本作は、セザンヌがパリ滞在の間に、イタリア人少年の職業モデルを雇って描いた肖像画です。背景の右側に連なる曲線は、緩やかに波打つ布の表現ですが、それとは容易にはわからないくらい抽象化が進められています。いっぽうで、その布の存在や腰に手を当てたポーズ、そして物憂げな表情は、美術史上の過去の肖像画の作例を彷彿とさせます。伝統に敬意を払いながらも、革新的な表現を進めたセザンヌの最良の瞬間の一つが、本作には体現されています。