#1102 『滝の拝の水音とボウズハゼ』(25/10/5 放送)

和歌山県 古座川町

「滝の拝(たきのはい)」は和歌山県古座川町小川の渓谷で、第三紀中新世(1,500万年前前後)の熊野層群(下里累層)の岩床に無数の甌穴(ポットホール)が約200mにわたり発達し、中央には落差約8mの滝がかかる県指定の名勝で、その名称は江戸後期『紀伊続風土記』に「波伊(はい)の滝」とみえ、奇勝を神として崇拝した自然信仰「タキオガミ」に由来するとされます。ここでは夏から初秋にかけてボウズハゼが腹びれと口の吸盤で数メートルの滝をよじ登る姿が見られ、ピークは8月中旬、観察は9月末まで続きます。同種は全国普遍種ではなく北限は福島(または栃木)以南の太平洋側?琉球列島とされる温暖域の両側回遊魚(川と海を往復する)であり、滝の拝のように高低差のある滝登りを間近に観察できる場所は稀少です。

#1102

■ DIRECTOR'S COMMENT

滝の拝に足を踏み入れた瞬間、そこに広がる無数の丸い穴と轟音を立てて流れ落ちる滝がつくり出す光景に圧倒されました。河床を歩きながらあちこちを観察すると、石を削りながら流れ落ちる小さな滝を見つけ、その異世界のような佇まいに思わず息をのみました。さらに、気の遠くなるような年月が刻んだ痕跡(大きなポットホールの跡)を目にしたときには、悠久の歴史を肌で感じて深い感慨に包まれました。そして探していたボウズハゼはあまりに小さく、はじめは本当にここにいるのかと疑うほどでしたが、岩肌に吸い付きながら激流からパッと現れてよじ登る姿を見つけた瞬間、その驚きと感動は大きなものでした。小さな命が轟音に負けず挑む姿に圧倒され、自然の造形の不思議と生きものの力強さが交差する滝の拝の特別さを、強く実感しました。(村上宗義)

■ ACCESS

「JR古座駅」から「滝の拝」まで車で約30分

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