放送内容

2016年2月10日 ON AIR

家庭崩壊の危機 片頭痛の恐怖

『片頭痛』それは、脈打つように痛む発作性の頭痛。
一か月に1~2回の頻度で発症し、時にはその痛みが3日以上も続くことがある。
10人に1人が片頭痛持ちと言われているが決定的な治療法は見つかっておらず
投薬で予防、鎮痛するのが一般的となっている。


岡山大学病院、循環器疾患集中治療部。
心臓治療が専門のこの部署で、なんと心臓手術によって
20年以上苦しんだ片頭痛が嘘のように解消された女性がいる。


"最初は貧血だと思っていた"


その女性は、中国地方のある都市で生まれた。
母と姉との三人暮らしだったその女性の幼少期、いつもはいたって健康であったが
長風呂をすると目の前が暗くなり、よく倒れた。


しばらく時間がたつとケロッとしたように元気になる事から
母は少し貧血気味な子としか思っていなかった。


小学校、中学校と特に体調に問題なくすくすくと育った女性だったが
女子高に入ると同級生との差を感じる出来事があった。


朝、通学路のゆるい坂を登るのがとてもキツい。
週三回の華道部では終了時間になると体がとてもダルくなった。
家に帰るとドッと疲れが押し寄せる。


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それは、のちに彼女自身が苦しむこととなる片頭痛につながる症状だった。


"片頭痛を発症"


短大に進学したころ、体調に大きな変化があった。


電車に乗っていると突然、目の前に細かい光が見えたような気がした。
しばらくすると、左の頭がズキズキ痛い。
痛みはドンドン増していく。立っているのもツラくなるほどだった。


なんとか家に帰ると、点けた明かりが煩わしく感じ、
ベッドで横になっても枕の高さがさらに痛みを増していく。
女性は枕を放り投げ、脈打つような頭の痛みに耐えた。


これがこの女性を20年も苦しめる事となる片頭痛を発症した瞬間だった。


しかし、翌朝起きると痛みは全くなくなっていた。
この後も忘れたころに痛みが起きる程度だったので、
彼女は"自分は頭痛持ち"という程度に軽く考えていた。


短大を卒業後、事務系の仕事に就職した女性は
頭痛の頻度が高くなり、その痛みがいつ起きるのか予想できるようにもなっていた。


頭痛が起きるのは、猛暑の日や雨の日、そして生理前。
その日が近づくと仕事に集中できず、付き合いも悪くなる。
痛みをこらえた表情がしかめっ面のように見える事から
職場でいつも何かに怒っている、いつも不機嫌な人と言われるようになっていった。


頭痛薬を試してみようかとも思ったが
たまたま見た本に「薬物乱用頭痛」という頭痛を和らげるための薬に依存してしまう
記述があったことから、飲まずに堪える方を選んでしまった。


やがて頭痛により仕事が進まず、他の同僚の仕事量を増やしてしまう事が
多くなっていった。


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頭痛のせいと言いたかったが、どうせ「それくらいで」とか「我慢しろ」とか言われるのがオチ。
こうして彼女は頭痛の事を誰にも相談できなくなった。


"頭痛が家庭も苦しめる"


頭痛が始まって7年後。女性は年上の男性と結婚。
専業主婦となった彼女だったが、今までの経験から夫にも自身の頭痛の事は隠していた。


夫は多忙で早朝出勤、深夜帰宅の毎日。
一緒に過ごせるわずかな時間に痛みが無い事を祈りながら生活していた。


やがて待望の長女が誕生。
しかし、この日から育児と頭痛の地獄の日々が始まった。


頭の痛みにより、ぐずる娘を優しく抱きかかえることが出来ない。
娘が10歳になると、頭痛を隠している事で様々な問題が起き始めた。


年頃の娘。いつも眉間にしわを寄せてしかめっ面な母親に違和感を覚えるようになった。
夫も不機嫌な妻の態度が気に入らない。
いつしか彼女の片頭痛が家族の雰囲気を悪くさせていた。


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ある日、娘が手紙をそっと渡してきた。
その手紙には、「自分は悪い子ですか?なぜいつも怒っているのか教えて下さい」
というメッセージが書かれていた。


自分の頭痛のせいで娘がこんなに苦しんでいるなんて。
それを知った彼女はついに自分の頭痛の事を娘に伝えた。


本当の事を知った娘は、その日から母親の事を理解し
献身的にサポートするようになった。


娘が自分のために家事をしてくれている。
申し訳なさと嬉しさで胸がいっぱいになった。


月に数日訪れる頭痛の無い日は、娘と笑いながら過ごすことが出来た。
これまで頭痛が当たり前だった彼女にとって、こんな時間がもっと長く
続けばいいのにと考えるようになっていった。


でもそんな時間は長く続かない。
再びやってくる頭痛で動けなくなる自分に娘は寄り添ってくれる。
そんな娘に母親として何もしてあげられていない自分が情けなくて悲しかった。


"片頭痛の原因は心臓?"


2005年3月。
片頭痛に苦しむ彼女に運命を変える大きな出来事が起こる。


今までに感じたことのない痛みが頭を襲った。
頭痛というレベルではない、後頭部を鈍器で殴られたような痛み。


夜になってもその痛みは治まらなかった。
帰宅した夫に勧められ、病院で検査を受ける事に。


診断結果は「脳梗塞」。
女性は医師に、片頭痛との関係性を聞いたところ
直接の関係性はないとの事。


しかし、女性の年齢、体格、生活習慣などを踏まえ、医師は思いもよらない事を伝えた。
「今回の脳梗塞は心臓に原因があるかもしれません。」
女性にとっても寝耳に水。頭が痛いのに心臓が悪い?意味が分からなかった。


心臓の詳しい検査を受けるよう医師から勧められた女性は、
これをきっかけにこれまでの片頭痛の事を夫にも話した。
夫も妻の苦しみを理解した。彼女はもっと早く話せばよかったと後悔した。


こうして家族のサポートを受け、彼女は岡山大学病院を訪れた。
これまでの症状を担当の赤木禎二医師に伝えると、
「心臓に穴が開いている可能性がある。」という意外な一言が帰ってきた。


実は、人間の心臓は胎内にいる時に卵円孔という小さな穴がある。
出生後に自然に閉じるのだが、およそ5人に1人の確率で開いたままの人がいるという。
ほとんどの場合生活に支障はないが、ごくまれに開いている事で
体力低下の原因になり、また血の塊を通してしまう事で脳梗塞の原因になる事もある。


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検査をすると予想通り女性の心臓に穴が確認できた。
そして赤木医師によるとこの穴を塞ぐことで片頭痛も改善できるという。
20年以上片頭痛に苦しんだ女性にとってそれは衝撃の発言だった。


これまでの研究で片頭痛の引き金となっている原因が
神経伝達物質、セロトニンだという事がわかっていた。
このセロトニンが卵円孔を通過し、脳へ向かうとそれに反応して痛みが発生する。
つまり、卵円孔を塞げば痛みが治まるというのだ。


手術は1円玉より少し大きい専用の閉鎖栓を足の静脈から心臓に通し
卵円孔に差し込んで塞ぐというもの。
手術当日まで片頭痛に苦しんでいた女性は家族の励ましを受け手術に臨んだ。


"20年苦しんだ片頭痛から解放される"


手術は無事に完了した。
1時間で埋まった心臓の穴。あとは女性が目覚めるのを待つだけだった。


ベッドの上で目が覚めると手術直前まであった頭痛は全くなくなっていた。
20年以上苦しんでいた片頭痛から解放された瞬間だった。
夫も娘も自分の事の様に喜んだ。


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自身でも信じられないという片頭痛からの突然の解放だった。
手術から1年。女性を20年以上も苦しめた片頭痛はきれいに消えたという。

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