夏目漱石「留学時代に下宿した家」 2001/7/18放送

   


ロンドン、ザ チェイス81番地。
ここは、夏目漱石がまだ英語の教師だった頃、
イギリス留学中に住んだ家です。



初老の夫人が営む3食付きの下宿でした。
部屋代が高いとか、住み心地が良くないとか、
様々な理由で下宿先を転々と変えていた漱石が、
二年の留学期間中、5番目に住みようやく腰を落ち着けたところです。


  階段をいくつも上がった、3階の一室が、彼の部屋。
1901年7月20日の日記には、
引っ越してきたときの様子がこんなふうに書かれています。


午前、Miss Leale方ニ引越ス 大騒動ナリ 四時頃書籍大革鞄来ル
箱大ニシテ門ニ入ラズ 門前ニテ書籍ヲ出ス
夫ヲ三階ヘ上ル 非常ナ手数ナリ
暑気甚難シ 発汗一斗許リ 室内乱雑ヲ容ルゝ能ハズ


       
       


    「とにかく本を運び込むのに手間がかかった。
おまけにべらぼうな暑さで汗がびっしょり。
参った、参った…」
そんな彼の声が聞こえてきそうです。


   


日本における最初の国費留学生として、
英文学研究のためにロンドンへやってきた漱石
彼は、周囲の期待を裏切ってはいけないと猛勉強していました。
部屋の中でも庭でも、本ばかり読んでいる毎日。


   


下宿先の夫人が感心して、
「日本に帰ったらさぞ偉い人になるのでしょうね」と言うと、
彼はこう答えたそうです。
「私は、偉くなる為に本を読んでいるわけではありません。」


夏目漱石「留学時代に下宿した家」 2001/7/18放送
ディレクター日記


■来週の「心に残る家」は、グリム兄弟「少年時代を過ごした家」をお送りします。

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