■ 伏見の散策 5月31日放送

伏見は京都と奈良を結ぶ街道上に位置し、早くから開けた所。かつて城下町として栄えた伏見桃山を訪ねます。
伏見稲荷大社の南にある石峰寺(せきほうじ)は、1713年に建立された禅道場。画家・伊藤若冲(じゃくちゅう)が草庵を結び、七代密山和尚の協賛を得て、十年余をかけて裏山に作った五百羅漢で知られています。釈迦の誕生から涅槃までを表わす様は見事で、新緑・紅葉の季節にはとくに映えます。
また、伏見稲荷大社の北側にある大橋家の苔涼庭(たいりょうてい)は、大橋家四代前の大橋仁兵衛が明治末期から大正初期にかけて造った別荘の庭。遠縁で親しかった小川治兵衛の監修を得て、趣味で集めた庭石・石灯籠をすえ、当時の住宅庭園のありようを示す一例として、京都市の登録文化財となっています。




伏見稲荷大社の南に建つ石峰寺(せきほうじ)。
江戸時代に禅道場として開かれ、本堂では、お釈迦様が静かに微笑んでおられます。



ここに庵(いおり)を結んだ画家・伊藤若冲(じゃくちゅう)は、禅の心に魅せられ、仏の世界のご利益を現世にと、裏山に五百羅漢を造りました。



お釈迦様の誕生から涅槃(ねはん)に至るまでを物語るたくさんの石仏。
風の音だけが聞こえる静けさの中、人間味あふれる表情に心が和みます。


石峰寺のほど近く、閑静な住宅地にある苔涼庭(たいりょうてい)。
伏見の商人・大橋仁兵衛(にへえ)が、別荘の庭として明治から大正にかけて造園したものです。


苔むした庭石や石灯籠(いしどうろう)が見事にとけ込み、京都市の名勝に指定されています。



落ち着いた風情にあふれ、都会の喧騒を忘れるひととき。
心穏やかに庭を眺める喜びは、今も昔も変わりありません。



水琴窟(すいきんくつ)の澄んだ音色が、疲れを癒す伏見の旅です。



JR稲荷駅で下車すると、すぐ目に飛び込んでくるのが伏見稲荷大社の鳥居です。
石峰寺は、伏見稲荷大社の南にあります。民家のあいだの路地をのぼると石段があり、その奥に赤い竜宮造りの門が見えます。まっすぐのびた参道の先には本堂。その裏にもうひとつの門があり、そこを抜けると裏山に出ます。
お目当ての石仏は、裏山の小径の合間に立っています。長年の風雨を得て、苔寂びて丸みを帯びた石仏の趣が、味わい深いものとなっています。
 石峰寺から苔涼庭までは、歩いて10分ぐらいです。伏見稲荷大社を抜けて行くのが一番の近道であり、最もわかりやすいルートだと思います。
大橋仁兵衛は、鮮魚の元売を業としていたことから、家業を通じて親交の深かった網元の『大漁』を祈願して、この名を付けたと伝えられています。
 苔涼庭を監修した小川治兵衛は、「平安神宮の神苑」や「無鄰庵(山県有明の別荘)庭園」など名園を残し、名庭師として全国に名を馳せた人。小川治兵衛が手掛けた数多くの庭園でも、水琴窟があるのはここだけのようで、京都で公開されている最も古い水琴窟だそうです。ふたつの水琴窟は、少し音色が異なりますので、聞き比べてみてください。


「 そっと君を 」
作曲者:加古 隆
演奏者:加古 隆