第5章: Paris 1900 パリ万博と世紀末

百合の聖母

《百合の聖母》 1905年 テンペラ、油彩・カンヴァス 247 x 182 cm (C)Mucha Trust 2013

ミュシャは華やかなアール・ヌーヴォーの画家としてのイメージがあまりに強いため、とかく忘れがちであるが、宗教画家としての顔もある。《百合の聖母》はその代表的な作品のひとつ。1902年、ミュシャはエルサレムの聖母教会を装飾する仕事を依頼された。この仕事自体は後にキャンセルされたが、ミュシャはその前にこの聖母像を完成していた。初々しい聖母は純潔のシンボルの百合の花に囲まれて、今しも天から降りてきたかのようである。左下には頭を花輪で飾られ、チェコの民族衣裳を着た少女が画面の外に視線を向けている。風になびき、彼女を包むかのように伸びる聖母の長い衣は少女を守り、いつくしむかのようである。少女が手にしているキヅタは常緑樹であることから伝統的に希望あるいは永遠の生命のシンボルとされる。