11月12日 その都度

テレビの技術スタッフに、ビデオエンジニア、略してVEと呼ばれる人たちがいる。

映像機器の調整役、と言ったらいいだろうか。撮影、録音、照明、のように一言では表現しにくい仕事だが、裏方の柱として、撮影現場を支える存在。私が長年携わっていた美術番組「美の世界」のロケは、VEによるカメラの色調整から始まり、登場する芸術家の作品の魅力をどれだけ生き生きと伝えられるかは、カメラマンとVEの腕によるところが大きかった。

 

撮影用テープの長さは、当時、一巻で20分だったか。インタビューや作品制作シーンの撮影途中で、しばしばテープ交換となる。その都度、VEさんが撮影済みのテープを箱に収め、内容を記入していく。その間、画家は制作の手を止め、インタビューもしばし中断。雑談でその場をつなぎながら、せっかちな私は、この時間がもどかしくてならなかった。話の熱が冷めないうちに、早く再開したい…!しかし、VEさんは几帳面な字で箱に記入し、新たなテープを確認して、カメラに入れる。何人ものビデオエンジニアと仕事をしたが、ゆったりと穏やかな性格の人が多かった。

 

今、老後に向けて、狭い我が家を片付けよう!と、私は毎週末、意気込んでいる。

しかし、部屋のあちこちに少しずつ積み重なった、いつの、何が収められているかも判然としない、未整理の書類の束、束、束…。「その都度」片づけることをせず、「ま、いいや、そうすぐには忘れないから、いずれまとめて」と、先延ばしにした怠慢の報いで、毎度、しょんぼりしている。

「美の世界」が終了して、二十余年。今頃になって、テープの箱に、その都度、撮影内容を丁寧に記入していたVEさんの姿が、懐かしく、尊く思い出されて仕方がない。