放送内容

2018年2月20日 ON AIR

メキシコ湾 生牡蠣の恐怖

2009年7月 アメリカ・フロリダ州。
1年中温暖なリゾートに、幸せいっぱいのカップルがいた。


挙式前日、家族と親しい友人だけの食事会。
オハイオ州からきた2人は、それぞれ子どものいる再婚同士だった。


新たな人生の門出。しかし、まさかの悲劇が起こった。


メキシコ湾の生牡蠣を食べた家族。新郎だけに異変が


新婦となる彼女は、メキシコ湾の牡蠣が大好物だった。
このあたりは牡蠣の産地。
夏が旬の新鮮な牡蠣は、生で食べられる事が多い。


新郎新婦ともに、この旬な牡蠣に舌鼓。
こうして楽しい食事会は終わり、明日の挙式を待つばかりだった。


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その夜。
新郎の彼には糖尿病の持病があったため、薬を服用して就寝した。


そして翌朝になり、新郎に異変が起きた。
吐き気と腹痛。症状が治まらないため、式の前に病院へ行くことにした。


脱水症状がひどい事から、新郎は結婚式当日に入院することになってしまった。


それにしても同じく盛りつけられた生牡蠣は、新婦を始め多くの人も食べていたが、
新郎以外は平気だった。
しかし、新郎の症状はますます悪化していく。


血液検査でもそれを示すデータが分かったが、その正体まで突き止めるには、
通常2、3日かかる。しかし新郎はそれを待てるほど余裕のない危険な状態だった。
原因が特定されないまま、様子を見ながらいくつかの抗菌薬を試してみるしかなかった。


すると数時間後、更に予期せぬ症状が。
両脚のひざより下に赤い斑点が広がり、激しい炎症が起きていた。


重篤な感染症の症状からICUに移る事になった新郎。
幸せの絶頂だった彼の体を蝕む、恐ろしいものとは何なのか?


原因は新郎が持つ持病だった


炎症の悪化は、見た事が無いほどのペースで進んでいる。
ナースの声掛けにも新郎は反応しない。
それは、細菌が全身に回っていることを意味していた。


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新郎を苦しめていたもの、その正体は「ビブリオ・バルニフィカス」という細菌だった。
人食いバクテリアの一種で主に海水に生息するこの細菌は、
貝や魚、プランクトンの体に付着し、自ら漂いながら増殖する。


それを知らずに食べたり、また傷口から体内に侵入したりすると、
このような重篤な感染症に至る事がある。


ビブリオ・バルニフィカスは、20度~30度ほどの温かい水温で活発に増殖する。
しかも、塩分濃度が低い海水を好む。


つまり、1年中温暖でミシシッピ川の水が多く注ぐメキシコ湾沿岸あたりは、
菌にとって格好の場所だった。


健康な人がこの菌がついた食品を食べても問題はほとんどなく、
発症しても軽度の胃腸炎を起こす程度で済むが、
これが重症化した場合、事態は変わり致死率はなんと約50%になる。


そして次のような人は、重症化しやすい。
まずは肝臓疾患のある人。
肝臓を患うと、免疫力が低下して、体内に入ってきた菌を除去できにくくなる。


そして貧血などで、鉄剤を常用している人。
この菌は、特に鉄分を好むため、鉄剤を服用中の患者の体内では、
より活発に増殖し、重症化しやすい。


一方で、彼の場合は別の理由があった。
血中の糖が増えている糖尿病患者は、細菌やウイルスを撃退する白血球の働きが
悪くなるため、菌が一気に増殖してしまうのだ。


祝いの席で全員が同じメキシコ湾の生牡蠣を食べ、新郎だけが発症したのはこの糖尿病が原因だった。


手術で一命を取り留めた彼を再び感染症が襲う


ビブリオ・バルニフィカスの恐ろしさは、その増殖スピード。
重症化した場合、早いと数時間で死亡に至ることもある。


新郎の脚の組織は、完全に壊死していた。
組織を死滅させる菌がここから全身に広がってしまえば、生命まで脅かされる。


発症から5日目。
壊死した両脚を切断しないとこのままでは命の危険もある。
医師からの宣告に家族も同意した。


手術は無事終了。
彼本人に脚のことが告げられたのは、一週間後だった。


どんな状態になっても夫と共に生きていく事を決心した新婦のサポートを受け
新郎のリハビリが始まった。
療養は数か月必要とされ、病院スタッフの計らいで1か月遅れの結婚式が行われた。


やがて新婚生活が始まったが、しばらくすると再び夫に異変が。
夫はビブリオ・バルニフィカスによる感染症からは回復したが、
免疫力が下がっていたため、再び感染症に襲われたのだ。


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肝臓と腎臓はたちまち機能を失い、再び病院に運ばれてからわずか3週間で
彼はこの世を去った。


アメリカでは年間約200人程が、海産物などからビブリオ・バルニフィカスに感染し、
そのうち約30人程が死亡というデータがある。


食品医薬品局FDAは、メキシコ湾産の牡蠣の汚染率が特に高いと警告している。
実は日本でも近年、この感染と死亡事例が報告されている。


刺身や寿司など、魚介類全般でこれに感染した症例が確認され、
特に、海水温度の高い夏に発生することが多い。
しかも、詳しくは解明されていないが、その8割が男性だという。
肝臓疾患、糖尿病など、重篤化しやすい疾患を持っている人は、
夏場に水温が高い地域の生の魚介類を食べることは控えた方がよい。


加熱する場合は、中心温度が70度で1分以上、
100度では数秒で死滅すると言われている。


さらに注意を怠りがちなのが、傷口からの感染。
重篤化しやすい疾患を持っている人は、擦り傷や切り傷があるときには、
夏場、海に入らないようにした方がいい。


しかも近年、温暖化の影響で海水温度もあがり、
ビブリオ・バルニフィカス感染症は増えているという。


厚生労働省によるとメキシコ湾の生牡蠣は日本には入ってきていない。
重篤化する持病がある人は海外では気をつけてもらいたい。

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