11月1日 河村 亮

座右の銘
最近座右の銘を聞かれる機会がありました。
生きていく上で心に置いておきたい言葉は幾つかあります。
その時々で私に指針を与えてくれた言葉ばかりです。
でもその中で特に一つと言われたらどれを取り上げようか・・・
一つ一つを吟味していくと、やはりこの言葉に行き着きました。
「いかなる時も優であれ」
1990年、私は日本テレビに入社が決まりました。
その際に大学の教授に報告に行きました。
「日本テレビにアナウンサーとして入社しようと思います。」
そう伝えると先生は豪快に笑いました。
「河村はアナウンサーに向いているよ。そうなったら面白いと思っていた。」
アナウンサーを志望しているとは一切伝えていなかったので
私は少々驚きました。
「君は人に何かを伝える、ということに適性があると感じていたから。」
はあ、そうなのか。見ている方は見ているんだなあ、と感じたその次の瞬間。
先生は「これからテレビという媒体でアナウンサーとして仕事をするなら
この言葉の意味を考えて欲しい。いかなる時も優であれ。その意味は自分で
考えて。私から全て説明するとつまらないから。」
先生の研究室を出て、私は反芻しました。優であれ。
なるほど良い言葉だな。優、という漢字は優秀、優れている、などの意味があります。
常に優良な人間であれ、ということか。
数日後、大学の図書館で改めて調べたり、人に聞いてみました。
そこで私はハッとしました。
「優」という文字を見つめると
・優秀や優良、つまり他より優れる、という点。
これはすぐに頭に浮かんだのですが・・その他に
・やさしい→つまり優しい。
・優遇などに使われる「手厚い」「もてなし」などの意味。
そしてこれは、ああそうか、そうだったと気づいたのですが
・俳優、名優などと使われるように「役者」「演者」「芸人」
などの意味を含んでいました。
私がハッとした部分は特に二つ目から四つ目の意味です。
アナウンサーは人と向き合います。その時に自分の役割を全うするだけでなく
いつも人としての優しさを忘れていないか。その対象者に常に手厚く
何よりも視聴者の皆さんに手厚く、という姿勢を忘れていないか。
そして、アナウンサーというのは見られる立場です。勿論役者、芸人というには
おこがましいのですが、やはり話芸を磨かなければいけません。
その気概を持ってずっと、一生芸を磨けるか。
先生はその意味を伝えたかったのだと思います。
アナウンサーになり20年以上の月日が流れました。
折に触れてこの言葉の意味を思い出します。
ただ、そこにたどりつくのは本当に難しく、まださまよっています。
だからこそ、アナウンサーである限り追い求めて行くに足る言葉だと思います。