STORY

#1

「失恋にはペンギンが何羽必要ですか」

2026.01.10

総合出版社『月の葉書房』で編集者として働く柴田一葉(上白石萌歌)、25歳。子どもの頃からファッションが大好きで、ファッション誌の編集者になることを夢見て就職したものの、入社式当日にファッション誌がまさかの休刊…。全く興味のない生活情報誌『リクラ』に配属され、はや3年。やりがいを見いだせないまま、目の前の仕事を淡々とこなす日々。そんなある日、『リクラ』に新しい編集長・藤崎美玲(小雪)がやって来て、「『リクラ』はあと半年で終わります」――。“やり手”とウワサの藤崎は、販売部数の伸びない『リクラ』を救うどころか切り捨てるつもりらしい。ますますやる気をなくす一葉は、付き合って5年になる彼氏・牧野真樹(三浦獠太)からも別れを切り出されそうで…。

何もかも思い通りにいかない人生どん底の一葉に、起死回生のチャンスが舞い込んでくる。幼い頃から神と仰ぐ憧れのカリスマモデル・灰沢アリア(シシド・カフカ)の恋愛相談コラムの企画を任されたのだ。若くして人気を博したアリアは俳優やミュージシャンとのウワサが絶えずゴシップクイーンと呼ばれたが、3年前に突然、表舞台から姿を消していた。そのアリアが恋愛コラムで復活したら、話題になって部数もきっと伸びるはず。「お会いできて本当に光栄です!」。子どもの頃から尊敬していたアリアと対面し、一葉は感激するが…。なんとアリアは、口の悪い女王様気質の超わがままモデルだった!「名前を貸してやるから、あんたが書け」とアリアに命じられ、ゴーストライターとして恋愛相談コラムを書く羽目になってしまった一葉!人生で付き合ったのは真樹だけで、人に自慢できる恋愛なんてしたこともないのに…。戸惑う一葉のもとに、さっそく女性読者から「なぜフラれるのか分からない」という相談が届き…。

どう答えていいか分からない一葉は、北陵大学で恋愛の研究をしている“恋愛スペシャリスト”がいるというウワサを聞き、助けを求めてその男、北陵大学・生物学部准教授の椎堂司(生田斗真)を訪ねるが…。一見クールなイケメンの司は、人間の恋愛にはまるで興味を示さないのに、動物の話になると途端にテンションが上がってペラペラしゃべり出す。

そう、司の研究対象は人間ではなく、動物。とりわけ動物の求愛行動が専門だったのだ!「動物たちの求愛行動はシンプルで分かりやすい。それに比べて人間の求愛行動には野生が足りない」と豪語する司。その一風変わった恋愛指南が、一葉のコラムのヒントに!?さらに一葉の人生にも大きな影響を与え…。仕事も恋もどん底の一葉は、幸せをつかむことが出来るのか…!?

以下、ネタバレを含みます。

憧れのカリスマモデル・灰沢アリアのゴーストライターとして恋愛相談コラムを書く羽目になった一葉は、“恋愛スペシャリスト”とウワサの北陵大学准教授・椎堂司に救いを求めるものの、司は人間の恋愛にはまるで興味を示さない、動物の求愛行動が専門のとんだ変わり者だった。

がっかりして部屋に帰った一葉に、さらなる悲劇が襲う。「……別れよう、俺たち」。付き合って5年になる同棲中の彼氏・真樹から別れを切り出されてしまったのだ。しかも、「君は何も悪くない。俺が君のことを好きでい続けられなくなっただけだ」と、読者の悩み相談と全く同じことを言われてしまって――。突然の別れ話に狼狽する一葉は「なんか理由があるんでしょ?教えて。そうじゃないと納得できない」。真樹はため息をつきながら、「俺、無理なんだよ。爬虫類とか」。今まで言えなかったが、一葉が飼っているレオパードゲッコーのハリーのことがずっと苦手だったという真樹。寝耳に水の一葉に、真樹は続けて、「トカゲを嫌がってるのと同じように、俺が疲れてたり、落ち込んだりしてても、全然気付かなかっただろ」。いつも自分の話ばかりで、俺の話なんてちっとも聞いてくれなかったと一葉を責める真樹は、そのまま部屋を出て行ってしまう…。

ショックの一葉は、居酒屋で先輩編集者・紺野幸子(宮澤エマ)とカメラマン・橘環希(仁村紗和)に愚痴を吐く。「私にだって言い分があるんです。付き合った頃、あいつが言ったの。『明るい一葉と一緒にいると元気になる。そこが好きだ』って。だから私、どんなに仕事がつらくても、気持ちが落ち込んでいても、無理して明るくいようとしてた。それなのに……」。今にも泣き出しそうな一葉のスマホに、アリアから着信が…。

アリアに呼び出された一葉は、原稿を催促してくるアリアに、酔った勢いで「すみません、あの企画、もうやめます」。彼氏にフラれたばかりの自分に恋愛コラムなんて書けるわけがないし、そもそもファッション誌の編集者になりたかったわけだし、でも『リクラ』に配属されて、興味のない記事を書かされ続けて、正直、やる気なんてこれっぽちもないし――。黙って聞いていたアリアは我慢の限界に達し、「言い訳ばっかり、いちいちうるせえよ。何もしてないくせに今いる場所のせいにして頑張れないやつは、どこに行ったって頑張れねえよ。輝ける場所を探すんじゃない。自分で輝くんだ」。一喝されてシュンとしてしまう一葉は「……私なんかが、輝けるわけないです」。するとアリアは「じゃあ、あたしが大切にしている魔法の言葉教えてやる。これを聞いたら、あんたにも面白いコラムが書けるはずだ。いいか、しっかり聞けよ」。その言葉は――『みんなが共感できるのに、これまで誰もやってこなかったことをする』――。それは、一葉が小学生の頃、雑誌で見て心がときめいたアリアのコメントだった…。15年ぶりにその言葉を噛み締める一葉の脳裏に、司の言葉が浮かぶ――『人間の求愛行動には野生が足りない』。一葉の中で、何かがひらめく!

一葉は司の研究室を訪ね、開口一番「私と一緒に、恋愛コラムを書いてくれませんか?」。人間の恋愛に興味のない司は案の定「断る」と突っぱねてくるが、一葉は「私が思いついたのは動物の求愛行動をネタにしたコラムです。コラムは私が書きます。先生はコラムのネタになりそうな動物の知識を教えてください」。そんな、見たことも聞いたこともないコラムに需要なんてあるのか?首をかしげる司に、「だからです。みんなが共感できるのに、これまで誰もやってこなかったことをしたいんです」と力説する一葉。そのセリフに、司は“何か”を思い出し…。迷いながらも「分かった。求愛行動について話すだけだ。人間の恋愛相談には関わらない。それでいいな」。一葉は「ありがとうございます!」と喜びを爆発させ、さっそく今回の相談内容を司に伝える。『今まで何度も“君は悪くない”と言われてフラれてきました。なぜフラれるのか、本当の理由を知りたい』。司は「実に人間らしい。くだらん」と相談内容を笑い飛ばしつつも、「動物たちの求愛行動はシンプルだ。気持ちを表現する手段も、パートナーを選ぶ基準も決まっている」。そう言うと、一葉を相手に、ペンギンの求愛行動についての講義を始める――「では、野生の恋について話をしようか」。

ペンギンは大きく18種類に分類されるが、それぞれの種でメスがオスを選ぶための基準が異なる。チリに生息するフンボルトペンギンのメスは、オスが獲得した縄張りに惹かれてオスを選ぶ。一方。オーストラリアとニュージーランドの沿岸に生息するリトルペンギンのメスは、鳴き声が低いオス=体が大きく強いオスを選ぶ。さらにアデリーペンギンは、彼らにとって大切な石をオスがメスにプレゼントし、メスが受け取ればカップル成立となる。どの種類のペンギンも、相手を選ぶ基準はたった1つなのだ。それに比べ、人間はさまざまな価値観を持ち、パートナーを選ぶ時も基準がありすぎて、大切なことが見えなくなってしまっている…。
司の講義を聞きながら、「私が大切にしていた基準と、真樹が大切にしていた基準が違っていたってこと?」と気付く一葉。司は「人間にも相手を選ぶたった1つの基準があれば、無駄な労力を払わずに済むのに。本当に非効率的な生き物だよ」。それは一葉が今まで考えたこともなかった“恋愛の視点”。しかし――「私は、その考え方に納得できません。人間の求愛行動には、いえ、人間の恋には、人間の恋にしかない意味があるんだと思います」。それが一体何なのかは、一葉にも分からないが…。司は「答えが出たら教えてくれ。私もそれをずっと知りたいと思っている」――。

自宅に戻った一葉は、部屋で一人、レオパのぬいぐるみを抱きながら、真樹との日々を思い出す。初めて出会った時のこと…お互い就職が決まって遠距離恋愛になってしまったこと…LINEの返事が遅い真樹に怒ったこと…東京に戻ってきた真樹と同棲を始めてうれしかったこと…クレーンゲームでレオパのぬいぐるみを一緒に取ったこと…。「確かに非効率だった……けど、楽しかったな」。目に涙を浮かべる一葉は、真樹への未練を断ち切るように、次の日から猛烈な勢いでコラムを書き始め――。

数日後、リクラ最新号に、一葉が書いたコラムが掲載される。タイトル『恋は野生に学べ』、著者『灰沢アリア』、監修者『椎堂司(北陵大学 動物行動学准教授)』。――『モデルを始めたばかりの時、いつも考えてた。どうしてこんなにも人が人を評価する基準があるんだろ。たった1つなら、それだけを磨き、それだけを競えばいい。だけど基準がたった1つだったら私たちの仕事はもっとずっと退屈になる。選ばれるやつもみんな同じ。そんなの最悪だ。相手によって選ばれたり、選ばれなかったり、だからこの世界は面白い。それは恋愛だって同じ。相手にとって大切な基準を見つけるのが恋の面倒で面白いところだ。あんたがどんな理由でフラれたかは知らないけど、あんたの何が悪かったのかは分かる。相手の大切な基準に気付けなかったことだ。ペンギンたちは皆生まれた時から、自分たちにとって一番大切な基準を知っている。でも人間はそうじゃない。相手の基準を見つけるために、ケンカしたり、無駄な時間やお金を費やしたり、しょうもないささいなことで泣いたり、喜んだりする非効率な生き物だ。でもその非効率さを、私はちょっとだけ愛おしいと思う。きっとその非効率さのことを私たちは恋と呼ぶ。だからあんたも、もう恋なんてしないなんて考えないで、ペンギンを見習って相手にとって大切な基準を見つけることを頑張りな』――。

リクラ最新号は前回よりもわずかながら部数が上がり、SNSのインプレッションも過去最高を記録。特にアリアの恋愛相談コラムが好評だったようだ。この調子で部数を上げれば休刊取り消しに…と思いきや、編集長の藤崎は「次号でこの雑誌がなくなることを大々的に告知します」。かつて人気を博した雑誌が終わるとなれば、世間は必ず食いつくはず。「これを利用すれば、さらに部数が上がるはずです」と恐怖の笑みをたたえる藤崎に、一葉ら編集部は「鬼だ」と戦々恐々…。

コラムを書いて自分と向き合ったことで、なんとなく真樹のことが吹っ切れそうな一葉。真樹の荷物をきれいさっぱり片付け、次の恋でも探そうか、と思っていたら…。真樹が突然帰って来て、「ごめん。引っ越し代ないから、しばらく住ませて」。イラつく一葉は「はぁ!?」。
一方、司は、助手の村上野乃花(片岡凜)から渡されたリクラ最新号をパラパラとめくり、一葉のコラムを開く。コラムの内容には全く興味はないが、著者『灰沢アリア』の文字と顔写真を見て、表情を変える司で――。