明雄さんのにっぽん農業ノート

山口県柳井市

  • 山口県の南東部に位置し、総面積の半分以上が山地丘陵地で占められる。
  • 瀬戸内海型気候区に属し、冬も温暖で比較的雨の少ない過しやすい気候。
  • 年間降雨量は、1,600mmから1,700mm程度。
    →全国や県と比較すると、日照時間が長い地域。

お世話になった方

自然薯農家さん
政田健太郎さん(38歳)

元々、サラリーマンとして働いていたが、祖父の後を継ぐ為、8年前に家業の農家に転身。自然薯栽培の発祥の地として、クレバーパイプやその栽培方法を全国に広める活動も行っている。

政田敏雄さん

健太郎さんの祖父。
計量器の販売を行っていたが、「自然薯は栽培できない」と聞き、独自で研究し、おおそ40年前にクレバーパイプを開発。現在、その栽培方法は全国に広まり、クレバーパイプは1,300万本以上売れた。また、本業の計量器の分野でも、農家さんにとって画期的な減算式計量器「分太くん」の発明、開発に携わっていた。実際に、達也も鹿児島県のサツマイモ農家さんのお宅で遭遇していた。

敏雄さんの画期的な発見

自然薯が生える山を何百カ所と自らの足で調査し、「根が張る地表部は肥沃な土で、薯が育つ地下は痩せた土だ」ということを発見。農家の方にとっては、痩せた土にこそよく生長するということは盲点だったため、栽培が不可能といわれた一つの要因だった。
→その解決法として、パイプの中に山土を入れて栽培。さらに、赤土だと薯の色が淡く綺麗になる。

玉本光枝さん

自然薯が大好きで、いくつものオリジナル自然薯料理レシピを持っており、現在も増加中。

自然薯

  • 分類:ヤマノイモ科ヤマノイモ属
  • 日本中の山に自生している蔓性の多年草。
  • 自然薯と言われる芋の部分は、土質によって長さ・太さ共に変わるが、素直に成長すると長さ1.5m、直径3cmほどに育つ。
    →首部20cmくらいが細長く、根と茎の中間的性質。
  • アジア、アフリカ、ラテンアメリカなどの主に南部で主食にされている、ヤムイモの仲間。
    →そのうち日本の原種が自然薯とされ、学名もDioscorea japonica(日本のヤム)。
    →他に、ナガイモや大和芋とよく似た薯があるが、大陸からの外来種で16~17世紀頃に渡来した。
    →「山芋」とは、自然薯、長芋、大和芋などの総称。自然薯は、在来種で自生するものは山野に育ち希少価値が高いとされているが、長芋、大和芋は昔から畑や砂地で農作物として栽培される。
    →山芋の特徴である粘りは、自然薯>大和芋>長芋の順

自然薯の歴史

  • 稲作や農耕が始まる前にはすでに貴重な栄養源の一つとして重宝されていたと考えられている。
  • 8世紀には「出雲国風土記」に薯蕷(しょよ)として登場している。
    →高い栄養価と収穫の難しさから、古くから高級食材とされ、平安時代には貴族への献上品だった。
    →芥川龍之介が書いている「芋粥」では、主人公の下級遺族が生涯に一度でよいから腹一杯食べてみたい憧れの食材として登場。
  • 江戸時代には、街道沿い、特に険しい峠の麓の茶屋で名物として食べさせる店があった。
    →静岡の掛川や丸子有名。
    →精がつく食材として知られていたので、「山うなぎ」の別名で呼ばれた。

自然薯の特性

  • 自生地は、吸収根が保水力・栄養がある腐葉土に、芋の部分は排水の良いが栄養のない地下に生長。
    →芋は、水分の多い土や有機質を含む土を嫌い、伸びやすい環境を求めながら伸びる。
  • 芋は、高温や障害物などでくねくね曲がる。
  • 芋の上部、約20cmは茎と根の中間的な性質で栄養を吸収するが、そこから下の部分は茎の一部になるので、栄養の吸収活動は行わない。
    →芋は、越冬し、翌年も芽を出し生長する為の、『栄養の貯蔵庫』。
    →芋の生長点にあたる土壌に栄養があると、生長点が分裂して分岐いもになったり、腐ったりして、正常な芋にならない。また、生長点は土壌病害虫などにも弱い。
  • 芋の表皮は薄く、加湿高温の状態では腐敗しやすい。
  • つるが巻く方向は決まって(上から見て)反時計回り。
    →逆回りの植物(おにどころ)も存在しているが、その芋は有毒で食べる事が出来ない。
  • 大きく3つの生殖で増える。
    ①むかごと呼ばれる液芽(豆のような形の薯)から成長。
    →むかごは、茎の一部が丸く太ってできたもの。これは、土の中にある芋ができるのと同じ仕組み。
    だから、芋と同じように芽を出すことができるし、味も似ていておいしい。
    むかごを作る植物は、オニユリやノビルなどがある。
    ②花を咲かせて種をつくる。
    →軽くてあまり養分を持っていない。むかごに比べると成長が少し遅いが、風に飛ばされて遠くで芽を出すことができる。
    ③前年の芋を種に成長。

生育場所

  • 地面に直接日光が当たらない山の北斜面。
  • 地表面には湿気があって、地温の低い所を好む。
    →湿度・地温がが高すぎると分岐いも、奇形いもとなる。
  • 昼夜の温度差の大きい山麓や高原地帯によく生育している。
    →地面に日が当たり、地温が上がるのは嫌うが、葉や蔓が光合成する為の採光は芋を生長させる為に必要なので、日照時間が長い方が良い。
    →蔓は、他の植物の影になる事が多いので、数十mも光を求めて伸びる。

自然薯の栽培

  • 長年、竹を割ったもの、とい状の樹脂、波板などで長年くり返し栽培されたこともあったが、安定した収量は得られなかった。
  • 昭和50年代になって、パイプ内に芋の生育に適した土を客土する栽培法(クレバーパイプ)を確立。圃場土壌の悪条件から完全に隔離して新生芋を育てる事が可能になった。
    →畑に自然薯の育つ環境を再現する様に工夫された。

クレバーパイプの特長・利点

  1. 一本一本、パイプの中で育つから、パイプごと簡単に掘り出せる。
  2. 芋を傷つけない。
  3. パイプは繰り返し使えて経済的。
  4. DASH村のように石が多く出土するような畑などでも、管理をきちんとすれば生長するので、畑のコンディションを選ばない上、連作障害の心配もない。

自然薯栽培の必要事項

土つくり

吸収根を圃場一面に生長させ、新生芋はパイプの中で生育させるので、過湿地を除けばどこでも良く、栽培に当たっては土壌条件の良否というよりは、吸収根の活動する部分の土つくりをする事の方が大切。

パイプ土入れ

  • 砂を自然薯栽培用のパイプ(クレバーパイプ)に詰める。
    →この作業は自然薯の出来を大きく左右する。自然薯は「土圧」に敏感で、芋が肥大するには、土にある程度の固さ(抵抗)が必要。抵抗がないと、細長く生育する習性がある。

パイプの中に入れる土の条件

  • 有機質を含まず、無菌に近い状態の土
    →新生芋のひげ根からは養分を吸収しないので、栄養分のある土をパイプ内に入れると、成長が止まったり、奇形芋となったり、腐敗したりする。
  • 水はけが良い土

奇形になる理由

過湿による障害

  • パイプに雨水が溜まることがあるが、万が一、停滞水があったとしても地上から確認できないので、排水状況を良く考えて、パイプを埋める。
    →過湿状態が続くと次のような障害が現れる。
  • 団子状の芋になる。
  • 分岐するか、先端が鱗状になるなどの奇形芋になる。
  • 水没2日以上になると酸欠によって細胞の活動が止まり仮死状態となり、そこに腐敗菌が発生し体内にまん延して腐る。
    →対策として、パイプを斜めに設置し、排水を考えて高畝にする。

地温の上昇による障害

  • 地温が27℃以上となると、生長点が左右に逃げ歩く為、くねくねと蛇行状に曲がる。
  • 地温が30℃以上になると、生長初期段階では桃色の斑点ができるが、中期になると亀の甲状のひび割れになり、腐敗する事がある。
  • 地温上昇に対する対策
  • マルチで畝全面を被覆
  • 支柱を立て、つる葉の展開を利用し、陰を作る。

収穫

  • 12月頃、蔓が完全に枯れてから掘り取りを行う。
    →茎葉が枯れて2週間くらい経ち、冬眠してから掘り取ればアクの発生が少ない。
    →11月中旬頃には、芋の形成を完了して、芋は来春まで常温下で数ヶ月間の休眠に入る。
    ムカゴの場合も8~9月頃形成されたムカゴは常温では来春まで萠芽しない。
  • 畝の土を取り除き、クレバーパイプを丁寧に掘り取る。
    →芋を取り出すとき、2人で行うとを傷つけるリスクが減る。
  • 収穫後は、自然薯は乾燥しやすく、かつ腐りやすいので、そのまま常温に置いておくと約1週間で商品価値がなくなる。
    →湿度調整の為、自然薯が並ぶ段ボールにはおがくずを入れる。さらに、2℃に設定された冷蔵庫に保管していれば、一年ほどは出荷し続けられる。

自然薯の効能

  • 自然薯の薬効は、世界の最古の薬学書「神農本草経」に、最も効能のある「上薬」として、次のように記される。
    「病気等で体力が衰えたときにこれを補い、急性の疾患では内臓の機能を補って気力・体力をつけ、肌肉を良くする。久しく服用していると耳や目の働きが良くなり、身が軽くなり、飢えに苦しむことがなく長寿を保てる。」
    →このように、自然薯は古来より、滋養・強壮・強精食として珍重された。
  • 特に食欲がないときや、疲れやすいときなどに効果を発揮する。
    →成分としては粘り気のあるムチン、アミノ酸のアルギニンやアスパラギン、それに消化酵素のジアスターゼ等。
  • 20歳代をピークにして年々減少してゆくと言われている「若返りのホルモン」の名前で知られているDHEAが多く含まれる。
    →体の新陳代謝が活発になり老化防止・抵抗力強化・更年期障害・心臓病・滋養強壮などが期待できる。
  • 他に、カルシウム・鉄分・ビタミンなども豊富。

調理

自然薯をおいしく調理する前準備

自然薯は、皮が薄く、そのまま食べられるのが特徴。皮には風味と栄養がたっぷり詰まっているので、皮を剥かずに食べるのが一番良い。
→細いヒゲ根をガスレンジなどの火で軽く炙ると燃えてなくなるので、食味が良くなる。

  • 自然薯の磯辺揚げ
  • 自然薯入りの茶碗蒸し
  • とろろすき焼き
  • 麦とろ飯
  • フライド自然薯
  • 自然薯の刺身
  • 自然薯の素焼き

自然薯の磯辺揚げ

すり下ろした自然薯を海苔でまき、油できつね色になるまで上げる。

自然薯入りの茶碗蒸し

  1. 潰した豆腐にすり下ろした自然薯と玉子を入れて、混ぜ合わせる。
  2. 混ぜ合わせたものを茶碗に入れて、上から出汁とカニかまをのせ、15分間蒸す。
  3. 蒸したものに、三つ葉や柚子をトッピングし、完成。

とろろすき焼き

すき焼きの上から、すり下ろしたとろろをたっぷりとのせ、とろろがふっくらするまで、一煮立ちさたら完成。とろろを具材に絡ませて食べる。