放送内容

2017年10月17日 ON AIR

まさか、あの食べ物が危ないとは

日常的に誰もが食べる、ある食べ物を少量食べただけで
恐ろしい病気を発症した人たちがいる。
彼らは一体何を食べたというのか?


" 突然体が動かなくなる病"


2014年12月。
東京で一人暮らしをしている50代の健康な男性。
ある日、歯を磨こうとしたときに異変が起きた。


指に力が入らず、水の入ったコップが持ち上げられない。
疲れているのだろうと思い、そのまま寝た。


翌朝目覚めると...両手足に力が入らない。
何とかベッドから起き上がってこの症状をインターネットで調べると
よくあてはまる病名を見つけた。


救急車を呼ぶが、その間にもどんどん力が入らなくなる。
そして急速に病状は進行し、立てなくなった。


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運ばれた病院でMRI、CTスキャン血液検査、髄液検査等様々な検査が行われた。
診断結果は、男性がネットで見つけた病名と同じギランバレー症候群だった。


ギランバレー症候群とは、主に筋肉を動かす運動神経が攻撃され、
手足に力が入らなくなったり、腱反射がなくなる、免疫にかかわる神経疾患。


年間、10万人に1人~2人の割合で発症しているというが
原因は細菌やウイルスによる感染。


最も多いのは、カンピロバクターという細菌に感染した時。
通常、人は菌やウイルスに感染すると体の中で抗体ができる。


抗体は細菌に結合して、細菌を攻撃するなどして菌を消滅させるのだが、
カンピロバクターという菌の一部に、末梢神経の表面と同じ構造が存在する。


すると、本来は菌を攻撃するはずの抗体が、間違って末梢神経を攻撃してしまい
これによりギランバレー症候群を発症してしまうのだ。


" 原因は..."


そして、別の男性もギランバレー症候群になった。
2015年8月、大阪の40代の健康な男性。


職場について間もなく、夏なのに手が冷たくなり痺れているように感じる。
時間がたつと倦怠感に襲われ、キーボードがうまく打てなくなった。
そして、会社を早退した。


翌朝、目が覚めると手にも足にも力が入らなくなった。
妻が半ば強引に病院に連れて行き、神経内科で髄液検査が行われた。
診断結果はギランバレー症候群だった。


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こうして、突如ギランバレー症候群を発症した2人の男性。
実は、ある食べ物が原因と考えられている。それは超身近にあるものだった!


医師に「2週間以内に何か生ものを食べませんでしたか?」と尋ねられた東京の男性。
男性が思い当たるのはただ1つ。
病気を発症する2週間ほど前、忘年会で食べた鍋だった。


鍋の具材の鶏もも肉をかじると、中までちゃんと火が通っていなかったが、
なんとなくそのまま飲み込んだ。
その3日後から、激しい下痢が1週間も続いたという。


一方、大阪の男性が食べたのは鶏の刺身。
男性が食べたのはわずか2切れだったが、4日後に39度の高熱と
激しい下痢倦怠感と頭痛に襲われた。


2人が共通して食べたのは、十分に加熱されていない鶏肉だった。


" 鶏肉に潜むカンピロバクターの恐怖"


鶏の腸内にはカンピロバクターが多く存在し、処理される間に鶏肉に菌が付着してしまう。


2016年、ゴールデンウィークに東京と福岡で開催された「肉フェス」で
新鮮な鶏肉だからできる、と軽く湯通ししただけの鶏のささみや表面をあぶっただけの
むね肉など半生の鶏肉を提供したところ集団食中毒が発生した。


東京会場では464人が発症し、12人が入院するという事態になった。


カンピロバクターに詳しい専門家によると、
「新鮮なほどカンピロバクターが元気よく汚染している」という。
つまり新鮮だから安全という訳ではないのだ。


2016年のデータでは1年間にカンピロバクターが原因の食中毒を3272人も発症していて
細菌性食中毒の原因の1位になっている。


下痢や腹痛、嘔吐や発熱といった症状を発症するが、
重篤化して死亡することはほとんどない。
しかし、ごく稀にギランバレー症候群の引き金となる可能性があるのだ。


ギランバレー症候群を発症した東京と大阪の2人の男性。
共に、検査した時には時間が経ちすぎていてカンピロバクターは検出されなかった。


しかし大阪の男性の場合、一緒に食事をした同僚が全員食中毒を起こし
その内の一人からカンピロバクターが検出されたため、鶏肉のカンピロバクターが原因で
引き起こされたギランバレー症候群だと診断された。


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一方東京の男性は、カンピロバクターが原因だと特定することはできなかったが
他に思い当たる原因が存在せず、本人はカンピロバクターが原因と考えている。


精製した血液製剤を集中的に投与し、異常な自己免疫を抑える治療法がとられた。
おおむね1か月を過ぎると症状は回復に向かい、半年~1年くらいでおよそ7割の患者が
元の生活に戻れるという。


" 壮絶な病との闘いは今も続く"


だが東京の男性は、症状が悪化していき壮絶な闘いが始まった。
首の筋肉が麻痺し、赤ちゃんのように首が据わらない。
神経が侵され、幻視も起きた。


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病室のカーテンの上の格子が原稿用紙のマス目のように見え
お経のように知らない漢字で埋められたという。
さらに、ベッドの周りの医療器具が生き物のように見えた。


だが意識はしっかりしていて、現実ではないと理解はできる。
そして、その日の夜には胸の筋肉が動かなくなり自発的に呼吸ができなくなった。


ギランバレー症候群で怖いのは自律神経を攻撃されること。
自律神経は血圧や脈拍をコントロールしているため、命にかかわる事も。
日本での死亡率は約1%強と言われている。


東京の男性の脈拍は150以上も打ち、不整脈も起こした。
この時、家族は死を覚悟した。
何とか命はつないだものの今度は喉の筋肉が麻痺し誤嚥が起きた。


何度も誤嚥し肺炎を起こす熱と胸の痛みは1か月間も続いた。
寝返りがうてないので、床ずれを防ぐため3時間ごとに体の向きを
変えてもらわなければならない。


およそ3か月の入院で体重が20kgも落ちたが、
少しずつ回復し、口から食事をとれるようになっていった。
スポイトで1cc、1滴を飲みこむ練習から始めた男性。


そして発症から間もなく3年。
東京の男性は現在、足も上がるようになりかなりの回復を遂げた。
しかし、手の先にまだ麻痺が残っているという。


鶏の刺身でギランバレー症候群を発症した大阪の男性も
半年間入院し、必死のリハビリで仕事に復帰した。


今回番組では市販されている鶏肉にどのくらいカンピロバクターが付着しているか、
専門家に調べてもらった。
今回はどの鶏肉からもカンピロバクターは検出されなかった。


つまり、鶏肉すべてが危ないというわけではない。


しかし内閣府食品安全委員会、そして厚生労働省も、
鶏肉は中心部まで十分加熱するよう呼びかけている。
生肉の危険、知って欲しい。

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