の若者は、
遠くを見つめるようなまなざしで、にっこりと微笑んだ。
人の命をあずかり、人の体にメスを入れる、外科医。
ある高名な医師に、
「難しい手術に臨むとき、必要なこと、心がけていることは何ですか?」
と聞いてみた。
「自分が"いい顔"してること」
即答だった。
「(手術用の)手袋をはめて、鏡を見て、晴れやかな顔をしているかどうか確かめる。
患者のために、自分とクルー(手術スタッフ)が最大限の力を発揮するためには、
リーダーである自分が、ゆとりのある、いい顔をしていることが必須です」
まなじりを決して、気負い込んでいる人よりも、微笑みをたたえている人の方が強い...。
名人の振る舞いには及びもつかないが、自分なりの大舞台に向き合うことがあったら、
かみしめたいと思う、道を究めた二人の言葉である。