2021.3.7その20 映画『あなたの瞳に話せたら』上映&配信イベント

鈴江奈々(編成局アナウンス部)

東日本大震災から10年、news every.で宮城県石巻市の大川小学校について取材を進める中で出会った佐藤そのみさん。10年前、大川小学校を襲った大津波で妹を亡くしました。震災前から映画制作に関心をもち、映像制作を学ぶ大学に進学。その卒業制作として選んだテーマが、大川小学校でした。

遺族として複雑な思いを抱えながら向き合い制作したこの作品には、そのみさんにしか届けられないメッセージがありました。私は「この映画を一人でも多くの方に見て頂くことはできないか」という想いを抱くようになりました。

その想いを同じくしていたNPOカタリバ代表の今村久美さんと、佐藤そのみさんと話を進める中で、映画の上映会、そして、これまでの10年、これからについて語らう時間を作れたら…とイベントの企画がスタートしました。

予約できた渋谷の映画館では、感染対策のため集客できても70人ほど。一人でも多くの方に見ていただくため、映画とトークセッションを配信することに。映画館でのイベント運営をカタリバが、配信イベントをよみひと知らずのチームで行うことになりました。
イベント開催にあたり、社内でその意義に共感してくれたメンバーが参加。3月7日イベント当日は、会場と配信合わせて約1000人の方々にご視聴頂きました。

トークセッションでは、佐藤そのみさんと同じ小中高校出身で2歳先輩の永沼悠斗さんに、石巻からリモートで出演していただきました。
あの日、そのみさん、悠斗さんは、大切な妹、弟を亡くしました。それからの10年、「被災者」「遺族」と呼ばれること、多くのメディアのカメラを向けられたことで生まれた葛藤や悩みを、率直に語ってくださいました。そして、これからは「本当の自分」の人生を歩んできたい…。そんな思いを語り合い、会場からの感想や配信のチャット欄には、温かな応援のメッセージに包まれました。

10年が経ち大人になったからこそ言葉にできたこと、向き合えることがある。そして、同じ10年でも、その歩みのスピードは、人それぞれ。そのみさんは「まだ苦しい状況から脱することができていない人たちにとって、このイベントが前向きな気持ちになれるきっかけになっていたら…」と話しました。
そのみさん、悠斗さんが今回お話してくださったことで、東北から離れて暮らす私たちにとって多くの気づきがありましたし、きっと誰かの背中をそっとおすきっかけになったのではと感じます。

10年は大きな節目ではあるけれど、終わりではありません。これからも、それぞれの歩みに心を寄せて、わずかばかりでも応援できることを続けていきたいと思います。

星川英紀(報道局映像取材部)

「よみひと知らず」は災害などで困っている方のためのイベントです。
しかし、私個人としては、ある別のテーマも持って取り組んでいます。
それは、「我々も何かを学んで帰る」ということです。
しつこいですが、あくまでも私個人のテーマです。

災害に遭われた方の貴重な時間をお借りする以上、「あー、良いことしたな」で終わるのではなく、今後に生かせる何かを学んで帰りたいのです。
これまでは被災地にお邪魔して現場を拝見し、取材とは違う形でお話をうかがうことで、様々なことを教えていただきました。
しかし、コロナ禍の今では、東京から現場にお邪魔することはできません。

そんな中、映画とトークライブを配信することはできないか、というお話をいただきました。
我々は撮影に関してはそれなりの技術はありますが、配信の経験は多くありません。
「簡単なものならなんとか・・・」と、我々の技術でできる範囲のことをさせていただこうと思っていました。しかし他部署から、配信にとても詳しいスタッフが加わってくれることになりました。
彼はきっと何か他の分野のプロなのですが、配信に関して希望を言えばなんでも叶えてくれるので、私にとっては配信のプロを超え、配信界のドラえもんのような存在です。

彼とカメラが1台あれば、配信はできます。
しかし、映画を制作した佐藤そのみさんのお話をうかがい、現場を下見したところ、「できるだけ良いものを届けたい」という血が騒いでしまいました。
結果的に、テレビカメラ3台に加え、インターネットに精通した報道局デジタル担当チームの有志も参加して、10名の技術スタッフで配信を行うことになりました。

今回のイベントの難しさは、映画館に観客が入り、配信も行うというハイブリッド型になることでした。加えて、リモートで永沼悠斗さんが参加してくれるので、それぞれに向けて少しずつ違う種類の音声を作らなければいけません。これがうまくいかないと、カラオケボックスでスピーカーが「キーン」となる、ハウリングという現象が起きるなど、イベントが台無しになってしまいます。
通常であればスタジオにある大きい機材で対応するのですが、今回は持ち込めません。
技術スタッフが知恵をしぼり、持ち寄ったケーブルを複雑に繋ぎ合わせてシステムを構築しました。
さまざまなトラブルも起き、舞台裏はバタバタの中、イベントはスタートしました。
しかし、映画の上映に続き、そのみさんがステージに上がると、会場の雰囲気は一変しました。
緊張しながらも、映画に込めた思いを一生懸命に語るそのみさん。リモート出演の難しさを感じさせず、大川小の思い出も語ってくれる悠斗さん。
会場の観客は、その一言も聞き漏らすまいと、真剣に耳を傾けます。
それは、舞台裏の我々も同じでした。
彼らの思いをインターネットの向こうにいるみなさんに少しでも伝えたい。カメラマンは気持ちを込めて、落ち着いたカメラワークでそのみさんたちの真剣な表情を撮影。映像の切り替えもできるだけ減らして、じっくりと視聴できるよう心がけました。

アクセス先を表示する画面には、日本各地だけでなく、台湾やマレーシア、ドイツなど世界中の地名が並び、コメント欄にはさまざまな思いが寄せられました。
その質問をそのみさんに投げかけ、会場にいない方ともやりとりしてもらうことができました。

配信された映像を見ると、一般的なYouTubeのクオリティとは一線を画すものになっていると思います。
しかし、通常のテレビ中継よりはかなり少ないスタッフで配信することができ、
ネットとテレビの中間の、ハイブリッドな配信になりました。
これは、よみひと知らずの新しい形のベースになっていく予感がしています。

困っている方に喜んでいただき、我々も学ばせていただく。

ご協力いただいたみなさんのお陰で、貴重な経験をさせていただきました。
ありがとうございました。

そして、そのみさんの次回作をとても楽しみにしています。

参加者(日本テレビ)
オンライン配信担当:星川英紀、久野崇文、加藤聡、呉本謙勝、松坂くるみ
カメラ・音声担当 :小林正樹、奥山国重、石垣稜、馬場正幸、林道生、奥村翼
司会進行担当   :鈴江奈々
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