放送内容

第1672回
2023.04.23
左官 の科学 場所・建物 物・その他

 古より伝わる建築技術「左官」。コテを使い、壁や床などを手作業で塗り上げる仕事。そんな左官が作り上げる土壁は、その地域の土を壁に使うなど地産地消のような考え方があり、さらには、解体した壁の土をリサイクルできることから、環境にも優しい建築法として見直されています。また、最近では「左官アート」と呼ばれるものも。ただ単に壁を塗るだけではない、新たな可能性が模索されているんです。
 今回の目がテン!は、世界に誇る日本の技術「左官」を科学します!

左官の最高技術が詰め込まれた重要文化財

 日本の伝統的な構法では、「小舞」と呼ばれる竹を組んだ下地に、「荒壁」「中塗り」というワラを混ぜこんだ土を塗り重ねます。そして、表面の上塗りの部分に、土や、主に石灰を原料とする漆喰など様々な材料を使って美しく仕上げていきます。

 そんな左官の技術が、ふんだんに詰め込まれた場所があるといいます。それが、埼玉県比企郡にある「遠山記念館」。1936年に建てられた邸宅で、国の重要文化財に指定されています。案内していただくのは、早稲田大学で、土や左官の構法などを研究している山田宮土理先生。
 まずは、「本霞」と呼ばれるエンジ色の壁。

 近くで見ると、キラキラと輝いているのがわかります。この壁は、ガーネット、つまり「ざくろ石」という鉱物を砕いて壁に塗ったという、なんとも贅沢なもの。鉱物の色合いによって、深みのあるエンジ色を作り出しているのです。80年以上も前に作られたにも関わらず、ヒビや割れがほとんどないことが、職人の技術の高さを物語っています。
 さらに、年月を重ねることで変化する壁もあるそう。現れたのは、黒と白の濃淡模様の壁。この壁に使われているのは、酸化すると錆色が出る「天王寺」という名前の土。時間が経つと変色することを知っていた当時の職人が、大阪の天王寺で採れる土を、この壁に使ったことから「墨差天王寺」という名前が付けられたと言われています。

 白い部分には「貫」と呼ばれる下地の板材が入っていて、ほかの箇所よりも土の厚みが薄いため、変色の度合いが少なかったのです。

 続いては「大津磨き」と呼ばれる技術を使った壁。本来光るはずのない土を左官職人がコテを何度も当てて表面を滑らかにし丁寧に磨き上げることで光沢をつける、最上級の技術です。

 また、左官の仕事は壁を塗るだけではありません。曲線が美しい装飾も、左官職人の仕事。型枠などがあるわけではなく、全て職人の手作業で作り上げたものなんです。

 スタジオでは、左官仕上げの壁のメリットを紹介しました。
 まず「火災に強い」。土や漆喰はそもそも燃えにくい材料。火災に強いことから、昔の日本では、大事なものを守るため、「土蔵」が使われてきたんです。また、地震などの際には、エネルギーを吸収し、壁が壊れることで、建物の倒壊を防ぐような役割もあるということです。
 次に「環境にやさしい」。土壁など、建物を解体したときに材料を自然に返せたり、再利用できたりするものもあるんです。
 そして、「室内環境を改善できる」。土壁や漆喰には湿度を調整する効果があり、結露の防止も期待できるんです。

左官の職人技に迫る!

 金丸さんがやってきたのは、東京・文京区にある老舗左官会社。出迎えてくれたのは、職人歴50年の大ベテラン・中島さん。そんな中島さんと今日行うのが、左官の基本のキ!壁塗りに挑戦します。 今回塗るのは、土と砂と藁を入れたもの。まずは、中島さんのお手本を見ます。見せてもらったのは、上塗り前の「中塗り」という段階。今回は厚さ6、7ミリに塗っていきます。壁に材料を大まかに塗ったら、コテを均一に動かして、ムラをなくしていきます。5分とかからず、美しい土の壁が出来上がりました。

 中塗りの後に行う上塗りは、なんと厚さ2ミリ程度。とても繊細な作業なので、中塗りが綺麗にできていないと、上塗りにも影響が出てきてしまうんです。

 では、金丸さんも挑戦してみます。
 ここで、壁塗りのコツその1「コテ返し」。コテをヒョイッと返して、材料をすくいます。金丸さん、なんとかコテ返しはできたので、壁に塗っていきます。見よう見まねで塗ってみますが、なかなかうまくいきません。
 壁塗りのコツその2「コテ全体を使う」。コテの先端ではなく、コテ全体を壁に当てるようにすると均等に材料が塗りやすくなります。それでもまだまだ、コテ使いに慣れません。材料が伸びず、ムラだらけ。これ実は、コテを立てすぎなんです。中島さんは、コテを進行方向に少しだけ立てて塗ることで厚さを調整し、滑らかにしていたんです。
 ということで、壁塗りのコツその3。「コテを進行方向に少しだけ立てる」。
 しかし、理屈は分かっても、そう簡単にはいきません。壁塗りの基本が身に付くようになるまでは2、3年はかかるそうです。20分以上かけてやっと一面塗れましたが、中島さんのものと比べると、表面の滑らかさはもちろんのこと、フチの美しさも全く違います。

 美しい壁は、左官職人の繊細な技術があってこそできるものなんです。

左官技術でツヤピカかまど作り

 どうみてもただの土が、左官技術を応用すればピカピカの泥団子になるというんです。

 その方法は、まず、土と砂、ワラを混ぜたものをしっかりと手で握って、基本となる芯を作ります。これが、土壁でいう「荒壁」の部分。次に、「中塗り」の部分。石灰を主成分とするクリームを塗ります。そして、液体などを注ぐための「ろうと」を使って表面を滑らかにします。丸い形が泥団子を整えるのにちょうどいいんです。最後に「上塗り」の部分。石灰クリームに色をつけた土を混ぜ、塗っては磨き、塗っては磨きを繰り返すと、少しずつ、輝きが出てきました。そして、仕上げに軟らかい布で磨いていくと、ピカピカの泥団子が出来上がるのです!

 なぜ、こんなにピカピカになるのかというと、表面が滑らかになると光が乱反射せず、一定の方向に反射するため輝きがでてくるんです。この技術、遠山記念館の壁でも使われていた「大津磨き」の左官技術を応用したもの。
 そしてこの「磨き」の技術はほかのものにも使われているというんです。それが、「漆喰のかまど」。実は、料理をするための「かまど」も、現在では土のプロである左官職人が作ることが多いそう。
 今回は中島さんに、磨きの技術を活かしたピカピカのかまど作りの技を見せて頂きます。まず行うのは「中塗り」。荒壁の代わりとなるかまどのベースに、漆喰に専用の墨を混ぜたものを塗っていきます。作業の工程は土壁や泥団子と同じように、「中塗り」と「上塗り」を行います。

 その度に、表面が滑らかになるまでひたすらコテで磨いていくのです。
 磨くコツは「力を入れて押さえ込むように」すること。「押さえ込む」とは、コテを何度も当てて密度を高めるようなイメージ。何度も行うことで表面が滑らかになり、光沢がでてくるんです。ちなみに、表面を滑らかにすると水ぬれにも強くなるので、お米を炊くかまどにはもってこいなんです。
 ある程度コテで押さえ込んだら、あとは、やわらかい布や手を使い、磨くだけ。3時間かけて、左官技術を使った光沢のあるかまどが完成。

 細かい部分も流れるように仕上げていく職人技に、所さんも感心しきりでした。