1月18日 その場に立って、初めて分かる その1

ずいぶん前のことだが、大学生を対象にした日本テレビの催し「アナウンス講習会」に、
他局のアナウンサーの子息、T君が参加した。
父親がアナウンサーであるとはひと言も言わず、むしろ隠しておきたかったようだが、
珍しい名字なので、何となく分かってしまった。
「でしょ?」と聞くと「はい、まあ」と、うつむきながら照れ笑い。
T君自身はアナウンサーになりたいと思ったことはないそうだが、
就職の時期が近づいて、さまざまな仕事の現場を見てみたいと思い、参加したという。


2日間の講習の締めくくりは、スタジオ実習。
テレビカメラに向かって、あいさつし、短いニュースを読む。
彼の順番が来た。
緊張していたが、丁寧に、ひたむきに伝えていて、感じが良かった。
終わって、「どうだった?」と聞くと、
はあーっと大きな溜息をつき、
「カメラの前に立った途端、怖くて頭の中が真っ白になりました。...こんな状況の中で、
父は、毎日仕事をしてきたんですね」
そして、
「僕は向いていないけれど...来て良かったです」
と、にっこり笑った。


身近に見て、知っているつもりでも、その場に立って、初めて分かることがある。
一度きりの"アナウンサー体験"は、彼の、父親を見る目を少し変えただろうか。