放送内容

2017年7月18日 ON AIR

命を脅かすアクアリウム

まるで南の海のような熱帯魚やサンゴ。
観賞用の「アクアリウム」はかなりの大金をかける熱狂的なファンもいる。


しかし2014年、CDC・アメリカ疾病予防管理センターがある症例を発表した。
それは美しいアクアリウムで人の命を脅かす事があるというものだった!


" シェアハウスの住人が同じ症状に"


2014年、アラスカ州アンカレッジ。一軒のシェアハウスでそれは起きた。
住人の一人が...激しい咳とひどい頭痛。


体のあちこちの関節が痛む。
風邪と思った男性はうがいをしようと洗面所へ向かうと、他のルームメイトも。
彼も咳が止まらず、体中が痛いという。


薬を探しにリビングへ。
そこには犬と猫が1匹ずついるのだが、犬が嘔吐していた。
猫もいつもに比べて元気がない。


さらにまた別のルームメイトを見に行くと自分達よりも明らかに症状が重そうだった。
異変を感じた住人は直ぐに救急車を呼んだ。


病院に運ばれた時、熱は39℃以上。咳、酷い身体の痛み、そして嘔吐も。
インフレンザは陰性。脳検査や胸部のX線検査も異常なし。
医師は何かの中毒症状と思い、症状の軽かったルームメイトから話を聞いた。


20170718_05_02.png


まず食事を疑ったが、昨夜は皆、違うものを口にしていた。
食べた物が原因ではないようだった。


いつもと違うことがなかったか確認すると、1人の住人の趣味に医師は引っかかった。
その趣味とはアクアリウム。この日、水槽の中身をバージョンアップしていたという。


そういえば水槽がある部屋の男性の症状が一番重い。
すぐにアラスカ州の機関に報告され、水槽の周りを中心に調査した。


" 原因はサンゴの一種だった"


そして中毒症状を引き起こした原因が判明する。
それはマウイイワスナギンチャクだった。


一見、イソギンチャクのように見えるが、非造礁サンゴと言われるサンゴの一種。
ハワイのマウイ島、近海だけに生息しており、生息範囲は非常に狭い。


この「マウイイワスナギンチャク」は、非常に強い毒を持つことで知られている。
その毒とは「パリトキシン」といい、
その毒性はなんとフグ毒であるテトロドトキシンの約50倍!


この毒が体内に入ると主に筋肉痛、麻痺、痙攣などを起こす。
重症の場合、心臓と肺の血管などを急速に収縮させ、窒息するかのごとく
人を死に追いやるのだ。


現在パリトキシンの解毒方法はない。
実はあの日、水槽に追加された生き物の中に猛毒をもつこのマウイワスナギンチャクも
含まれていた。


この生物、水の中にいる限りは人間に害を与えない。
しかし、水槽に移そうとした時、何かのはずみでマウイイワスナギンチャクの破片が
床に落ちたのだ!


20170718_05_03.png


この生物、刺激を受けた時に自分の体を守ろうと大量の粘液を出す。
この粘液に...猛毒パリトキシンが多量に含まれている。


そして更なる不運が。
床に破片が落ちたことに誰も気がつかなかった。
時間が経過し、粘液が乾燥すると...粘液の中の猛毒パリトキシンが乾き粉末に。


その粉が部屋の空調により舞い散り、鼻や口から体内に入った。
そして粉末になったパリトキシンは家中に散り、水槽のあった部屋から
数メートルも離れたルームメイトの部屋や、リビングにいた犬や猫まで
すべてに中毒症状を引き起こしたと推測された。


だが、今回幸いにも毒の量が少なかったため、ルームメイトの2人は治療を受けて
数時間後には回復。
犬と猫もその日のうちに元気をとり戻した。
水槽のある部屋にいた男性も、その後2日ほど入院したが大事には至らなかった。


日本でも南は沖縄から北は伊豆諸島の海まで「イワスナギンチャク」は生息している。
それらも猛毒パリトキシンを持っているが、毒の含有量は高くなく、
今まで重大な事故は引き起こしていない。


アメリカ疾病管理予防センターもパリトキシンを体から拡散させる可能性のある生物を
取り扱う際は十分な注意が必要と警鐘を鳴らしている。

バックナンバー一覧