こんにちは! いよいよ展覧会の開幕まであと10日となりました。
ところで、今日4月19日は、ボテロさんの90歳の誕生日。「アトリエに入った瞬間、10歳若返る。絵画への情熱が若さと長寿の秘訣」と語るのは、本展でもキュレーターを務める長女のリナさんです。「絵を描きたい。世界一の画家になりたい」という不屈の闘志で、世界中を巡りながら、画家として70年以上のキャリアを歩んできたボテロさん。そこで、今回は展覧会の予習をかねて、ボテロさんの激動の人生を振り返ってみたいと思います。
ボテロさんは、南米コロンビアのアンデス山地の街・メデジンで3人兄弟の次男として生ました。誕生日は1932年4月19日。4歳の時に父を亡くし、お針子をしていた母親の元で育ちます。


12歳の時、叔父のすすめで闘牛士養成学校に通いますが、学校では闘牛の絵ばかり描いていました。初めて売れた絵は、地元の闘牛場の売店に置いてもらった闘牛の水彩画でした。でも、代金の2ペソは、嬉しさのあまり走って自宅に帰る途中で落としてしまったのだとか。
その後、16歳の時には地元メデジンの新聞社で挿絵を描いて生活費を稼ぎ、仲間たちとグループ展も開催するなど、ボテロさんは非凡な絵の才能を発揮していきます。
最初の大きな人生の転機となったのは20歳の時。政治体制への批判も込めた「海辺で」という作品が7000ペソで売れると、ボテロさんは長年の夢だったヨーロッパへの絵画旅行へ出かけます。
まず最初に上陸したスペインでは、マドリードに滞在。ベラスケスやゴヤといった巨匠の作品から学びました。しばらくして、街の書店で偶然手に取った15世紀ルネサンス絵画の巨匠ピエロ・デラ・フランチェスカの画集を見て衝撃を受けると、いてもたってもいられなくなり、イタリア行きを決意。スクーターに荷物をくくりつけて、パリを経由してフィレンツェへと移動してしまいます。思い立ったらすぐに行動するボテロさんの身軽さには驚かされます。

イタリアで見たルネサンス絵画は何よりも「量感」がありました。ボテロさんはそれまでも無意識に膨らみのある豊満な形を好んで描いていましたが、これ以降は意識的に「ふくよか」な形へと開眼。徐々に現在の作風へと近づいていきます。
一旦帰国してすぐ、今度はお隣の国メキシコへと移住。メキシコで前コロンブス時代の先住民文化に触れ、自らのルーツを確認すると、数年の充電期間を経て「世界一の画家になりたい」と決意します。そこで、現代アートの中心地アメリカで勝負すべく、単身ニューヨークへ渡ります。若干28歳でした。


しかし当時のニューヨークは、抽象画の全盛期。古典絵画をベースに具象画を描くボテロさんは苦戦しました。絵は売れず、極貧生活にあえぎます。しかし、そこであきらめないのがボテロさんの長所。ライバルの抽象画家たちの作風を貪欲に学び、自らの作風に取り込むなど、一心に画業に打ち込みました。
すると、ついにチャンスがやってきました。ある日偶然、隣のアトリエで活動する画家を見にやってきたニューヨーク近代美術館(MoMA)の名高いキュレーター、ドロシー・ミラー氏が、ついでにボテロさんのアトリエにも立ち寄ったのです。
この時に《12歳のモナ・リザ》を見たミラー氏は、ボテロさんの絵を高く評価しました。本作はまもなくMoMAに収蔵され、展覧会でお披露目されます。これをきっかけに、ボテロさんの評価は徐々に高まっていきました。
1983年には、尊敬するミケランジェロも制作拠点としていたイタリア、トスカーナのピエトラサンタで彫刻作品の制作をスタート。1年間、絵画制作をやめてひたすら彫刻技術を学んでいきました。出来上がったのは、絵画をそのまま3次元化したような、インパクト抜群の銅像彫刻でした。彼の彫刻作品は、たちまち人々を虜にします。世界中で展覧会が開催され、野外彫刻としてパブリックアートにも採用されると、世界中にファンが広がっていきました。


現在はパリなどヨーロッパを拠点に作家活動を続けるボテロさんですが、今でも必ず年に1度はコロンビアにも帰 国するそうです。生まれ故郷のメデジンが平和な文化都市へと発展することを願い、私費を投じて2つも美術館を建てるなど、彼は祖国の英雄的な存在として国中の人々から尊敬される存在なのです。


でも、ボテロさんが最も楽しみにしているのは、「家族と過ごす幸せな時間」です。ボテロ家では、毎年7月になると、世界中に散らばった彼の子どもや孫たちが、ボテロさんが彫刻工房を構えるピエトラサンタへと一同に集結。家族水入らずで約1ヶ月の夏休みを一緒に過ごすのです。展覧会と同時に日本でも公開されるドキュメンタリー映画『フェルナンド・ボテロ 豊満な人生』では、幸せにあふれた家族での団らんシーンが印象的です。
世界一愛される大画家は、世界一幸せなおじいちゃんなのかもしれませんね。いつまでも長生きをして、これからもたくさん良い作品を作っていってほしいと思います!
齋藤 久嗣(さいとう・ひさつぐ)
フリーライター。1975年生まれ。IT企業のエンジニア、営業などを経て、41歳のときに「かるび」の名前でブロガーとして脱サラし、その後ライターに。現在は、アート分野を中心に各種メディアでの記事執筆や編集業務、アート系イベントでの広報業務など幅広く活動中。共著に21年『名画BEST100』(永岡書店)など。
Twitter: @karub_imalive
ボテロ展 ふくよかな魔法
BOTERO – MAGIC IN FULL FORM
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム(渋谷・東急百貨店本店横)
会期:2022年4月29日(金・祝)〜7月3 日(日)