9月22日 わたしゃ、も少し

もう20年以上前、若い女性の間で厚底サンダルが大流行した頃、私も試しに履いてみた。

既に中年だった我が身には、舞妓さんの「こっぽり下駄」のようで歩きにくく、転んで足でもくじいたら大変、と購入には至らなかったが、履いて、すっと立った瞬間、10センチほども背が高くなった感覚は新鮮であった。視界が全く違う。

「そうか、身長170センチの人には、日頃から世の中がこんな風に見えているんだ…」と思った。

 

海外でクリスマスを過ごしたことが、一度だけある。

198112月、ドイツ(当時は西ドイツ)のケルン。国際放送を手掛けるラジオ局を、ドキュメンタリー番組で取材したのだが、クリスマスイブを迎え、「今夜は、街の世界的名所、大聖堂のミサに行きましょう」と、現地在住の番組コーディネーターが誘ってくれた。

日本のクリスマスイブは賑やかだが、ケルンのイブは静かで厳粛な雰囲気であった。凍て付くような寒さの中、大聖堂に足を運ぶ人々。私も入り口近くの片隅に入れてもらえた。

十重二十重の人垣の向こう、中央通路を、司祭とおぼしき聖職者が祭壇に向かってゆっくりと進んで行く。「この先、二度と見るチャンスはない!」と、私は最後列で懸命に背伸びをしたが、被り物の上部しか見えなかった。

 

オランダの人は、がっしりとしていて、背が高い。

これも20世紀の思い出だが、美術番組で、ゴッホの展覧会を紹介するため、豊富なコレクションで知られるオランダのクレラー・ミュラー美術館を訪ねた。広報担当の男性は、身長195センチ。毎朝、首を60度くらい上に向けて「グッドモーニング!」と挨拶した。取材最終日、依頼していた館長のインタビューが実現。館長室から現れたのは、身長2メートルの中年紳士。穏やかな低い声で、「この美術館は、庭園の展示が素晴らしいのです。庭

を歩きながら、インタビューを受けましょう」

身長156センチの私と、2メートルの館長が、並んで歩く姿は、さながら子供と大人。マイクは一つで、質問し、通訳がオランダ語に訳した後、私は腕を伸ばして、館長にマイクを向ける。自由の女神のようなポーズを繰り返しながら、オランダの美しい庭を懸命に歩いた。

 

「私しゃ、も少し、背が欲しい~~」という玉川カルテットの浪曲漫才を覚えている人は60歳以上であろう。乗り物や小劇場の狭い座席ではいつも「小柄で良かった」とつぶやいている私だが、時に「あー、背が高かったらなァ」と、思うことがある。