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317年のむかし、
五月雨が二人の旅人の足を止めていました。
俳人・松尾芭蕉と曾良が
「奥の細道」に旅立って47日目のこと。
二人は、山里のこの家に一夜の宿を求めていました。
仮寝の宿で芭蕉は、想っていました。
「住み慣れた江戸を捨て、自分はなんと遠くまで来たものか」
泥のように深い旅の疲れが、
芭蕉の心を挫いていたのかもしれません。
全てが止まったような静寂。
しかしそこには馬の息遣いや
小さな虫たちの命の手ごたえがありました。
「蚤虱(のみしらみ)馬の尿(ばり)する枕元」
虫や獣は一心不乱に生きている。
人間も数多の命の一つに過ぎないのであれば
迷うことなく自然の中に身を委ねてみよう。
朝日が昇る頃、芭蕉は再び歩み始めました。
更なる「自然の心」と出逢うために。
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