放送内容

第1618回
2022.03.27
浮世絵 の科学 物・その他

 江戸時代に花開き、今や世界から愛されている日本独自の風俗画「浮世絵」。花魁や茶屋娘を描いた「美人画」、歌舞伎役者の「役者絵」、名所を描いた「風景画」など、そのテーマは様々。手書きの「肉筆画」もありましたが、浮世絵のほとんどは、木の板に絵柄を彫った木版を使って摺られる、「版画」でした。大量生産され、一枚がそば一杯ほどの値段とお手頃だったので、庶民の一大娯楽となり、その後ヨーロッパに渡り、モネやゴッホなど世界的画家にも大きな影響を与えました。
 日本を代表する芸術のひとつである浮世絵ですが詳しく知らないという人も多いのでは?そこで今回は、浮世絵の魅力を徹底調査!浮世絵は絵師だけでは完成しない!?受け継がれる江戸の職人技!その超絶技巧とは?天才、葛飾北斎の代表作を復刻してみると、浮世絵を摺る工程に秘められた驚きの技術が浮かびあがった!
 今回の目がテンは、世界に誇る日本のアート「浮世絵」の科学です。

昔は芸術じゃなかった!?浮世絵とは?

 裕太さんが訪れたのは、3000点もの浮世絵を所蔵する千葉市美術館。副館長で浮世絵研究者の田辺さんが、浮世絵を基本から教えてくれます。
 まずは、最も知られた一枚、「葛飾北斎の冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」。今でこそ、有名絵師の作品で保存状態がいいと数千万円しますが、江戸時代には、庶民が買い求めていたそう。値段は、現在の価値で数百円ほど。雑誌を買うような気軽さで庶民は浮世絵を楽しんでいたのです。
 浮世絵に描かれたのは、当時の庶民たちが求めたもの。例えば「二代目市川団十郎の虎退治」は歌舞伎の役者を描いた役者絵。

 今で言うと、推しの俳優の写真を集めるような感覚で、江戸の庶民たちは「役者絵」を買い集めていたようです。さらに、豪華な着物と派手な髪飾りが印象的な「雲龍打掛の花魁」は美人画。役者絵とともに非常に人気の主題ジャンルでした。

 江戸のアイドル的存在・吉原の花魁は、ゴッホが代表作の一つで、背景に描いたことでも有名になりました。また、美人画には、最新のファッションが描かれ、当時の「ファッション誌」的役割もありました。浮世絵は、庶民の娯楽で情報源。江戸時代の重要なメディアだったんです。
 そして、大量生産できて、お手頃な値段だった浮世絵は、チームで作っていたといいます。実は、浮世絵づくりの工程は、「版元」「絵師」「彫師」「摺師」の分業制。まず、プロデュースや販売をするのが版元。どんな浮世絵を作るかを企画し、絵師に依頼。それに従い、絵師は、原画となる「版下絵」を描きます。「版下絵」をもとに、「彫師」が版木を彫ります。最後に「摺師」がその版木を使って、和紙に摺るとようやく完成。
 江戸庶民の情報源だった浮世絵は、絵師の才能や職人の技など、多くの人の力の結晶だったんです。

細かすぎる彫師の職人技!

 やってきたのは、江戸時代から浮世絵の制作を手掛ける木版画の老舗工房。迎えてくれたのは、工房の六代目、高橋由貴子さん。浮世絵木版画の魅力を伝えるため、外務省とも協力し海外での講演も行っています。
 彫師歴11年の永井さんは、明治時代の画を彫り直す、復刻という作業中。

 なんと、1ミリにも満たない黒い線を残して、他の部分を削っていくというんです!黒い線を残すように「小刀」と呼ばれる道具で切れ目を入れ、慎重に削り取っていきます。絶対に失敗できない、集中力が要求される作業。彫る面積に合わせて道具を使い分け、広い部分は「丸のみ」を使って大胆に。一人前の彫師になるためには、最低7、8年の修行が必要なんだそうです。ちなみに、絵師が描いた原画「版下絵」は板に貼って、その紙ごと彫っていきます。だから絵師の原画は残らないんです。

 そして、彫師が彫るのはこの1枚だけではありません。彫師は、次に色版というものを作っていきます。たとえば、様々な色がある浮世絵は、摺るのに1枚の「主版」と何枚かの「色版」が必要。

 「主版」とは、浮世絵の輪郭線を残して彫ったもの。そして「色版」は、色付けする部分だけを残して彫ったもの。こうして色ごとに版木を分けることで、1枚の浮世絵をカラフルなものにできるんです。
 どの作業も集中力が必要な彫師。でもその中でも、極限の集中力を求められる超難関の作業が、「毛割」。「五人美人愛敬競 芝住の江」という美人画を見てみると、生え際には、細かい線がびっしり。生え際の細い髪を彫刻で彫り出す、まさに神技!この「毛割」、かつては師匠格の彫師が行った超絶技巧なんです。

 線の細さを測ってみると、なんと1ミリの間に3本もの毛が彫られていました。
 浮世絵の緻密さは、彫師たち職人の超絶技巧が支えていたんです!

きめ細かな摺師の職人技!

 浮世絵制作、続いては摺りの工程。摺るにも色々な職人技が。摺師の早田さんに作業を見せてもらいました。
 今回摺って頂くのは、葛飾北斎の傑作『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』の復刻版。細かく入り組んだ波の色や空の色など、様々な色はどのように摺っていくのでしょうか?
 使うのは版画用の手すき和紙。顔料、いわゆる絵の具がしみこみやすいよう、前日から湿らせておきます。摺っている間、紙の水分量を保つのも摺師の技の一つ。
 いよいよ摺りの作業。取り出したのは、最初の輪郭線に値する主版。まずは、ブラシに水を垂らし、版木に水をなじませます。続いて、必要以上に板に染み込まないように、顔料にのりを加え粘り気を出します。絵の具がなじんだら紙を置いて、バレンという道具でこすっていきます。すると、輪郭線が鮮やかに浮かび上がりました。

 続いては、色版で色を重ねていきます。実は、版木には見当といわれる2箇所の出っ張りが。この見当に合わせて紙を置くことで色がずれないようにするんです。「見当を付ける」「見当違い」など私たちが良く使う言葉の語源だそうです。こうして、船や空の色が重ねられました。
 と、ここで疑問が。浮世絵を見てみると、富士山の背景が黒のグラデーションになっています。これは、「ぼかし」という技術。

 摺る際に摺師が生み出しているもの。まず、色を薄くしたい部分を水で濡らします。次に、濃くしたい部分に絵の具を付け、ブラシで丁寧になじませます。版木の上で絵具と水分を調整し、板の上で絶妙なグラデーションを作り出すんです。摺ってみると、グラデーションで濃淡が描かれています。
 そして、最後に波の色を重ね、結局、6回摺って、1枚の浮世絵が完成しました。色のズレやムラもなく、波しぶきが荒々しく盛り上がる一瞬が浮かび上がりました。
 浮世絵のカラフルで繊細な色彩は、きめ細かい摺師の技が生み出していたんです。