明雄さんのにっぽん農業ノート

岡山県

  • 温暖な瀬戸内の気候を背景に古代より独自の文化圏を形成し、古くは「吉備国」と呼ばれ現在では中国・四国地方の交通の要衝として発展。
  • 気候は、北は中国山地、南は瀬戸内海に面しており、北部の豪雪地帯が日本海側気候に属し、南部は典型的な瀬戸内海式気候に属している。
  • 県庁所在地における降水量1mm未満の日数が全国最多である事から、1989年から「晴れの国岡山」を県の標語としている。

岡山県倉敷市船穂町

  • 岡山県内の中でも倉敷市船穂町では、たくさんのぶどう生産農家が競って良質なマスカット・オブ・アレキサンドリアの生産に取り組んでおり、一大生産地。
  • 毎年、生産地船穂町のマスカット農家では、ちょっとした気温の変化や木の生育具合などに細心の注意を払い、まるで我が子を育てるかのように丁寧にぶどうの木の手入れを行ない、少しでも良質な果実の収穫が出来るよう努力、研究を重ねている。

お世話になった方

マスカット農家
平本 純大(よしひろ)さん(37歳)

3代目農家。祖父は桃やぶどうを栽培していたが、父親の代からマスカットを栽培。父親は県の品評会で1・2位と受賞しているので、自身も父親に負けないようにマスカット栽培に尽力している。現在、大きいハウスを10棟所有し、年間の生産量は、60トン・2万5千房にも及ぶ。

奥さん
平本三由希さん(36歳)

マスカット・オブ・アレキサンドリア

原産国:エジプト
収穫時期:温室栽培 5月~8月 加温しない冷室栽培 9月~11月

クレオパトラも愛した果物の女王 マスカット

  • 透き通るようなエメラルドグリーンの果実、マスカット香と呼ばれるさわやかな香りと強く上品な甘みが特徴。
  • マスカット・オブ・アレキサンドリアの味わいを取り入れることを目的に数多くのブドウの品種改良に使われる。
    例)ネオ・マスカット/マスカット・ベリーA/ロザリオ・ビアンコ/紅アレキ/甲斐路(かいじ)など
  • 紀元前、古代エジプト時代から食べられ、世界三大美女の一人、クレオパトラも愛したと言われる。
  • 現在でも高級ブドウの代名詞。→「陸の真珠」「ブドウの女王」「果物の女王」と様々な異名がある。
    ※“ブドウの王様"は巨峰
    →生産量は数少ないが、1㎏あたりの単価は、全体平均の約2倍という“希少価値"の高い作物。
    →高級フルーツ店では、1房12.600円もの値段が付けられるが人気商品。
    →作物は、通常、生産地域でまとめてセリが行なわれるが、このマスカット・オブ・アレキサンドリアとクラウンメロンだけは、特別に設けられたセリ場で、生産者個人(番号で区分される)で出される。

マスカット・オブ・アレキサンドリアの由来

  • “マスカット"とは「マスク《MUSK=麝香(じゃこう)》の香りがする」という意味。
    →麝香とはオスのジャコウジカがメスを誘うために出す分泌物で、古来代表的動物性香料として珍重された。マスカットの香りがこの麝香の香りのように素晴らしかったので名付けられた。
    ※高級温室メロンの“マスクメロン"も同じ語源
  • また、エジプトの第二の都市、アレキサンドリア港から各地へ広まったことから、「マスカット・オブ・アレキサンドリア」=「麝香の香りがするアレキサンドリアの葡萄」という名前になった。

アレキサンドリアと岡山の気候の違い

  • 年間平均・年間最高気温・年間最低気温と全体的におよそ5℃、岡山の方が低い。
  • アレキサンドリアは年間降水量が、岡山の10分の1
    →ハウス栽培でないと栽培できない。
    →岡山県は台風の影響が少ないので温室栽培が発達=マスカットなどの果樹栽培が活発化

晴れの国 岡山県でのマスカット・オブ・アレキサンドリア栽培

  • マスカット・オブ・アレキサンドリアが渡来したのは、明治19年。全国のブドウ産地が栽培に挑戦したが、成功したのは、岡山のみ。現在も、日本での生産量の9割以上が栽培される。
    →エジプトは、高温・乾燥地帯なので、当初は岡山県でも栽培が困難だったが、いち早くガラス室を採用したことにより克服。
    →冬の寒い期間中の加温が必要になり、油代がかかるので、他の品種に移行してしまい、生産量が減少しつつある。故に、高級品として位置付けられる。
  • 現在は、全てハウスで栽培される。
    →高度な技術と施設でもって、温度・日照・湿度管理などが徹底されて初めて高品質なものができる。

マスカット・オブ・アレキサンドリアの栽培方法

管理方法

  • 収穫できるまでに生長するには、3年かかる。
  • 経済寿命は、およそ20年。
    →木の寿命としては、まだまだ長いが、実の質が落ちる。
  • 1本の木にはおよそ200本以上房が生る。
  • 土壌は、バークが敷かれている。
  • 常に、脇芽が出て、上に伸びようとするが、養分が余分に取られるので、こまめに摘心する。
  • 芽が生長すると、自然と上へと伸びようとするので、棚に寝かせるように括り付ける。
  • 列ごとに枝を仕立てておけば、房の数も数えやすいし、脇芽を摘心しやすい。

剪定方法

短梢剪定:太い幹の枝のみ残るように剪定。

房の整え方

  • 円筒形になるように仕立てる。
    →1:1.6の黄金比を目指す。
    →ぶどうの実は一つ一つ、花が枯れて実になったもの。
  • 大きさや生り方にバラツキが出るので、摘蕾をして仕立てる必要がある。
    →実の数も多く微妙な調整が必要なので、収穫までに何度も摘蕾が必要。
  • 摘蕾用のハサミは二種類ある。
    →アレキは、何度かに分けて摘蕾するので、成長段階によって使用するハサミを分ける。
    →蕾が小さい時は、先が鋭いハサミ。大きくなると若干、先端が太くなる。
    →先が太いハサミの取っ手部分には、ピンセットが付いていて、摘果した粒やゴミなど、周りを傷つけないように取り除く。
    →大きく生長すると、ピンセットの部分で実が表に並ぶように揃える。
  • マスカット・オブ・アレキサンドリアは、味はもちろんだが、見た目、形も重要。見た目の良し悪しで値段が変わる。

ブルーム

  • ブルーム(または果粉)とは、ぶどうから分泌される糖分やミネラル。
    →油のようなもので、雨が降ってもよく弾く。
  • 通常、雨粒によく病原菌を含まれているので、ぶどう自身が実を守る役割がある。
    →ブルームがよく付いているかどうかで健康状態が判断できる。
  • ブルームがよくあれば、より健康という事なので、実も良質で日持ちも長いので、値段も高くなる。
    →触れるとすぐに剥がれてしまうので、生産者は極力触れないようにしている。

収穫前の味の変化

  • 収穫の1ヵ月前のものは酸が強い。これは酸が糖分に変わる訳ではなく、熟するとともに酸味が減る、一方で糖度が増える。
    →もともと植物に備わった性質で、種がまだ出来ていない時期に鳥や動物に捕食されるのを防ぐ。
    →病原菌やカビも酸には弱いので、病原菌対策にもなる。
  • 酸はもともと壊れやすく、衝撃や熱で簡単に壊れる。
    →時間が経過すると共に、日光の熱で分解される。
  • 成熟してくると、逆に動物や鳥に食べてもらう為に糖分を果肉に溜め込む。
  • 「種がないとアレキの美味しさが損なわれる」理由
    →種が出来ても、病原菌から種を守る為に、種の周りだけ酸を持っている。この酸が果肉の甘みとちょうど良いバランスを生み、美味しさになる。
    →果実から水分が蒸発(蒸散)するのは、まず皮の部分から。なので、皮の付近が特に甘くなる。

収穫

  • 糖度の出荷基準は、16度以上。
    →糖度以外にも酸味や食味、色味など厳しい審査基準があるが、それらは生産者が判断する。
    =マスカット・オブ・アレキサンドリアは、各生産者の名前で出している為、評価がダイレクトに来る。
  • マスカット・オブ・アレキサンドリアにも顔があり、粒の大きさや形、整列しているかどうかで決めて、いい面を表にする。

箱詰め

  • 重さごとに大きさが異なり、その重さにあったものを詰める。
    →規定範囲以内に収まらないものは、目立たない場所の粒を取るなどと調整する。
  • 傷んだ粒やゴミなどがないか最終確認する。一番整った面が見えるように、箱に詰める。

増やす方法

種で増やすと父と母の影響で違う品種になってしまうので、挿し木によって増やされる。
言わば、クローンのようなもの。
→全く同じ遺伝子が2000年以上受け継がれたものと言える。

マスカット・オブ・アレキサンドリアの美味しい食べ方

  • 一番おいしい食べ方は、皮ごと食べる。
    →皮と果肉の間にうま味があり、皮がはじけた瞬間、口の中に香りが広がるので美味しい。
  • 種があるので、先に種を取って食べる方法もある。
    →先端を強めに押して、裂け目を作り、二つに割き、種を取って食べる。