沖縄県・石垣島。

○櫻井
「八重山戦争マラリア犠牲者慰霊之碑と書かれていますね」

慰霊碑には…

○櫻井
「３０００人あまりが無念の死を遂げる」

マラリア原虫をもった蚊に刺されることで感染する「マラリア」。

高熱や震えなどの症状が出て、死に至ることもあります。

当時、石垣島など八重山地域の山間部ではマラリアがまん延。

そこに旧日本軍が、島民を強制避難させたことで
“戦争マラリア”と呼ばれる悲劇が起きました。

自らも感染した島民を訪ねました。
田本徹さん８５歳。

当時７歳だった田本さんは、
マラリアによって、母や妹・弟を亡くしました。

○“戦争マラリア”で家族を亡くした田本徹さん（８５）
「母をこんな状態で逝かせた。本当につらいですよね…」

石垣島で何が起きていたのか。

１９４５年。沖縄本島では、し烈な地上戦が展開され、
沖縄本島から４００キロ以上離れた石垣島も
軍の飛行場があったため、空襲をうけていました。

そうしたなか…

○“戦争マラリア”で家族を亡くした田本徹さん（８５）
「妹が帰ってきてマラリアにかかった」

山間部に手伝いに出ていた６歳の妹・静子さんが
マラリアに感染し、亡くなりました。

○“戦争マラリア”で家族を亡くした田本徹さん（８５）
「母が『静子！静子！』と叫んで…。
　いつまでも消えないんですよ。光景が…」

時を同じくして島への攻撃が激化。
そして、軍から“ある命令”が…。

○“戦争マラリア”で家族を亡くした田本徹さん（８５）
「『一般住民は山岳部へ避難しなさい』と命令が出たわけです。強制ですからね」
○櫻井
「『このあたりにいるな。山の方へ行ってくれ』と」
○“戦争マラリア”で家族を亡くした田本徹さん（８５）
「そう。しかも軍はこの島はマラリアの島だと知っていた。
　知りながら追いやった。『山へ行って死になさい』ということですよ」
○櫻井
「行かないという選択肢は事実上ない？」
○“戦争マラリア”で家族を亡くした田本徹さん（８５）
「軍の命令は絶対」

田本さん一家が避難した、まさにその場所を案内してもらいました。

○“戦争マラリア”で家族を亡くした田本徹さん（８５）
「あの左側に避難小屋があった」
ここはジャングルだった。この山の続きみたいな」
○櫻井
「うっそうとしていたんですね」

食料もなく過酷な生活がつづくなか、母がマラリアに感染。

○“戦争マラリア”で家族を亡くした田本徹さん（８５）
「震えと高熱で苦しめられて。私は一生懸命看護しました」
「寝返りする力もない。背中はもう床ずれで、ただれ落ちている状態。
　悲惨ですよ……」

田本さんの母は、およそ１か月、
マラリアで苦しみながら、亡くなったといいます。

しかし周りでもたくさんの人が亡くなっていたため、
火葬をすることができず…。

○“戦争マラリア”で家族を亡くした田本徹さん（８５）
「このあたりじゃないかな。そこで土葬して
  終戦後掘り出して、ここで山の枯れ木を積んで母を火葬した」

さらに生後４か月だった弟は、
母が亡くなったことで栄養失調となり、亡くなりました。

なぜ旧日本軍は、
マラリアがまん延している山間部への強制避難を命じたのか。

八重山平和祈念館にある旧日本軍・東畑広吉参謀長の手記には、
「島民に被害が出ないよう
　また戦闘の妨害にならないよう命令した」と書かれていました。

一方で、「島民が避難したあと家畜を軍の食料にするため」
さらには、
「島民が捕虜になり軍の情報が漏れないようにするため」といった
島民などの証言も残っています。

八重山地域では、戦争マラリアで３６４７人が犠牲に。
その数は、空襲など直接戦争で亡くなった１７８人の
およそ２０倍にのぼります。

戦後、音楽大学を出て声楽家として生きてきた田本さん。

“戦争マラリア”の体験を歌にして、伝え続けています。

「あの夏の日に」（戦争マラリア鎮魂歌　作詞・作曲　田本 徹）
歌詞「高熱と震えに苦しみ続けた母」

○櫻井
「歌いながら、心削るじゃないですけど
　ご自身にも迫るものが、歌うたびにあると想像するんですが？」
○“戦争マラリア”で家族を亡くした田本徹さん（８５）
「その通りですよ」
○櫻井
「歌いながらつらい？」
○“戦争マラリア”で家族を亡くした田本徹さん（８５）
「つらいです。歌いたくないです本当は」
○櫻井
「それでもやっぱり伝えていかないといけない？」
○“戦争マラリア”で家族を亡くした田本徹さん（８５）
「なんでこんな歌を自分で作ったんだと、自問自答して」

今月２３日「慰霊の日」を迎える沖縄。

○“戦争マラリア”で家族を亡くした田本徹さん（８５）
「絶対にあの時代に戻してはいけない。
   二度と過ちを犯してはいけない」