その昔、NHKアナウンサーがニュース原稿を読む速度は、「1分間に300字」と言われていた。
しかし、私がアナウンサーになりたての頃、(40年以上も前のことだが)新人研修で、ニュースを教えてくれた先輩アナが「最近、NHKの読み方は速くなった気がする。1分間に340字から350字ぐらいになったんじゃないかしら」と話していた。
数年経って、私もニュース担当に慣れたころ、自分のペースを計ってみたら、350字くらいであった。
当時、「TBSの久米宏は、1分間に600字読む(喋る?)」と言っている先輩アナもいたが、これは、計測結果というより、イメージではないだろうか。聞き手が舌を巻くほどの、リズミカルで明瞭な早口。実際、「ザ・ベストテン」での黒柳徹子さんと久米宏さんの掛け合いは、1.5倍速どころではないスピードだったが、内容は全部聞き取れたのである。
日本テレビに入社以来、朝、昼、夕方、深夜、あらゆる時間帯のニュースを担当してきたが、私はいつも「ゆっくり読むアナウンサー」と思われていたようだ。
高齢の視聴者から「聞きやすい」と言っていただいたこともあるが、若い視聴者には、まだるっこしいと思われていたかもしれない。他局のアナから「項目替わりで、よくまあ、あんなに長く間(ま)を取りますね」と、褒められたんだか、呆れられたんだか、分からない感想をもらったこともある。
でも実は、ニュース原稿を読んだときのトータルの秒数は、他のアナウンサーと変わらない。「若手が読むと、予定時間に入るのに、井田が読むと、オーバーしてしまう」と言われたこともない。ゆっくり聞こえるのは、読みのペース配分と、項目替わりの間(ま)のせいであろう。
ゆっくり読み始めたのに、時間が足りなくなり、最後は早口に。これは、せせこましく聞こえる。出だしはリズミカルに、締めくくりは書道のようにゆったりと読めば、トータルの時間は同じでも、落ち着いた印象になる。
項目と項目のあいだは、視聴者が情報を受け止め、瞬時にさまざまなことを思う時間。たっぷり間を取っているようでも、実は、1秒か2秒。テレビの1秒は長いのだ。
ゆったりと感じられる読み方と息継ぎで、ニュースを、あおることなく、冷静に伝える。これは、昔も今も、アナウンサーの基本だと思う。
