10月25日 田辺 研一郎

成功哲学の祖とも言われ、『思考は現実化す』の著者として
世界的に有名なアメリカの著作家ナポレオン・ヒルはこんな言葉を残している。
「逆境の中には、すべてそれ相応か、それ以上の大きな利益の種子が含まれている」


今年、巨人の開幕投手を務めた菅野智之投手は最多勝、最優秀防御率、
最多奪三振など数々のタイトルを手にし、
クライマックスシリーズでは史上初のノーヒットノーランを記録するなど
エースとしての見事な活躍を見せた。
しかし、そんな菅野投手が開幕から2連敗、しかも2試合連続で5失点と、
もがき苦しんでいた事をどれだけの人が覚えているだろうか。


4月7日、薄曇りの神宮球場。
前日に6回5失点。2連敗を喫したエースに何が起きているのか、
声をかけるのは難しいとは分かっていたが、
表情を見るだけでも何か感じる事があるだろうと取材に出た。


ゆっくりと外野から歩いてきた背番号19番と目が合った。
そして、短い会話が始まった。


菅野投手はいつもよりずっと小さな声で神宮の空を見上げながらこう言った。
「このままじゃまずいと思います。
野球人生これまで、ずっと順調にきていたけど、
自分はいま試されていると思うんです。
この試練を乗り越えられるのか。このまま終わるのか。正直怖いです」


こちらがどんな言葉をかけて良いか逡巡していると、
菅野投手は察して、いつもと同じ声で
「大丈夫です。僕は絶対この試練を乗り越えてまた、強くなります」
と力強く言った。


今季の菅野投手は逆境の中に見つけた種子を大切に育て、大輪の花を咲かせた。
逃げない。向かっていく。そこに彼の凄みがある。