「北登 はじめての上京」

北登が10歳にして初めて上京した。
一番長く村にいて村を見守る僕の大先輩の北登だったけれど、僕が心配したのは、村の環境で育った北登が見た事もないような高層ビルが建ち並ぶ風景やそこを行き交う数えきれない人に驚き戸惑ってしまうのではないかということ。正直、東京出身の僕自身でさえ、久しぶりの東京の高層ビル群や人の多さにドキドキしていた。けれど、当の北登は東京の街を歩いてみても、意外と堂々としていた。好奇心旺盛な性格からか、辺りをキョロキョロと見回してはいるが、緊張している様子も戸惑っている様子もあまり見られなかった。むしろ、東京に馴染んでいるようにも見えたので、僕の大先輩はさすがの貫禄だった。

そんな北登が初上京したのは、総合検査を受けるため。去年の9月に10歳になった北登は、人間で言うと55歳前後。今回、高齢期に差し掛かるのを機に体を隅々まで検査してもらう事にした。村にいる時も牧草地を走り回るとなかなか止まらなかったりと、まだまだやんちゃな所も多く元気なのだが、少々白髪も増えた気がするし、ばてる時間も早くなった気がする。
色々と検査してもらっている間、何か異状が見つかったらどうしようと心配しながら待っていたが、検査の結果は特に異常は見られず、ストレスも全くないとのことだったので、ほっと胸をなで下ろした。けれど、今後さらに年を取るにつれて、足腰が弱くなり、筋力・体力もさらに落ちていくそうなので、今から栄養が豊富な食材を使った料理をあげた方がいいなどのアドバイスを頂いた。




村に戻り、アドバイスを参考に北登に料理をつくった。鮭をまるまる一匹、6時間コトコトと骨まで柔らかくなるほど煮込んだ水煮と、食物繊維やカルシウムが豊富な干し大根と玄米を使ったおじや。匂いに誘われた北登はつくっている最中から待ちきれない様子だった。
6時間待ち、さらに冷めるまでもう数十分。待ち望んだ北登は一気に完食した。

今週初めに村は今季最低気温の−10℃を記録したが、さらに元気になった北登はそんな寒さをもろともせずに相変わらず村中を走り回っている。犬は人間と比べ5倍早く年を取るらしいが、北登には、これからも栄養豊富な食事と適度な運動で、いつまでも変わらずわんぱく坊主でいて欲しい。

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