STORY

第一首
めぐりあひて
2025/7/9

「今どき部活なんてタイパ悪すぎでしょ」――梅園高校2年生のめぐる(當真あみ)は、競技かるた部の幽霊部員。目の前の青春よりも、将来への投資!何事もタイパ重視のめぐるは、学校が終わればバイト、からの学習塾、隙間時間にスマホアプリで積み立て投資。部活に入っていれば内申点に有利という理由だけでかるた部に在籍しているものの、一度も部活に出たことがなく、競技かるたのルールもチンプンカンプン。そんなめぐるの高校生活が、新たに競技かるた部の顧問になった古典オタクの非常勤講師・大江奏(上白石萌音)との出会いで変わり始め…。

3年生の引退試合に人数合わせで駆り出されためぐるは、1回戦で負けて人目もはばからず号泣する先輩たちを見て呆気にとられてしまう。めぐるには、涙が出るほど何かに身を尽くした経験もなければ、何かをやり遂げて泣くことなんて絶対にあり得ない。つくづく“青春が肌に合わない”と感じためぐるは退部を決意するが…。

3年生が引退したことで、かるた部は2年生の与野草太(山時聡真)と幽霊部員のめぐるだけになり、もはや廃部寸前…。めぐるを引き留めようとする奏は、かつて自分が競技かるたで全国制覇を成し遂げたように、今しかできない体験をすることも必要だと力説。そんな奏の考え方を「平成の古文」だと言うめぐる。「青春時代をかるたにささげて、先生は今、理想の自分になれたのでしょうか?」――。

めぐるに見透かされて返す言葉のない奏…。居酒屋で高校時代の同級生・駒野勉(森永悠希)を相手にくだを巻く奏は、「千早ちゃんだったらどうするかな…」。共に青春時代を駆け抜け、今も夢をかなえ続けている綾瀬千早(広瀬すず)に、奏はかるた部の顧問になったことを言い出せないままで…。

そんな中、かるた部は部員集めのために文化祭で競技かるたの実演会を開催。奏に頼まれて参加せざるを得なくなっためぐるは、そこで思いがけない人物と再会する…。

以下、ネタバレを含みます。

文化祭に向けて展示の準備をするめぐるは、展示物の1つ、歌の解説に目を留める。それは、3年生の引退試合でめぐるが唯一札を取った歌『めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲隠れにし 夜半の月かな』。自分の名前と同じ『めぐる』が入ったその歌が気になるめぐるに、奏が「約1000年前、あの源氏物語の作者、紫式部が詠んだ歌です。恋の歌に見えて、本当は友情の歌なんですよ」。歌の真意を知っためぐるは、その歌にますます引き込まれ…。

展示の準備が終わった後、めぐるは疲労で倒れてしまう。保健室で眠るめぐるは、先日の3年生の引退試合の夢を見る。負けて号泣する先輩たち…。目を覚ましためぐるは、傍らで寄り添う奏に「先生も、やっぱり泣いたんですか、かるたであんなふうに」。めぐるには、ただの1回戦敗退なのに号泣していた先輩たちの気持ちがさっぱり分からない。そんなめぐるに、奏は「藍沢さんは、何をしたら、何をやり遂げたら、あんなふうに泣けると思いますか?」。めぐるは「あり得ません」と断言。中学受験に失敗した時でさえ、涙一つ出なかった。夢、希望、努力、そんな綺麗事、最初から信じていないからだ。「むしろ早く気が付けて良かったです。自分が誰かの脇役だってことに」と冷めたことを言うめぐるに、奏は何も言い返すことができず…。

文化祭当日、めぐるは奏に退部届を提出。「残念ですが」と受け取る奏。この日が、めぐるにとって競技かるた部最後の日……に、なるはずだったのだが…。
かるた部の部室に集まったギャラリーの前で、草太が「本日は、梅園高校競技かるた部の実演会にお越しくださりありがとうございます!今から3対3でかるたを取りたいと思います。参加してみたい方は、ぜひ手を挙げてください!」。すると真っ先に手を挙げたのは、他校の女子高生・月浦凪(原菜乃華)。その姿を見た途端、めぐるは血相を変え、逃げるように部室を飛び出してしまう――。

凪はめぐるの小学校時代の同級生。何でも出来る『漫画の主人公みたいな子』だった。「あの子を前にすると、嫌でも思い知らされるんです、自分が負け組だってこと。先生だってこの気持ち、分かるんでしょ?」。部室を飛び出しためぐるは、追いかけて来た奏にそう告げ、そのまま帰ろうとする…と、「待って」と奏。「確かに私はなりたい自分になれていません。でも、あなたのおかげで気が付けたの。きっと私はかるたに身を尽くすことで、知らないうちに積み立てていました」。仲間と一緒にかるたに打ち込んだ奏の高校3年間は、10年たった今、どんな高価な宝石よりも輝いている――「あの3年間を、あの手触りを思い出すと、私は何度でも立ち上がれる気がするの。かるたじゃなくてもいい。藍沢さんにもそんなものを見つけてほしいのです。それがきっと、未来のあなたを支える、かけがえのない宝物になる」。奏の言葉に、めぐるの心が動く――「先生、私、1つある。何をやり遂げたらってやつ」。小学校の徒競走も跳び箱も、塾の偏差値ランキングもそして、中学受験も…めぐるはいつも凪に負けてきたのだ。「もしも、あの子に何か1つでも勝てたら、あの日の先輩たちみたいに、泣いちゃうかもしれません」。めぐるの本音を受け止めた奏は「よく話してくださいました。…私はこの時のためにかるたをやっていたのね。藍沢めぐるさん、私にお任せあれ!」。奏はそう言うと、めぐるに『一字決まり』の歌をピックアップした紙を渡し、「これを丸暗記してください。この1字目を聞いた時点で取れる札は、藍沢さんの担当です。待っていれば必ず来る。その一瞬を逃さないで」――。

めぐるは顔をお面で隠して実演会に戻り、凪と対座。梅園高校競技かるた部VS凪チーム、3対3のかるたが始まる――。凪は上の句が詠まれた瞬間にものすごい勢いで札を取り…!必死に応戦する奏と草太!そんな中、じっと“その時”を待つめぐる…目線の先には、『くもかくれにしよはのつきかな』の札。あの紫式部の歌だ。そして、ついにその時がやって来る――「めぐりあ…」――上の句が読まれた瞬間、凪の手が動く!奏も反応!しかし、取ったのは、めぐる――!「わあっ!」と自分に驚くめぐるは、思わず奏と草太とハイタッチ!その姿を見てニコニコ顔の凪で…。
その後もかるたは続き、奏と草太が本領発揮!凪も食らいつき、大接戦!みんなにつられるように、めぐるも夢中で手を伸ばし――。結果、1枚差で凪チームが勝利。瑞沢高校でかるたをしているという凪は「かるたクイーン、目指してます!」と屈託のない笑顔で宣言。その姿に、奏は千早の姿を重ね…。

めぐるは奏に「退部届、返してください」。てっきり考え直したのかと思いきや、「親のサインもらうの忘れたので」。がっかりする草太に奏が告げる「慌てることはありません、人それぞれに自分のペースがあるんですから」。
そして奏はスマホでメッセージを打つ――『私、かるた部の顧問になったよ』。そのメッセージは、遠く海を渡ってインドへ。現地の子どもたちにかるたを教える千早のもとに届き――。メッセージを読んだ千早は返信。『一緒に近江神宮目指そうね!!』――。
そんな中めぐるは一人廊下を歩きながら、右手を「しゅっ!」と大きくなぎ払うのだった――。