「井田さんは、トーシに興味はありますか?」
と聞かれて、
「そういう超能力はちょっと…持っている人もいるんでしょうけれど」
と答え、相手をポカンとさせてしまったことがある。
「トーシ」を私は「透視」と思い、相手は(もちろん)「投資」のつもりだったのだ。
まあ、今どき「トーシ」を「透視」と思う私が、浮世離れしているのかもしれないが、「投資」よりも「透視」のことをあれこれ考えている方が、損することもないし、楽しいよ、と心の中で負け惜しみをつぶやく。
新人の頃、「ハイシャの美学」をテーマに先輩アナたちが議論していた。そばで聞いていた私は、てっきり「歯医者の美学」と思い込んで、「確かに、歯医者さんは手先の器用さが大切ですけれど、美学とまで言えるんでしょうか」と、口をはさみ、「お前、何を言ってるんだ?!」と叱られ、笑われてしまった。そりゃ、そうですよね、スポーツ実況を誇る日テレのアナウンサー陣が語るのは「敗者の美学」に決まっている。「実は学生時代に歯列矯正を受け、父の仕事も歯科医療に関連したものだったので…」とは言い訳できず、顔を赤くして、うつむいていた。
「参加国は三か国」
「台風が最接近?再接近?」
「お食事券が絡んだ汚職事件」
「あれから十四年?十余年?」
日本語は、同音異義語が多い。イントネーションも同一のものは、気をつけないと、私のようなそそっかしい視聴者には正しく伝わらないことがある。読み手のアナウンサーの、工夫のしどころであろう。
かつて報道局に、狐野(この)という名の記者がいた。ニュースで彼のリポートを紹介するたびに、先輩の芦沢アナウンサーは「困ったな、どうしようもない」と苦笑いする。
「『狐野記者がお伝えします』と『この記者がお伝えします』の言い分けが、どうしてもできない!名前をちゃんと紹介してやれないんだ」
スタジオで共に伝えていた私は、「いっそのこと、全員、『この記者がお伝えします』にしたら、平等ではないでしょうか?」と「アリババと40人の盗賊」みたいな冗談を言おうとしたが、芦沢アナの真面目な優しい顔を見ていると、そんな茶々は、入れられなかった。
