第4章: The Message of Beauty 美の探求

夢想

《夢想》 1897年 カラーリトグラフ 72.7 x 55.2 cm (C)Mucha Trust 2013

膝に乗せた大きな画帳を開いた美女が正面を見つめている。どこかうつろな、文字通り「夢想」と呼ぶにふさわしい眼差しであるが、彼女の衣裳の縫い取りの装飾はフランス的というより明らかにオリエンタルであり、ミュシャの祖国モラヴィア、ボヘミアのそれを思わせる。キリスト教美術でキリストや聖人の頭部を囲む円光(光輪)の拡大版ともいうべき大きな円が彼女を囲んでいるが、これはミュシャが好んだモチーフで、他の作品にも再三登場している。彼女の頭部や全身を囲む、今を盛りと咲き誇る花は、画面の華やぎをいやが上にも高めているが、円の内部から外部に向かう抽象的かつ装飾的な曲線も注目に値する。美人画と花鳥画を合わせたような典型的な「ミュシャ様式」の作品といえよう。