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<武田修宏 シドニーFCリトバルスキー監督 取材リポート>
2005.08.18
サッカーの仕事としてシドニーを訪れるのは、96年、ジュビロ磐田在籍中のキャンプ以来。オペラハウスとハーバーブリッジが出迎える美しい港。オーストラリア最古にして最大の都市。そして大都市でありながら美しいビーチをいくつも有する街。シドニーは私が訪れた都市の中でも『最も美しい街』と言えるでしょう。
今回『オーストラリアのサッカーの可能性』、『リトバルスキー監督が目指すサッカー』をテーマにシドニーFC、そしてリトバルスキー監督に密着取材を行ないました。タヒチで行なわれたOFCクラブチャンピオンシップ決勝後、リトバルスキーが日本テレビのインタビューで『我々はアンダードッグ(格下)ですから』と言っていましたが、これは現時点での話。8月26日にはオーストラリア初のプロサッカーリーグ『Aリーグ』が開幕します。つまり日本の『Jリーグ』の時がそうであったように、これからオーストラリアのサッカーレベルが急激に上がる可能性が高いのです。そして忘れてはいけないのがシドニーFCはチーム創立3ヶ月でオセアニア大陸王者になったということ。つまり彼らの進化次第で12月のFIFAトヨタカップは大番狂わせが起こるかもしれないのです。 (ちなみにJリーグ初ゴールは御存知マイヤーですが、初めてシュートを打ったのは何を隠そう私。それも胸で打ちました…) それを裏付けるかのような光景をシドニーでは多く目にしました。それはサッカーの競技人口の多さ。休日の美しい広大な芝生の広場はサッカー一色。『オーストラリア=ラグビーの国』という概念をあっさりと覆されてしまいました。オーストラリアサッカー協会いわく『国内最多の競技人口はサッカー、ラグビーやオージーボール(オーストラリアンルールズ・フットボール…ほとんど喧嘩!!)は「観る」スポーツとして人気だが、「やる」スポーツとしてサッカーが一番』と自信。
ラグビーと比べると安全な競技として子供や女性に大人気。サッカー人口の底辺が広くなっていることは、今後のレベルアップにつながると確信しました。そんな進化の可能性を秘めたシドニーFCの練習場を訪れ、久々にリトバルスキーに再会を果たしました。リトバルスキーとは93年Jリーグ開幕の年一緒に選手として戦った間柄。特にその年のオールスターでは同じチームでプレー。本人から褒められ嬉しかった記憶が残っています(W杯優勝の立役者の一人、リティに褒められたのですから…)。そしてオーストラリアでも彼の情熱は変わっていませんでした。ジーコ同様日本サッカー発展に多大な影響を与えた偉大な選手。今回の監督就任のオファーを引き受けた理由もプロリーグ創成期に立会う面白さだと言っていっていたのが印象的でした。
そしてもう一人、ジェフ市原でともにプレーしたビングリーと再会。ビングリーとはジェフ市原をJ2降格の危機を乗り越えたチームメイト。テクニックはありませんでしたが体を張ったプレーで『頑張る』タイプでしたね。7年ぶりになりますが覚えていてくれて嬉しかったです。シドニーFCについて聞いてみると『我々は闘う気持ちではどこにも負けない』と頼もしげに話してくれました。現在シドニーFCはチームの練習場やクラブハウスを所有していません。練習場も州のサッカー協会の練習場や市の公園を借り、4ヶ所に別れています。練習場間は最大30キロも離れています。そのひとつがサーフィンのメッカ『ボンダイビーチ』。
白い砂浜が印象的なこの場所で行なわれるのがリカバリーのフィジカルトレーニング。トレーニングコーチにその理由を聞いてみると、『砂浜での運動が足腰にいい負荷を与える』『海水が筋肉をクールダウンする』『海が選手の気分転換になる』とのこと。ビーチを愛するシドニーらしい練習だなと感じました。そして『Aリーグ』プレシーズンマッチ準決勝『シドニーFC対パース・グロリーFC』も観戦に行きました。スタジアム前ではチームキャラクターのシッド君とシドニーちゃんに迎えられ早速スタンドへ。オーストラリアサッカーの印象はまさに『肉弾戦』(オージーボールの影響でしょうか。こんな大男にマークされたら嫌だな…)。
試合結果はシドニーFCが終了間際に失点を喫し0−1で敗退。なんとこれがチーム創立初黒星。あとでリトバルスキー監督に『武田が観に来たから負けた』と冗談を言われてしまいました(冗談だと信じているのですが…)。リトバルスキーのシステムは4バック2ボランチとまず堅実な守備を考えるシステム。まさにドイツサッカーの継承者ですね。そしてシドニーFCのサッカーの特徴はやはり『高い身体能力』を生かしたプレー。タックルの激しさはラグビーやオージーボール譲りなのでしょう。戦術的には身体能力を生かすためのセットプレーやロングスローでゴールを狙うサッカー。そしてなんといってもクロスボールが多い。身体能力を生かすためだけでなく、ラグビーなどとスタジアムを共用しピッチの芝が凸凹のため、パスが繋がりづらくドリブルがしづらいのもクロスボールが多い要因なのではと思います。またディフェンスラインからゲームを組み立てるのも特徴のひとつ。 しかしリトバルスキーが目指すサッカーについ聞いてみると『クライフ監督時代のバルセロナ。ピッチを幅広く使うパスサッカー』と言っていました。そのチームの中心となるのが攻撃はマンチェスター・ユナイテッドのエースストライカーとして活躍したドワイト・ヨーク。そしてチームのキャプテンでオーストラリア代表でもあるドリリッチ。更にオーストラリア代表のペトロフスキー。この強力FW陣は注目。
そして守備では、最大の注目選手となるセンターバックのイアン・ファイフ(写真・右)。リトバルスキーも『いつか世界のトップチームで活躍する選手』と太鼓判を押すほど。ディフェンスラインからゲームを組み立てることも出来るし、身長185センチの身長を生かした守備の堅実。実際プレシーズンマッチでも安定した守備を披露。ちなみに関係ありませんが顔も男前(日本で絶対人気が出ます!!)。ディフェンスラインが生命線となるシドニーFCのまさに顔なのです。Aリーグが開幕し、世界で活躍したリトバルスキーのもと、12月までどんな進化を遂げるのか楽しみなチームです。そしてシドニー郊外にあるリトバルスキーの自宅もお邪魔しました。広い!!庭には子供用のサッカーコートが作られていてビックリ!!リトバルスキー自身、子供の頃欲しかったものらしいです。 家族は奥さんのひとみさん(36)、長男ジョエル君(7)、次男ルシエン君(2)の4人暮らし。奥さんは綺麗で明るいし、リトバルスキーとの会話はまさに夫婦漫才(ひとみさん風邪をひいているなかお邪魔してスミマセンでした)。長男はリトバルスキー似の美男子。取材の日は宿題を一生懸命やっていました。どこの国でも一緒ですね。そして次男のルシエン君はとにかくかわいい。取材スタッフもルシエン君の笑顔にノックアウト。まだ2歳なのにちゃんとボールを蹴っていたのにも驚き!才能は遺伝するんですね。日本語とドイツ語と英語が飛び交う本当に明るい家庭でした。 結婚っていいですねぇ…。 そんな家族に支えられているからこそ、リトバルスキーは自宅でもサッカー漬け。パソコン大好きというリトバルスキーは、自分で撮影した練習映像をパソコンに取り込んで分析していました。また既に中南米代表のディポルティーボ・サプリサの試合も分析。その中でも10番と2番に注目していました。リトバルスキーいわく『サプリサの方がスピードはすべてにおいて上。冷静に見て勝つ確率は現時点で30%ですが、今までのサッカー人生においてビッグチームが小さなクラブチームに負けたところを数々観てきました。全てを出し切れば最後まで勝負は分かりません』と秘めたる情熱を語ってくれました。 シドニーFCはこれから進化を遂げるチーム。日本もプロが出来て急成長したように、オーストラリアもAリーグができてこれからどれくらい伸びるかが鍵。12月リトバルスキーの情熱が世界にサプライズを起こすでしょう。
----- 武田 修宏 -----
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