■ 常照寺 (じょうしょうじ) 6月28日放送

常照寺は、洛北の山裳に建つ日蓮宗のお寺です。
1616年本阿弥光悦が土地を寄進、寂照院日乾上人を招いて開創された鷹峰檀林(学寮)を開いたのが起源とされ、かつては広大な境内に大小三十余りの堂宇が甍を並べていました。明治初期の教育制度改革により廃止されましたが、その後檀家寺となり、現在に至ります。
江戸時代、天下の名妓と謳われた二代目・吉野太夫寄進の山門が名高く、毎年4月の桜の季節には、吉野太夫を偲んで「花供養」が行われます。




鷹ヶ峰(たかがみね)の新緑に包まれる常照寺。
吉野門と呼ばれる朱塗りの門は、江戸時代に名を馳せた遊女、吉野太夫が二十三歳のとき寄進したものです。



吉野はこの寺の開山(かいさん)・日乾上人(にちけんしょうにん)を慕い、人として生きる道を佛法に求めて、ここに足を運びました。



寺に伝わるこの障子は、吉野を身請けした商人・灰屋紹益(はいやじょうえき)とともに暮らした住まいのものです。


四隅に施された鉄線の花を元に考案された鉄仙唐草(てっせんからくさ)。
その気品ある色合いが、凛とした吉野太夫を思わせます。



境内の一角に佇む、侘びた風情の「遺芳庵(いほうあん)」。 茶の湯をはじめ、諸芸百般に秀でた吉野を偲んで、のちに建てられた茶席です。
天下随一と謳われながら、下の一部を欠いた円窓(まるまど)に、未熟な自分の姿を重ねたという吉野太夫。



三十八歳で短い生涯を閉じた彼女が眠る山間の寺に、今年もまた紫陽花が花を咲かせます。

常照寺の紫陽花は、まもなく満開を迎えます。



下見のため、初めて吉野門前の参道に降り立った途端、その見事な新緑に心がときめいたのを覚えています。春は桜、秋は紅葉で知られる常照寺ですが、新緑の季節もぜひ訪れてみて下さい。とくに北山杉と紫陽花の組み合わせは、市中のお寺では見られない光景だけにオススメです。7月初旬が見ごろだそうです。
 今回の撮影で最も苦労したのは、灰屋紹益と吉野太夫が暮らした家の茶室の障子です。1年がかりで修復されたものですが、脆弱で障子紙を貼ることができないのだとか。背景がすべて映ってしまうので、どうやって撮ろうかスタッフと随分悩みました。腰板の図柄は、胡粉で描き漆で固めた珍しいものです。通常は非公開ですが、秋の特別拝観で公開されますので、お楽しみに・・・
番組で紹介した茶席「遺芳庵」の吉野窓も印象に残ったものです。奥田住職によれば、下の一部が欠けた円窓を考案したのが吉野太夫だったそうです。容姿端麗、利発で情も厚い上に諸芸に秀で、その名声が遠く中国まで伝わっていたという吉野太夫。にもかかわらず、自分を未熟だと思い、不完全な形の円に自分の姿を重ねたといいます。驕ることなく上を目指し続けた太夫の姿勢に、学ぶことが多い今回の取材でした。


「 TANSEN'S WALTZ 」
作曲者:WILLIAM EATON
演奏者:WILLIAM EATON ENSEMBLE