2月5日 君が立つそこが聖地 田邊 研一郎

第93回高校サッカー選手権は石川県代表の星稜高校が初優勝を飾りました。
河﨑監督の不在を乗り越え、去年の悔しさを晴らした見事な優勝でした。
 
首都圏開催になってから38年間、東京の国立競技場が高校サッカー決勝の舞台でしたが、
建て替え工事に伴い今年度の決勝戦は初めて埼玉スタジアム2002で行われました。
 
その決勝戦は実に4万66316人の観客で膨れ上がり、
両校の応援団はもちろん、高校サッカーを愛するサッカーファンがスタジアムを埋め
新たな聖地は最高の雰囲気となりました。
 
今大会 埼玉スタジアム2002のピッチに立つ事を許されたのはベスト4の4チームのみでしたが、
大会ポスターに添えられた「君が立つそこが聖地」の言葉通り、
決勝戦を目指して戦ったすべてのチームの選手達が踏みしめた、
それぞれのピッチが彼らにとっての「聖地」として一生の宝物になったはずです。
 
今大会は交代選手が3人から4人に変更された大会でもありました。
高体連の「交代枠を広げることでゲームの質を落とさないようにしたい。
日本のサッカーにとって大切なユース年代であることから、
一人でも多くの選手に経験を積んで欲しい」という意図を汲んでの交代枠の増加でした。
 
実際、今大会は前回大会を38人も上回る723人の選手がピッチに立ちました。
その723人の中に4人目の交代で「聖地」に立ったある選手のエピソードをご紹介します。
 
1回戦 岩手県代表・遠野高校の3年生MF菊池玲緒(れお)選手は
試合終了間際のアディショナルタイムに4人目の交代選手として相模原会場のピッチに送り込まれました。
試合は3対1で岐阜県代表の草津東に敗れましたが、
のちに遠野高校の長谷川監督は菊池選手の起用についてこのように振り返っています。
「最後のカードは⑧菊池と1年生MF⑱千田(ちだ)の2人で迷った。
もちろん1年生を出すことで、何にも代え難い経験を積ませることもできるが、やはり3年間の努力を取った。
菊池は1年生の頃から、足首の捻挫癖で才能があるのに伸び悩んできたが、
今大会出場が決まってからの練習に取り組む集中力はすさまじいものがあった。
菊池なら何とかしてくれる、そんな予感がして出場させた」
 
菊池選手は
「選手権の舞台は時間うんぬんではなく、一瞬で過ぎ去ってしまった。
でも本当に今までのサッカー人生で一番楽しい瞬間だった。
出場する時に、メンバーの顔が浮かんだり、必死で応援している応援席が見えて、
声援を送られることに感動した」と振り返っています。
菊池選手が踏みしめた「聖地」の感触は一生忘れないでしょう。
 
最後に惜しくも準優勝に終わった前橋育英高校の山田耕介監督は
「サッカーが好きで入部してきた生徒をサッカーが好きなまま卒業させてやることを大事にしている。
その子達が将来、大人になって子供の手を引いて高校サッカーを見に来る。
そうやって高校サッカーは永遠に続いていくのです」とおっしゃっていました。
 
菊池選手がいつか子供の手を引いて高校サッカーを見に来る。
そんな日が来るのを楽しみにしながら来たるべき94回大会においても、
選手達の心に永遠に残る特別な瞬間を伝えられるようしっかり準備をして、
私たちの聖地である放送席に座りたいと思います。